人名
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これは、元服前の「幼名」、「(あざな)」、出家・死去の際に付ける「戒名」などと合わせて、名を単なる記号として扱おうとしない一つの文化である[注釈 2]。この文化は近世・近代と「諱」を持つ層が減り、逆に「名字」を持つ層が増えるにしたがい(苗字帯刀御免、平民苗字必称義務令)、希薄化してきたと言える。

だが、21世紀初頭の日本においても、名付ける者が名付ける対象に特別な読みを与えることで特別な意味を見い出そうとして名付けたと解釈する限りでの難読名などに見られるように、名に特別な意味を与えようとする思いは[注釈 3]、散見されるものである。
日本における状況

日本では現代社会の一般人の日常生活でもインターネットを用いたコミュニケーションが普及するにつれ、見ず知らずの相手には、名前は一切開示せず接触し、相手の素性を知ってから段階的に開示するということは、よく行われる。また、インターネット上のコミュニティなどでは、本名は出さず、ハンドルネームなどを示すのが一般的である。様々なことを考慮すると、やはり本名をあまりに安易に不特定多数に開示してしまうことはそれなりにリスクが伴う、という判断がある(関連する事象として、名誉毀損プライバシーなどの項も参照可)。また、多少意味合いが異なることは多いが、芸術家作家評論家などで、ペンネーム・アーティスト名などを用いて、本名は開示しないことは多々見られる。

一方、個々の名前のアイデンティティの重要性は、幼名などが一般的だった江戸時代、養子などが一般的であった戦前などと異なり、増している。近年の選択的夫婦別姓を求める声などは、現代で、個々の名前のアイデンティティの重要性が増してきたことの表れである。
人名の構造、使用とその多様性

人の名前は多くの文化で、2つかそれ以上の種類の部分からなる。

多くの場合、「所属を示す名前」と「個人を指す名前」の組合わせが用いられる(ここでは便宜上仮に後者を"個人名"と呼ぶことで説明する)。あるいはそのどちらか1種類だけの場合もある。その数や扱いについては様々な習慣・制度が見られる(詳細は後述)。

分かりやすい例としては、その個人が属する「家(家族)の名前」と「個人の名前」の組み合わせである。英語圏では、個人名(与えられた名 = given name)+ 家族名(family name)の順に表記されることが多い(配置に着目し、ファーストネーム = first name、ラストネーム = last name とも呼ばれるが、文脈に応じ逆順で表記されることや文化混合による混乱を避けるために、given nameという呼称を用いる流れがある)。現代日本の一例を挙げれば「山田 + 太郎」であり、この場合は「家族名 + 個人名」の並びとなる。家族名、個人名はそれぞれ、姓(せい)名(めい)などと呼ばれる。家族名はまた苗字名字とも呼ばれる。"個人名"の部分は「(な)」と呼んだり、なんら明確には呼ばずに済ませたりする。(注)日本語の人名では、英語の given name にあたる概念を、他の概念と明確に区別し、かつ肯定的に指し示す名称が成立していない。明治時代以前の今日より複合的で複雑な人名要素における「いみな()(=忌み名)」などという名称には既に否定的な概念が含まれており(ただしそれ自体を忌避して否定的にとらえているのではなく、人格との一体性という概念ゆえの神聖視により、みだりに用いるのを忌避しているのであるが)、その裏返しとして成立している「(あざな)」では正式の本名ではないという含意からのズレがあり、どちらも現代的な使用には向かない。また「(な、めい)」では、フルネームを指す可能性があり、明確な指示が困難になる。明治期に、法令によって人名の近代化を迅速に行った影響が今日も後を引いているとも、今日の日本人の人名構成様式が、まだ非常に浅い歴史しか持たないものだとも言える。そのため「下の名前」または「ファーストネーム」が使われる。以下の説明では「名」(な)という言葉で"個人名"を指している箇所があるので注意されたい。
構成要素の数

姓名の構成要素の数、すなわち、ある個人のフルネームがいくつの部分から構成されているかは、文化によって異なっている。アメリカ大陸の先住民族など、個人を指す名前のみを用いる文化もある。サウジアラビアのように、3代前にまで遡って4つの部分からなるフルネームを用いることが当たり前の文化などもある。ブラジルのように一貫していない場合もある(これは、姓を持つ習慣が普及しつつあるが、完全に普及しきっていないためであると考えられる)。

