今敏
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その評価の高さは、米タイム誌が発表した「2010年を代表する人」特集のFond Farewells部門(同年に亡くなった人を紹介する部門)で、J・D・サリンジャーなどと並んで選出されたことでもうかがえる[19][77]。国内外の歴代名作映画のランキングにたびたび作品が挙がるのもその1つ。2008年の米国ニューズウィーク誌日本版が選んだ歴代映画ベスト100には『パプリカ』が日本アニメから唯一選ばれた[78]。2014年の英国の名門映画雑誌「トータルフィルム」による歴代アニメーション映画ベスト75には『パーフェクト ブルー』『千年女優』『東京ゴッドファザーズ』と3作品もラインアップされた[78]。2020年にも米国批評サイト「ロッテン・トマト」のアニメーション映画ベスト60に『千年女優』が、英国映画協会による最も優れた日本映画の2006年作品に『パプリカ』が入るなど、こうした選出は数え切れない[78]

カナダ・モントリオールで開催されるファンタジア国際映画祭は今敏監督の功績を讃え、2012年よりアニメーション部門の最高賞を「今 敏賞」という名前で呼ぶことにした[19][78]。2019年にアニー賞[注 2]のウィンザー・マッケイ賞(生涯功労賞)を受賞した[38][78]

今敏は、その死後も世界中のクリエーターに大きな影響を与えている[80]。彼のリアリスティックな映像表現や鮮やかなカッティングに影響を受けた作家や作品は実に多く、その影響は世界中の至る所で見受けられ、存命であればシルヴァン・ショメと並んでアカデミー賞の筆頭候補になっていたであろうとも言われる[81]

特に今の場合、海外の映画監督への影響が顕著で[78][80]、数々の映画賞に輝いたサイコスリラー映画『ブラック・スワン』の監督として知られるダーレン・アロノフスキーもまた、彼から大きな影響を受けた一人である[19][27][77]。彼は特に『PERFECT BLUE』に強い影響を受けており[27]、2001年に行われた今との対談で、代表作の一つで自身の監督・脚本による『レクイエム・フォー・ドリーム』に出てくる『PERFECT BLUE』に影響されたようなシーンや丸ごと真似たようなカットが全てオマージュであることを認めている[82]。その際、今はアロノフスキーに彼が『PERFECT BLUE』の実写化権を買ったという噂についても聞いているが、それについてアロフスキーは「契約実現のために具体的な値段の交渉もしていたが、『アロノフスキー以外が監督することはない』という条件を盛り込めなかったことなどが原因で契約に至らなかった」と答えている[82]。その時にアロノフスキーは今に対し、まだ『PERFECT BLUE』を実写化したいと思っている旨を伝えている[82]。また代表作『ブラック・スワン』は、本国アメリカでは『PERFECT BLUE』から強い影響を受けていると批評家の間で評判になった[77]。そしてクリストファー・ノーラン監督・脚本・製作による2010年のアメリカ映画『インセプション』も、今の『パプリカ』からビジュアル的なインスピレーションを受けていることが濃厚に見て取れる[80][83]

それ以外にも、CGアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』共同監督のボブ・ペルシケッティピーター・ラムジーロドニー・ロスマン、第92回アカデミー賞にノミネートされたフランス制作のNetflixオリジナルアニメ『失くした体』の監督ジェレミー・クラパン(フランス語版)、韓国の実写ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』で知られるアニメ監督のヨン・サンホ[注 3]台湾のアニメ映画『幸福路のチー』の脚本と監督を兼任したソン・シンイン (宋欣穎)(中国語版)[注 4]など、気鋭の監督が多数いる[52][80][81]。また中国でも『紅き大魚の伝説(大魚海棠)』(Netflix)の原作・脚本・監督の梁旋(リャン・シュエン)のように今敏に影響を受けた/今敏を好きだというアニメ業界人・ファンは実に多く、中国アニメ初のベルリン国際映画祭コンペティション部門出品作となった『大世界 Have a Nice Day(原題)』を監督した劉健の処女作『刺痛我(Piercing I)』にも影響が見受けられる[80]

もちろん、日本のアニメ業界のクリエイターからも一目も二目も置かれているのは、唯一のテレビシリーズ『妄想代理人』(2004年)に結集したスタッフを見れば一目瞭然である[80]。アニメではアニメーターが役者の役割を担っているということを考えると、『妄想代理人』は「空前絶後のオールスターキャスト」と言っても過言ではない[注 5][80]

今の名前が本格的に世に出たきっかけは、1998年の『PERFECT BLUE』であることは確かである[18]。海外での活躍は格別で、ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に正式招待されたのをはじめ、ファンタ・アジア映画祭(現ファンタジア映画祭)グランプリやアヌシー国際アニメーション映画祭シッチェス・カタロニア国際映画祭と、最終的には50を超える国際映画祭で紹介された[18][38]。2020年現在でこそ日本の長編アニメは世界中の映画祭で引っ張りだこであるが、1990年代後半では異例のことだった[18]。当時、『パーフェクト・ブルー』は各映画祭で絶賛され、ハリウッドのダーレン・アロノフスキー監督が実写リメイクの撮影を検討するなど、高い評価を受けていた。しかし、その時点での今の評価は、日本アニメを好きなコアな映像関係者やファンの一部にとどまっていた[86]。メディアや映像分野の論者からの扱いは限定的で、あくまでヤングアダルト向け日本アニメの傑作の1つという扱いだった[86]。本格的に認知が高まるには、2002年の『千年女優』、2003年の『東京ゴッドファザーズ』の公開を待たねばならなかった。ここで再び映画監督として作品発表したことが意味を持った[87]

日本のアニメ業界には大勢の実力派監督がいるが、海外で名前が言及されるのは、宮崎駿、高畑勲、大友克洋、押井守といった映画を主な表現の場とする監督の名前である[35]。海外ではテレビシリーズよりも映画に作家性が現れるとして、映画監督に対する批評を重視する傾向が強い[35]。そのことがOVAで評価を高めた川尻善昭や、当時はテレビシリーズが活躍の中心であった庵野秀明との知名度の差にもなっている[35]。今の場合も、最初の『PERFECT BLUE』、それに続く2作品が映画だったために「今敏は映画監督である」と世界的に認知され、それによって前者に並ぶ1人になった[35]。今敏のドキュメンタリー映画『今敏 イリュージョニスト』を監督したパスカルアレックス・バンサンによれば、フランスで映画を学ぶ若者の多くが今敏を好きな監督の一人に挙げており、『インセプション』などの作品を好きになって調べるうちにたどり着くというパターンが多いという[88]

海外先行とされている今の評価だが、実際は海外でも多く語られるようになったのは2000年代前半の『千年女優』『東京ゴッドファザーズ』公開時からであり、さらに批評家や研究者が積極的に語るようになったのは2000年代後半以降になってからのことである[86]。今に関する最も早い主要な論文は、2006年に米国の研究家スーザン・ネイピアが発表した『Excuse Me, Who Are You?: Performance, the Gaze, and the Female in the Works of Kon Satoshi』で、その後2010年代になって研究論文・批評は急激に増えていく[86]。生前も海外での今に対する賛辞は数え切れないほどあったが、今の数々の栄誉や評価は亡くなる直前あるいはむしろ没後のものである[86]


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