「京」は特定分野に特化した専用機ではなく、幅広い用途に応用できる汎用計算機として設計された。当初はベクトル機とスカラ機からなる「複合型」を計画・開発していたが、2009年5月にベクトル機を担当していたNECおよび日立が撤退したことにより、スカラ型のみの構成に設計変更された。この結果、CPUに富士通が設計・開発したSPARCベースのSPARC64TM VIIIfxを採用し[29]、Tofuと呼ばれる6次元メッシュ/トーラスのインターコネクトなど、富士通の技術を全面的に使用した計算機となった。その後、富士通は「京」のCPUをSPARC64TM IXfxに変更して性能を向上させた市販モデルのPRIMEHPC FX10を発表し、国内・海外に販売している。
なお、2009年11月の事業仕分けで事実上の凍結と判定されたことを機会として、各種の議論が行われたが、後に予算復活され、2012年6月に完成した。
開発中の2011年6月および2011年11月にTOP500で1位となり、2011年11月にHPCチャレンジ賞とゴードン・ベル賞を受賞した。また性能以外に安定性では、2011年11月のTOP500測定時に29時間28分の無故障動作を実測した[30]。
ロゴは書道家の武田双雲によるもの。
歴史
2005年
文部科学省科学技術・学術審議会等に「政府の国家戦略として最先端の性能を持つスーパーコンピュータの研究開発を持続的に推進していくべき」との提言が提出された[31]。2005年10月、文部科学省のイニシアティブにより、開発主体の理化学研究所を中心にプロジェクトが開始した[32][33]。
2006年
文部科学省による事前評価での
ターゲットの明確化
ベクトル部分の再検討
ソフトウェア開発
開発体制の構築
日本全体の計算資源の役割分担を含む中長期的な計画等の必要性についての指摘を受け、フォローアップを実施した[34]。
9月、世界最高性能を目指した次世代スーパーコンピュータ・システムの概念設計が開始された[35]。概念設計段階では、それぞれの専門分野から技術を持ち寄り、要素技術の開発を行った。
ソフトウエア(OS、ミドルウェア、アプリケーションソフトウエア)等の設計・研究開発
ハードウエア(計算機システム及び超高速インターコネクション)の設計・研究開発
先端計算科学技術センター(仮称)」の最適立地・運用に関する調査研究
2007年
3月28日、神戸市中央区のポートアイランド内に立地されることが決定された[36]。
4月9日、理化学研究所が21本のターゲットアプリケーションを選定した[37]。
9月、ハードウェアの概念設計が完了した。日本のコンピュータ会社3社でベクトルとスカラ汎用複合システムを開発することが決定し、日本電気と日立製作所がベクトル型を、富士通がスカラ型の詳細設計をそれぞれ担当することになった[38]。
2009年
3月、富士通が次期スパコン向けプロセッサSPARC64 VIIIfxの論理仕様書を公開した[39]。
5月13日、富士通が世界最速128GFLOPSの性能を持つプロセッサの開発に成功したと発表した[40]。同日、日本電気が、製造段階における同社の開発費負担が100億円を超える見込みであり、過大であるとして、当プロジェクトからの事実上の撤退を表明した[41]。このため、日本電気との契約により本プロジェクトに参加していた日立製作所も同時に撤退[42]。これを受けて理化学研究所では、富士通との共同開発により、スカラ型単独で当初計画どおり2012年に世界最速のシステムを完成させることを決定した[43][44][45][46]。また翌2010年7月14日、NECに対して損害賠償を求める民事調停を東京地方裁判所に申し立てた[47]。
7月22日、文部科学省が次世代スーパーコンピュータの戦略分野を決定した[48]。
11月13日の行政刷新会議の「事業仕分け」で、当プロジェクトは「予算計上見送りに近い縮減」(事実上の凍結)と判定された[49][50][51]。
これに対して計算基礎科学コンソーシアムなどの科学技術関連団体が相次いで緊急声明を発表し[52]、11月25日には石井紫郎・江崎玲於奈・利根川進・森重文・野依良治・小林誠が緊急会見において懸念を表明した[53]。
また同日、理化学研究所の野依良治理事長は「先進各国が国家の威信をかけてスーパーコンピュータの開発にしのぎを削っている。一旦凍結すれば他国に追い抜かれる」とし、仕分けの流れを批判した[54]。
これに対して川端文部科学大臣は11月17日、鳩山内閣の方針は科学技術を重視するものとして予算確保を目指す方針を明らかにし[55]、また11月22日には菅直人副総理兼国家戦略担当大臣も、次世代スーパーコンピューターの開発事業費について「当然、見直すことになる」と述べ、日本国政府は廃止などの判定が相次いだ科学関連予算について、予算復活を認める方針を固めた[56]。
12月9日、日本国政府は「必要な改善を行いつつ推進」と評価を見直した[57][58]。
12月11日、文部科学省は当初の開発計画を変更し、世界一を目指す立場には固執せず、各地の大学が遠隔地からも研究に参加できるようネットワーク機能の強化を目指す方針を決めた[59]。
12月16日の大臣折衝により、文部科学省の他の事業でも約50億円削減するほか、説明会などを開いて国民の理解を得ることを条件に、概算要求から約40億円減の約228億円が計上される見通しとなった[60]。
2010年