また、親子の間での姓をめぐる取扱いも文化によって異なる。子供が両親のいずれか、あるいは両方の名前を受け継ぐ習慣や制度があるかどうかは文化によって異なっている。受け継がれていくのは姓に代表される血縁集団名、家系名であるとは限らない。姓を持たない文化においては、一連の名と続柄の連続をフルネームとする場合もある。(たとえば安倍晋三が姓を持たない文化に生まれたとすると、「晋三、晋太郎の息子、の孫」といった名前になる。)インドでは逆に「taro、taichiroの父」などといった形で、ある子供が生まれた時に与えられる名前に、さらにその子供の名前として使われるべき名(taichiro)が含まれているものもある。
構成要素の順序

姓名の構成要素の順序についても、民族・文化圏・使われる場面などにより異なることが知られている[注釈 4][注釈 5]。例えば、ヨーロッパ諸国やアメリカ合衆国では、日常的な文書や会話などでは、名前は名→姓の順をとることが多い。ただし、公的文書や学術文書などにおいては順序が逆転することがある。姓を前置することで検索性の向上や誤認の回避につながるためである。文献表においては第一著者については姓→名の順を取り、第二以下は名→姓で示す。この場合姓の後にカンマを付ける。日本中国韓国ハンガリーなどでは名前は姓→名の順をとる。つまり、あえてフルネームで呼んだり記したりする場合には、その順で呼んだり記したりする、ということである。

名前を記す際などに、その一部を省略することも多く行われる。英語圏ではミドルネーム(middle name)はイニシャルだけが記されることが多くある。スペイン語圏では、複数部分からなる姓の一部が省略されることがある。また古代ローマでは使われていた名の種類がとても少ないため、1?2文字に略して評することがあった。
名前の変更

基本的には、人名は通常、慣習や法などによって決まっている部分(姓)や生まれた時に両親などによって与えられ、それ以後変わることのない部分(名)のいずれか、またはその組合わせからなることが多く、生涯を通じて変わらない文化も多い。だが、ここにも例外がある。

例えば、婚姻や婚姻の解消に際して、夫婦間の姓の変更が行われる文化がある。婚姻やその解消は親子関係の変更を含むこともあるため、子の名前の変更を伴うこともある。

婚姻以外にも、人生の節目において名前を与えられたり改めたりする場合がある。一部のドイツ人の間では洗礼に伴ってミドルネームが与えられ、以後はファーストネームではなくその洗礼名が頻繁に用いられることになる。
その他の多様性.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}この項目には、一部のコンピュータや閲覧ソフトで表示できない文字(韓国語ハングル文字)が含まれています(詳細)。

また、家系名や個人名の多様性も文化によって大きく異なる。「姓#姓の数、由来」も参照

日本人の苗字の種類は10万とも30万ともいわれ(推計値の為、様々な説がある。丹羽基二は30万姓としている)、世界でも特に苗字の種類が多い民族とされる。一方、中国人の姓は5000以下であるとされる。最近の中国科学院の調査では、李・王・張・劉・陳がトップ5とのことで、特に李 (7.4%)・王 (7.2%)・張 (6.8%) の3つで20%強(約3億人)を占める。ベトナム人は、最も多い3つの姓で59%を占める[1]百家姓参照のこと)。韓国人の姓は、金(김)・李(이)・朴(박)・崔(최)・鄭(정)の5種類で55%にのぼり、「石を投げれば金さんに当たる」[2]ソウルで金さんを探す(無用な努力の喩え)」[3][4]などという成句もある。

@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}韓国人は子の名を付ける際に、基本的に他の誰も持っていないオリジナルな名を与える(ただし、ある程度の流行はある)。これに対して、ドイツでは「すでに存在する名前」しか受理されない[要検証ノート]。フランスにおいても、ナポレオン法典の時代には、新生児の名は誕生日ごとに決められた聖人の名前から選ぶこととされていた。このため、既存の名前を組み合わせることが流行した(例えばルイ=ニコラ・ダヴーの名ルイ=ニコラは、聖人の名前ルイとニコラを組み合わせたものである)。

さらに、多くの文化においては、正式な名前とは別に愛称敬称などがあり、そのパターンは文化ごとに異なっている。そうした呼称は名前を省略したり変形して用いる場合もあり、名前ではなく帰属や当事者間の関係(父と子など)を用いる場合もある。
人名と文化、社会

人名をめぐる習慣や制度は一般的に、次のような文化的・社会的事象と結び付いている傾向にある。

個人・家族・帰属についての考え方(とりわけ姓をめぐる習慣や制度)

価値観。人にとって何がよい性質であるか(とりわけ名をめぐる習慣や制度)

また、こうした姓名についての知識は次のような場面で活用される。

歴史研究や家系図の作成などに際しての資料の解釈、記録された名前と個人の対応付け

戸籍・名簿などの管理・作成。


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