京都議定書
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クリーン開発メカニズム (CDM: Clean Development Mechanism) とは、先進国開発途上国技術資金等の支援を行い温室効果ガス排出量を削減、または吸収量を増幅する事業を実施した結果、削減できた排出量の一定量を先進国の温室効果ガス排出量の削減分の一部に充当することができる制度である。

先進国は少ないコストで削減が可能となり、途上国は技術や資金の供与といった対価が望めるなどの効果がある。
排出量取引

排出量取引 (ET: Emissions Trading) とは、下記 4種類の炭素クレジットを取引する制度である[15]。「排出権取引」「排出許可証取引」「排出証取引」とも呼ばれる。

AAU (Assigned Amount Unit) - 各国に割り当てられる排出枠

RMU (Removal Unit) - 吸収源活動による吸収量

ERU (Emission Reduction Unit) - JI で発行されるクレジット

CER (Certified Emission Reduction) - CDM で発行されるクレジット

これらの炭素クレジットを 1t-CO2 単位で取引する。排出量を排出枠内に抑えた国や事業で発生したクレジットを、排出枠を超えて排出してしまった国が買い取ることで、排出枠を遵守したと見做されるものである。温室効果ガス削減が容易ではない国は少ない費用で削減が可能となり、削減が容易な国は対価を求めて大量の削減が望めるという、2つの効果を念頭に置いている。

京都議定書は国家間での排出量取引のみを定めているが、より効果的な温室効果ガスの削減が可能な国内での排出量取引も行われつつある。しかしながら、排出量の上限を最初にどのように公平に割り振るかが問題であり、一律に割り振ると、既に省エネを徹底していた企業が損をするという問題がある。このため、オークション方式で排出権を購入する方式が広まりつつあるが、当初の購入資金が負担となることや、価格の変動による経営リスクが生じることが問題とされている。

なお、2001年のマラケシュ合意では、排出上の権利を与えるものではないとしており、欧州連合も排出の権利とは認めていない。本来この制度は、排出量の削減による取引上の利益により、さらなる削減意欲を生じさせることを意図したものであるが、逆に排出枠の設定方法によっては過去の排出量が既得権益のようになってしまったり、炭素クレジットの市場価格が化石燃料から再生可能エネルギーへの切り替えや省エネルギー等による排出量の削減にかかる費用よりも割安になってしまった場合に、本来必要な努力を減じさせるおそれもあると指摘されている。

また、近年は関心の高まりを受けて第三者機関が認証する排出削減量 (VER: Verified Emissions Reduction) が民間で取引されるようになったが(カーボンオフセットグリーン電力証書などを参照)これらは一般に京都メカニズムの枠外で行われる取引である。
共同実施

共同実施 (JI: Joint Implementation) とは、投資先進国(出資をする国)がホスト先進国(事業を実施する国)で温室効果ガス排出量を削減し、そこで得られた削減量 (ERU: Emission Reduction Unit) を取引する制度。つまり、先進国全体の総排出量は変動しない。
吸収源活動

吸収源活動とは、1990年以降の植林などで CO2 の吸収源が増加した分を、温室効果ガス排出量削減に換算し算入するもの。また、吸収源である森林が同年以降に都市化農地化などで失われた分は排出量増加として算入される。京都議定書 第3条で定められており、土地利用・土地利用変化及び林業部門 (LULUCF: Land Use, Land Use Change and Forestry) 活動とも呼ばれる。

具体的には次の活動が規定されている(京都議定書 3条3項)[16]

新規植林(Afforestation、過去50年間森林がなかった土地に植林)

再植林 (Reforestation、1990年より前には森林であったが同日時点では森林ではなかった土地に植林)

森林減少(Deforestation、森林を他用途に転換)

これらの英頭文字を取って ARD活動 とも呼ばれる。

これに加え、マラケシュ合意では「森林管理」「放牧地管理」「植生の管理」を利用することも許容された(京都議定書 3条4項)。このため、既存の森林についても 1990年以降に適切な管理を行うことで、その森林を吸収分として算入できるようになった。これは、義務達成を難しいと考え、しかも緑被率の比較的高い国である日本、カナダが主張し、採用されたものである。
日本の目標達成状況「京都議定書目標達成計画」を参照

