マルサスが論じた時点では肥料は伝統的な有機質肥料が中心であり、単位面積あたりの農作物の量に限界から農作物の量が人口増加に追いつかず、人類は常に貧困に悩まされるという現象は自明であったが[2]、1900年以降にハーバー・ボッシュ法などで化学肥料が安定供給されたことにより克服された[2]。 次にマルサスはこのような人口の飛躍的な増加に対する制限が、どのような結果をもたらすかを考察している。動植物については本能に従って繁殖し、生活資源を超過する余分な個体は場所や養分の不足から死滅していく。人間の場合には動植物のような本能による動機づけに加えて、理性による行動の制御を考慮しなければならない。つまり経済状況に応じて人間はさまざまな種類の困難を予測していると考える。このような考慮は常に人口増を制限するが、それでも常に人口増の努力は継続されるために人口と生活資源の不均衡もまた継続されることになる。人口増の制限は人口の現状維持であり、人口の超過分の調整ではない。 このような事実から人口増の継続が、生活資源の継続的な不足をもたらし、したがって重大な貧困問題に直面することになる。なぜなら人口が多いために労働者は過剰供給となり、また食料品は過少供給となるからである。このような状況で結婚することや、家族を養うことは困難であるために人口増はここで停滞することになる。安い労働力で開墾事業などを進められることで、初めて食料品の供給量を徐々に増加することが可能となり、最初の人口と生活資源の均衡が回復されていく。社会ではこのような人口の原理に従った事件が反覆されていることは、注意深く研究すれば疑いようがないことが分かるとマルサスは述べている。 このような変動がそれほど顕著なものとして注目されていないことの理由は歴史的知識が社会の上流階級の動向に特化していることが挙げられる。社会の全体像を示す、民族の成人数に対する既婚者数の割合、結婚制度による不道徳な慣習、社会の貧困層と富裕層における乳児の死亡率、労賃の変化などが研究すべき対象として列挙できる。このような歴史は人口の制限がどのように機能していたのかを明らかにできるが、現実の人口動向ではさまざまな介在的原因があるために不規則にならざるをえない[3]。 典拠管理データベース: 国立図書館
貧困の出現
訳書
高野岩三郎、大内兵衛訳 『初版 人口の原理』 岩波文庫、1962年。初版の翻訳
永井義雄訳 『人口論』 中公文庫、1973年、改版2019年。初版の翻訳
南亮三郎監修 『人口の原理』 中央大学出版部、1985年。第六版の翻訳
斉藤悦則訳 『人口論』 光文社古典新訳文庫、2011年。初版の翻訳
脚注[脚注の使い方]^ マルサスは人口と生活資源の増加が不均衡であることについて、次のような具体的な状況を想定している。ある島国の人口は約700万名で、生活資源となる生産物がこの人口を充足させる分量だけ存在すると仮定する。25年ごとに人口は幾何級数的に1400万、2800万、5600万と増加するが、食物は算術級数的に1400万、2100万、2800万としか増加しない。1世紀の終わりには人口が1億1200万名で生活資源は3500万名分の不均衡が発生することになる。この議論は地球全体にも適用できる議論であり、仮に全世界の人口が10億名であり、生活資源は充足しているという状況を想定すると225年後の人口と生活資源の比率は512対10となり、3世紀後には4096対13まで拡大する
^ a b ⇒独立行政法人農業環境技術研究所「情報:農業と環境 No.104 (2008年12月1日) 化学肥料の功績と土壌肥料学」
^ 介在的原因とはある産業の開始や失敗、農業の衰退や農業の豊凶、戦争、労働力の節約、労賃と物価の相違などである。
参考文献
若田部昌澄「 ⇒経済学史の窓から 第7回 マルサスは陰鬱な科学者か?」書斎の窓
関連項目
人口可容論
成長の限界
賃金の鉄則
マルサスの罠
外部リンク
『人口論 00 訳序/凡例/解説/序言/前書』:新字新仮名 - 青空文庫(吉田秀夫訳)
『人口論 01 第一篇 世界の未開国及び過去の時代における人口に対する妨げについて』:新字新仮名 - 青空文庫(吉田秀夫訳)
『人口論 02 第二篇 近代ヨオロッパ諸国における人口に対する妨げについて』:新字新仮名 - 青空文庫(吉田秀夫訳)
『人口論 03 第三篇 人口原理より生ずる害悪を除去する目的をもってかつて社会に提案または実施された種々の制度または方策について』:新字新仮名 - 青空文庫(吉田秀夫訳)
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