カナダ・モントリオールで開催されるファンタジア国際映画祭は今敏監督の功績を讃え、2012年よりアニメーション部門の最高賞を「今 敏賞」という名前で呼ぶことにした[19][78]。2019年にアニー賞[注 2]のウィンザー・マッケイ賞(生涯功労賞)を受賞した[38][78]。
今敏は、その死後も世界中のクリエーターに大きな影響を与えている[80]。彼のリアリスティックな映像表現や鮮やかなカッティングに影響を受けた作家や作品は実に多く、その影響は世界中の至る所で見受けられ、存命であればシルヴァン・ショメと並んでアカデミー賞の筆頭候補になっていたであろうとも言われる[81]。
特に今の場合、海外の映画監督への影響が顕著で[78][80]、数々の映画賞に輝いたサイコスリラー映画『ブラック・スワン』の監督として知られるダーレン・アロノフスキーもまた、彼から大きな影響を受けた一人である[19][27][77]。彼は特に『PERFECT BLUE』に強い影響を受けており[27]、2001年に行われた今との対談で、代表作の一つで自身の監督・脚本による『レクイエム・フォー・ドリーム』に出てくる『PERFECT BLUE』に影響されたようなシーンや丸ごと真似たようなカットが全てオマージュであることを認めている[82]。その際、今はアロノフスキーに彼が『PERFECT BLUE』の実写化権を買ったという噂についても聞いているが、それについてアロフスキーは「契約実現のために具体的な値段の交渉もしていたが、『アロノフスキー以外が監督することはない』という条件を盛り込めなかったことなどが原因で契約に至らなかった」と答えている[82]。その時にアロノフスキーは今に対し、まだ『PERFECT BLUE』を実写化したいと思っている旨を伝えている[82]。また代表作『ブラック・スワン』は、本国アメリカでは『PERFECT BLUE』から強い影響を受けていると批評家の間で評判になった[77]。そしてクリストファー・ノーラン監督・脚本・製作による2010年のアメリカ映画『インセプション』も、今の『パプリカ』からビジュアル的なインスピレーションを受けていることが濃厚に見て取れる[80][83]。
それ以外にも、CGアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』共同監督のボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン、第92回アカデミー賞にノミネートされたフランス制作のNetflixオリジナルアニメ『失くした体』の監督ジェレミー・クラパン(フランス語版)、韓国の実写ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』で知られるアニメ監督のヨン・サンホ[注 3]、台湾のアニメ映画『幸福路のチー』の脚本と監督を兼任したソン・シンイン (宋欣穎)(中国語版)[注 4]など、気鋭の監督が多数いる[52][80][81]。また中国でも『紅き大魚の伝説(大魚海棠)』(Netflix)の原作・脚本・監督の梁旋(リャン・シュエン)のように今敏に影響を受けた/今敏を好きだというアニメ業界人・ファンは実に多く、中国アニメ初のベルリン国際映画祭コンペティション部門出品作となった『大世界 Have a Nice Day(原題)』を監督した劉健の処女作『刺痛我(Piercing I)』にも影響が見受けられる[80]。
もちろん、日本のアニメ業界のクリエイターからも一目も二目も置かれているのは、唯一のテレビシリーズ『妄想代理人』(2004年)に結集したスタッフを見れば一目瞭然である[80]。アニメではアニメーターが役者の役割を担っているということを考えると、『妄想代理人』は「空前絶後のオールスターキャスト」と言っても過言ではない[注 5][80]。
今の名前が本格的に世に出たきっかけは、1998年の『PERFECT BLUE』であることは確かである[18]。