日本の削減量6%については、1990年度(代替フロンについては1995年)を基準としている。また、京都議定書目標達成計画で、それぞれの温暖化対策要素ごとに削減目標を定めている。同計画では、温室効果ガス排出量を基準年比 -1.8%から -0.8%に抑制し、森林吸収量を基準年比3.8%程度確保し、残りを京都メカニズムの活用と見込んでいた。しかし2008年度から2012年度の国内の排出量の平均は逆に基準年に対して1.4%上回った[17]。これに森林等吸収量(基準年比3.9%相当)と京都メカニズムクレジット(基準年比5.9%相当)を考慮すると、基準年比-8.4%となり、目標を達成した[18]
各国の取組状況

削減義務を負う国・地域(附属書I国)の、1990年から第一約束期間にかけての温室効果ガス排出量の増減割合を下表に示す[19]。緑色は目標達成、赤色は目標不達成を表している。

国・地域2008年から2011年の温室効果ガス排出量平均値の

京都議定書基準年からの変化率 (吸収源活動を除く)2012年までの
EU域内の目標値議定書の削減義務
2008-2012年
EU-11.4%--8%
 ドイツ-24.0%-21%↑
 フランス-9.6%±0%↑
 イギリス-24.1%-12.5%↑
 アイルランド+11.7%+13%↑
 スペイン+26.0%+15%↑
 ポルトガル+22.6%+27%↑
 ギリシャ+13.6%+25%↑
 スウェーデン-13.5%+4%↑
 デンマーク-12.5%-21%↑
 ノルウェー+7.7%-+1%
 ロシア-33.1%-±0%
 ウクライナ-57.3%-±0%
 日本+0.2%--6%
 オーストラリア+0.4%-+8%
 ニュージーランド+17.2%-±0%

京都議定書に関する議論

地球温暖化対策や京都議定書の在り方については、多種多様な議論がある。中でも、温室効果ガスの削減の具体的手法、数値目標については、各国の意見が対立する例が多く、個人レベルでも議論がある。また、京都議定書の必要性や効果については、懐疑論(疑問視する意見)が展開されることも少なくないが、その中には信頼性に乏しいものも多く含まれている。
メカニズムに関する議論
日本国内での議論

京都議定書の削減義務に対しては、日本国内で下記のような議論も見られる。

京都会議の議長国であった日本には、会議を成功させるという、国内外の世論によるプレッシャーがかかっていた。会議をまとめやすくするという
外務省の思惑と、国内の温暖化対策を加速させるという環境省の思惑とがあった[20]


日本の数値目標が-6%になった経緯は日米欧の非公式会合での政治的合意によるものであり、アメリカと日本が足並みをそろえたのは、途上国の参加を促すためであったが、米上院はバード・ヘーゲル決議(英語版)を採択していたので、途上国が参加しない場合など、3項に当てはまる場合は、上院が議定書を批准しないことが決まっていた。また、欧州ロシア、米国は、それぞれの国のエネルギー事情から、数値目標が達成可能かどうかや、経済に与える影響をあらかじめシミュレーションしていたが、日本は6%に対して、裏づけがないまま合意に至っている。[21]


@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}日本の達成が難しいと囁かれ始めた 2007年頃になって、京都議定書自体が欧米諸国による政治的な圧力であるという陰謀論が、一部評論筋や個人の論評などで、にわかに唱えられはじめるようになった[要出典]。


ポスト京都議定書の協議が始まるようになると、温室効果ガス排出量削減の必要性は認めながらも、「GDP比のCO?排出量は、日本を1とすると、EU(25カ国)は1.7、アメリカは2.1、中国は10.8である」「日本のエネルギー効率は高いことから削減余地が少ない」「エネルギー効率が反映されかつ技術的に合理性のある衡平な枠組を求めるべき」といった主張が、日本経済団体連合会より出された[22]

効果に関する議論

京都議定書の効果に対しては、下記のような議論も見られる。

現段階から米国が参加しても、温度上昇を 2100年までに0.15改善したり、2.5cm の海面上昇を抑えたりする程度の効果であり「地球温暖化を 6年程度遅らせるほどの効果である」[23]「京都議定書が保守的に守られた仮定でも効果は限定的」との指摘もあるものの、一定の成果であるといった評価がされている。


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