今敏
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彼が見た映画の9割はアメリカ製のもので、彼は「自分なりの映像の文体はハリウッド映画から大いに学んできた」と語っている[28][62]。ただし特定の作品や特定の監督だけに影響を受けたということはなく、見たことのある映画すべてから少しずつ影響されたのだという[22][75]。具体的な例としては『千年女優』の中で、黒澤明の『蜘蛛巣城』や小津安二郎の映画、チャンバラ物のヒーロー「鞍馬天狗」、あるいは日本の大スター 「ゴジラ」のイメージを借用しているシーンなどがあり、それと知らずに何らかの映画からイメージを借りているところもあるという[75]。あくまで映画の中の彩りという意味合いが強いそれらに対し、「千年女優」に直接的に影響を与えているのはジョージ・ロイ・ヒル監督の「スローターハウス5」(原作はカート・ヴォネガットの小説)を挙げている[28][75]。主人公を追いかけながら映画の中でさまざまな場所や時間が同時に表現されていることにとても感銘を受けたという[28]。学生時代に最も影響を受けたのも、1本の映画ではなく、テリー・ギリアムの作品群だった。ファンタジーでありながら描写は辛辣で、あらゆる点を詳細に説明するのではなく、全く別の場所に演出を移して、一つのテーマを鮮やかに描き出すところが気に入った。特に好きな彼の作品は『時の山賊』『ブラジル』『ミュンヒハウゼン男爵の冒険』[22]。ただし、今が映画作家としてその作品やそれにまつわる書籍等に最も多く目を通したのは黒澤明である[62]

小説に関しては、歴史小説の大家である司馬遼太郎の作品群に触れたことが自身と日本の関係を考える上で大きな影響があった[63]。また海外での翻訳の多い村上春樹の小説にも非常に刺激を受けた[63]。小説を読む前に映画『ブレードランナー』を見たフィリップ・K・ディックに関してはすべての作品を読んだわけではないが、好んで読む作家の一人であり、彼の影響で悪夢のイメージにとても興味を持つようになった[28][34]。『パプリカ』を監督する前から筒井康隆の作品のファンで、特に二十歳前後の頃に集中的に筒井作品を読んで大きな影響を受けたという[76]。それは、自分でもどこをどう影響されたのか分からないくらい、物を作るための根本的な部分での影響だったという[76]。筒井康隆作品の魅力は「常識からの逸脱」、つまり常識外のものを常識的に組み合わせる、あるいは常識内のものを非常識な仕方で組み合わせるような捩れにこそあるという。彼が筒井の諸作品に学んだことは、「常識という枠組みを疑え」ということ。多くの人が共有しているであろう常識内で世界観を構築したところで、結局は常識の範囲にとどまるものにしかならないからである[63]
評価

日本国内だけでなく、その功績は海外からも高い評価を受け、世界中に数多くのファンを持つ[19][77]。2010年に46歳の若さで他界した際、その衝撃は日本のみならず世界に広がり、ロサンゼルス・タイムズがサイトのトップで顔写真を添えて訃報を伝え、ニューヨーク・タイムズも長文の追悼記事を掲載した[38]。その評価の高さは、米タイム誌が発表した「2010年を代表する人」特集のFond Farewells部門(同年に亡くなった人を紹介する部門)で、J・D・サリンジャーなどと並んで選出されたことでもうかがえる[19][77]。国内外の歴代名作映画のランキングにたびたび作品が挙がるのもその1つ。2008年の米国ニューズウィーク誌日本版が選んだ歴代映画ベスト100には『パプリカ』が日本アニメから唯一選ばれた[78]。2014年の英国の名門映画雑誌「トータルフィルム」による歴代アニメーション映画ベスト75には『パーフェクト ブルー』『千年女優』『東京ゴッドファザーズ』と3作品もラインアップされた[78]。2020年にも米国批評サイト「ロッテン・トマト」のアニメーション映画ベスト60に『千年女優』が、英国映画協会による最も優れた日本映画の2006年作品に『パプリカ』が入るなど、こうした選出は数え切れない[78]

カナダ・モントリオールで開催されるファンタジア国際映画祭は今敏監督の功績を讃え、2012年よりアニメーション部門の最高賞を「今 敏賞」という名前で呼ぶことにした[19][78]。2019年にアニー賞[注 2]のウィンザー・マッケイ賞(生涯功労賞)を受賞した[38][78]

今敏は、その死後も世界中のクリエーターに大きな影響を与えている[80]。彼のリアリスティックな映像表現や鮮やかなカッティングに影響を受けた作家や作品は実に多く、その影響は世界中の至る所で見受けられ、存命であればシルヴァン・ショメと並んでアカデミー賞の筆頭候補になっていたであろうとも言われる[81]

特に今の場合、海外の映画監督への影響が顕著で[78][80]、数々の映画賞に輝いたサイコスリラー映画『ブラック・スワン』の監督として知られるダーレン・アロノフスキーもまた、彼から大きな影響を受けた一人である[19][27][77]。彼は特に『PERFECT BLUE』に強い影響を受けており[27]、2001年に行われた今との対談で、代表作の一つで自身の監督・脚本による『レクイエム・フォー・ドリーム』に出てくる『PERFECT BLUE』に影響されたようなシーンや丸ごと真似たようなカットが全てオマージュであることを認めている[82]。その際、今はアロノフスキーに彼が『PERFECT BLUE』の実写化権を買ったという噂についても聞いているが、それについてアロフスキーは「契約実現のために具体的な値段の交渉もしていたが、『アロノフスキー以外が監督することはない』という条件を盛り込めなかったことなどが原因で契約に至らなかった」と答えている[82]。その時にアロノフスキーは今に対し、まだ『PERFECT BLUE』を実写化したいと思っている旨を伝えている[82]。また代表作『ブラック・スワン』は、本国アメリカでは『PERFECT BLUE』から強い影響を受けていると批評家の間で評判になった[77]。そしてクリストファー・ノーラン監督・脚本・製作による2010年のアメリカ映画『インセプション』も、今の『パプリカ』からビジュアル的なインスピレーションを受けていることが濃厚に見て取れる[80][83]

それ以外にも、CGアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』共同監督のボブ・ペルシケッティピーター・ラムジーロドニー・ロスマン、第92回アカデミー賞にノミネートされたフランス制作のNetflixオリジナルアニメ『失くした体』の監督ジェレミー・クラパン(フランス語版)、韓国の実写ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』で知られるアニメ監督のヨン・サンホ[注 3]台湾のアニメ映画『幸福路のチー』の脚本と監督を兼任したソン・シンイン (宋欣穎)(中国語版)[注 4]など、気鋭の監督が多数いる[52][80][81]


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