人工呼吸
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1856年のイギリスの医師で生理学者のマーシャル・ホール(英語版)の著作では、いかなる種類の蛇腹/陽圧換気も使用しないことが推奨されており、この見解は数十年にわたって支持された[26]。1858年に登場した外部からの徒手操作の一般的な方法は、ヘンリー・ロバート・シルベスターが考案した「シルベスター法」で、患者を仰向きに寝かせて腕を頭上に上げて吸気を助け、次に胸部に押しつけて呼気を促すという方法だった。もう一つの手技である「伏臥位圧迫法」は、1903年にエドワード・シェイファー(Edward Sharpey Schafer)(英語版)卿によって紹介された[27]。これは患者をうつ伏せにして、肋骨の下部を圧迫するものである。この方法は、赤十字や同様の救急マニュアルで何十年にもわたって教えられてきた人工呼吸の標準的な方法であり[28]、20世紀半ばに口対口人工呼吸(英語版)が普及するまで続いた[29]

徒手操作の欠点から、1880年代の医師たちは、改良方法として用手換気を考案した。例えば、気管切開に空気を通すための蛇腹(ベローズ)と呼吸弁からなるジョージ・フェル博士(英語版)の「フェル法」または「フェル・モーター」[30]がある。彼はジョセフ・オドワイヤー(英語版)博士と共同で、患者の気管にチューブを挿入・抜去するための器具と蛇腹より成るフェル・オドワイヤー装置も発明した[31][32]。しかし、こうした方法はまだ有害とみなされ、長年採用されることはなかった。米国のポリオ患者が1950年代から2003年まで使用した鉄の肺(iron lung)。
陰圧換気の時代

1930年代、首から下の全身を機械の中に入れ、その機械の中を陰圧(大気圧未満)として胸腔空気が吸入されるようにするという「鉄の肺」が開発された[33]。しかし、これは大掛かりな設備であり、治療を受けられる患者の数は限られていた。
ポリオの大流行と陽圧換気の再評価

長期人工呼吸の「出発」とも言えるのは、1952年のコペンハーゲンにおける急性灰白髄炎(ポリオ)の大流行による、小児麻痺への対応である。呼吸筋を動かす中心である脊髄前角が、ポリオウイルスによって冒されたため、子供たちは充分な呼吸ができず、次々と亡くなっていった[34]

これに対し、当時最も効果的な治療法であった「鉄の肺」は患者数に対して絶対的に不足していたため、やむを得ず気管切開を行い[注釈 1]麻酔器を用いて用手換気による人工呼吸を行うしかなかった。すると、鉄の肺を用いての呼吸管理は約80%の死亡率であったのに対し、麻酔器を用いて人工呼吸処置を受けた患者は約75%が救命された。しかしながら、莫大なマンパワーが必要で、この間、医学部の授業は中断され、当地の医学部の学生1400人が用手換気に駆り出された[34][36][37]。この時期以降、現代の人工呼吸器の主流である、陽圧式の機械式の人工呼吸器の開発が急速に進められていった[38][39][37]

以後の歴史については人工呼吸器の歴史を参照。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 小児への気管切開は、合併症のリスクと管理の難しさから現在でも適応に慎重な判断が求められる[35]。当時は、医療者には相当な葛藤があったと考えられる。

出典^ “medilexicon.com, Definition: 'Artificial Ventilation'”. 2016年4月9日時点の ⇒オリジナルよりアーカイブ。2016年3月30日閲覧。
^ Tortora, Gerard J; Derrickson, Bryan (2006). Principles of Anatomy and Physiology. John Wiley & Sons Inc. 
^ “Artificial Respiration”. Encyclopadia Britannica. 2007年6月14日時点の ⇒オリジナルよりアーカイブ。2007年6月15日閲覧。
^ 湯口, 聡、森沢, 知之、福田, 真人、指方, 梢、増田, 幸泰、鈴木, あかね、合田, 尚弘、佐々木, 秀明 ほか「深呼吸方式の違いによる換気量の変化」『理学療法学』2004 Supplement、2005年、D0672?D0672、doi:10.14900/cjpt.2004.0.D0672.0。 
^ “Artificial Respiration”. Microsoft Encarta Online Encyclopedia 2007. 2009年10月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年6月15日閲覧。
^ “Decisions about cardiopulmonary resuscitation model information leafler”. British Medical Association (2002年7月). 2007年7月5日時点の ⇒オリジナルよりアーカイブ。2007年6月15日閲覧。
^ “Overview of CPR”. American Heart Association (2005年). 2007年6月27日時点の ⇒オリジナルよりアーカイブ。2007年6月15日閲覧。
^ 人工呼吸、省略OK? 変わる心肺蘇生法 京都市消防局が救命講習(産経West 掲載日:2015.4.4。参照日:2018.6.18.)
^救急蘇生法の指針2015(市民用)(総務省消防庁)
^ a b 倒れている人をみたら(東京消防庁)


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