今敏
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

制作費はおおよそ数億円[34]と日本の一般的なアニメの制作費を考えればはるかに少ないが、これについて「低予算でも質の高い作品が製作できるのは、スタッフの賜物である」と述べている[58][59]
作風

「虚構と現実の混淆」という主題は今敏作品を象徴するキーワードであり、『PERFECT BLUE』から『パプリカ』、そして遺作となった短編『オハヨウ』までの各作品の中で、様々なアプローチで「虚構と現実」の関係を描いている[37][60]。『PERFECT BLUE』では次第に虚構と現実の境界が曖昧になっていく様子が描かれ、騙し絵のような世界が繰り広げられた『千年女優』や夢の中に入ることを可能にする装置のおかげで夢の世界に出入りすることが出来る『パプリカ』では虚構と現実が最初から継ぎ目なく繋がり、登場人物が虚構と現実を自在に往還する姿が描かれた[33][38]。あらすじだけ見ると「虚構と現実」のモチーフは取り扱われていないように見える『東京ゴッドファーザーズ』も、リアルに描かれているように見える現実の東京のホームレスの生活の中に「奇跡と偶然」という「虚構」が次々と入り込んでくる[61]

キャラクターデザインやその表現方法から、一見すると、今作品はリアル志向のように見える[61]。実際、それぞれの作品はレイアウトの段階から今の手が入っており、空間的な正確性、人物のデッサンなどの点で確かにリアルに見えるように出来上がっている[61]。だが今が目指しているのは、「『あたかも現実のように見える風景・人物』を描き出すこと」ではなく、「『現実のように見える風景・人物』が、ふいに『虚構』や『絵』であることを露わにしてしまう瞬間を描くこと」である[61]。大友作品や押井作品などスタッフとして参加した作品ではリアリティを獲得するために発揮したそのリアルな世界を描き出す力を、自身の作品では「現実から虚構への転換」という落差を最も効果的に見せるために活用している[61]。今作品のリアルに見える世界はリアルなままであることはなく、突然、見知らぬ世界へと変容し、観客を幻惑するためのものである[17]
影響

アーティスト、芸術家、文人などの中で、今の表現スタイルに最も影響を与えたのは平沢進の音楽である[62][63]。平沢の音楽や制作への態度に多くを学び、自分の作る物語や構想は彼の影響に負うところが大きいと語っていた[20][64]。映画をフラクタル的に統御する発想は、音楽制作にフラクタルを生成させるプログラムを応用している平沢進に由来する[65][66]。また平沢の歌詞をきっかけにユング心理学や日本でのその第一人者である河合隼雄の古来から伝わる神話昔話を心理学的に読み解く著作に興味を持ち、そのことがストーリー作りや演出に大きな影響を与えた[63]。『パーフェクトブルー』から企画段階で中断している『夢みる機械』までのすべての作品は平沢進の楽曲からインスピレーションを受けている[41][67][68][69][70][71]。今の葬儀の際、出棺時には『千年女優』のテーマソングだった平沢の楽曲「ロタティオン (LOTUS-2)」が使用された[41][72]

今は、人生で触れてきた文章や絵画や音楽、映画、漫画、アニメ、テレビ、演劇などすべてのものから影響を受けていると語っている[63]。漫画なら手塚治虫大友克洋、アニメなら宮崎駿、映画なら黒澤明を始め国内外のあまたの監督の名画に多くのことを学んだ[63]

子供のころに慣れ親しんでいたのは『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『リボンの騎士』等の手塚治虫のマンガやアニメーション作品だった[9]

アニメ作品では、中学・高校の頃に当時のアニメファンが夢中になっていた『宇宙戦艦ヤマト』『アルプスの少女ハイジ』『未来少年コナン』『銀河鉄道999』『機動戦士ガンダム』といった作品を熱心に見ていた[9][54][63][73]

大友克洋の影響は強く、特に感化された作品は『童夢』と『AKIRA』で、特に『童夢』は「読んだことのあるマンガの中で1本だけ映画を作ってもいいならそれがいいと思った」と言うほどである[9][22]。また高校生の時に大友らが始めたニューウェイブのムーブメントに影響を受け、自分で漫画を描こうという気になった[9]。それまでのマンガになかったリアリズムを湛えた作品や本来は物語の主人公には絶対になりえない人物に焦点を当てて特に何も起こらない話を圧倒的な描写力で描くというそのやり方に触れて啓蒙された[9][57]。自身の絵についても、漫画家時代に大友のアシスタントをしながら活動していたせいもあってか、絵柄にその影響を受けていると語っている[27]。また絵については、アニメ業界に入ってからはアニメーターの沖浦啓之井上俊之本田雄安藤雅司、美術設定の渡部隆などに多大な影響を受けたとしている[74]

大学に入ってからは実写映画ばかりを見ていた[22]。ほとんどの作品をビデオで見て、シーンの設定やフォーマット、演出などを参考にして漫画を描くことを日課にしていた[22]。彼が見た映画の9割はアメリカ製のもので、彼は「自分なりの映像の文体はハリウッド映画から大いに学んできた」と語っている[28][62]。ただし特定の作品や特定の監督だけに影響を受けたということはなく、見たことのある映画すべてから少しずつ影響されたのだという[22][75]。具体的な例としては『千年女優』の中で、黒澤明の『蜘蛛巣城』や小津安二郎の映画、チャンバラ物のヒーロー「鞍馬天狗」、あるいは日本の大スター 「ゴジラ」のイメージを借用しているシーンなどがあり、それと知らずに何らかの映画からイメージを借りているところもあるという[75]。あくまで映画の中の彩りという意味合いが強いそれらに対し、「千年女優」に直接的に影響を与えているのはジョージ・ロイ・ヒル監督の「スローターハウス5」(原作はカート・ヴォネガットの小説)を挙げている[28][75]。主人公を追いかけながら映画の中でさまざまな場所や時間が同時に表現されていることにとても感銘を受けたという[28]。学生時代に最も影響を受けたのも、1本の映画ではなく、テリー・ギリアムの作品群だった。ファンタジーでありながら描写は辛辣で、あらゆる点を詳細に説明するのではなく、全く別の場所に演出を移して、一つのテーマを鮮やかに描き出すところが気に入った。特に好きな彼の作品は『時の山賊』『ブラジル』『ミュンヒハウゼン男爵の冒険』[22]。ただし、今が映画作家としてその作品やそれにまつわる書籍等に最も多く目を通したのは黒澤明である[62]

小説に関しては、歴史小説の大家である司馬遼太郎の作品群に触れたことが自身と日本の関係を考える上で大きな影響があった[63]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:144 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef