京言葉
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

特に女性層で顕著であり、女性層では敬語に限らず常に丁寧な言葉遣いが好まれ、「食う」よりも「食べる」、「うまい」よりも「おいしい」を用いようと努めたり、日常生活の名詞にも「お豆さん」のように盛んに敬称をつけたりする[33]

-はる:京都とその周辺の最も代表的な敬語で、「なさる」が「なはる」を経て変化したものとされる[34]。五段動詞では「書かはる」のようにア段に後続し、その他では「でやはる(出る)」「きやはる(来る)」「しやはる(する)」のように連用形に「や」を介して後続する[35]。「はる」は五段活用であるが、命令形はない[34](楳垣は男性の親しい間柄で「そうしやはれ(そうしなさい)」のように言うこともあると記録している)[35]。「-はる」は京都以外の関西各地でも使われるが、大阪と比較した場合、「行かはる(京都)」「行きはる(大阪)」という形式上の違いのほか、京都の方が日常会話での「-はる」の使用率が(特に会話の話題に登場する第三者に対して)高く、大阪では明確に尊敬語として使われるのに対し、京都では身内・目下・動物などにも親しみを込めて使われ、聞き手に対する丁寧語美化語も兼ねるとされる[36]。例えば1990年代の調査で、「父親」「赤ん坊」を話題にする際に「-はる」を使う割合は、大阪では男女とも2割程度だったのに対し、京都では父親に「-はる」を使う者は女性9割、男性6割、赤ん坊に「-はる」を使う者は女性8割、男性でも4割にのぼった[36]

例:乗って来はるわ(乗って来られるよ)


なはる:「する」の尊敬語。「-なはれ」「-な(は)い」の形で様々な動詞の命令表現にも使うが、「-なはれ」は大阪的な言い方で京都ではほとんど使わない[35]

例:あんさんがなはったんどすか(あなたがなさったのですか)[35]

例:はよーおいなはい(早くいらっしゃい)[35]

例:あてにもおくない(私にも下さい)[35]


お 連用形+やす:「はる」よりも敬意の高い敬語表現。「お行きやさへん」(お行きにならない)のように活用させて使うのは京都市とその周辺に限られるが、命令表現としては山城・口丹波一帯で使われ、「おやすみやす」「おいでやす」「ごめんやす」など「やす」を使った挨拶語はさらに広範囲で使う[34]。相手への確認のための強調として、「やっしゃ」とも。

例:ちょっともおいでやさしまへん(少しもお出でになりません)[35]

例:またおいでやしとーくれやす(またお越しください)[35]

例:さっさとおしやっしゃ(早くしなさいよ)[35]


-といやす:「ておいやす」の変形。

例:しといやした(していらっしゃいました)


お 連用形+る:必ずしも丁寧とは限らず、ごく親しい感情を込めた表現。楳垣によると、江戸末期から、音便を使わない「行きて」「行きた」のような言い方に「お」を冠して使うようになり、そこから「お行きる」のような終止形が逆成されたものだという[37]。「お+連用形」の後ろに助詞「な(いな)」を付けて禁止を表したり、否定助動詞「-ん」+助詞「か」「かい」「かいな」などを付けて勧誘や命令を表したり、否定助動詞「-ん」+助詞「と」を付けて条件を表したりもする[37]。以上のうち、禁止・勧誘・命令表現の場合は「お」を省略することができる[37]

例:それをお聞きて、えらいお怒りたそうや(それを聞いて、ひどく怒ったそうだ)[37]

例:あんまり慌てておしるさかい(あまりに慌ててするものだから)[37]

例:あんなとこいお行きな(あんな所へ行くな)[37]

例:もっとはよお歩きんか(もっと早くお歩きなさい)[37]

例:ゆっくりお言いんと分からへんがな(ゆっくりお言いでないと分からないじゃないか)[37]


おす:「ある」の丁寧語で、大阪の「おま(す)」に相当。形容詞の後ろにもつく。

例:誰もおへん(誰もいません)

例:おいしおすなぁ(美味しいですねぇ)


どす:断定の丁寧語で、京都市を中心に口丹波から山城の広範囲で使う[38]。「で+おす」が変化したものとされる[39]。「どす」の活用は共通語の「です」に似るが、「でしょー」に当たる言い方は「どしょー」ではなく「どっしゃろ(どすやろ)」[38]。「ことどす→こっとす」「へんのどす→へんのす」「どすのや→どんにゃ」のように前後の語によって発音が変わったり「ど」が省略されたりすることもある[40]。否定形は「やおへん」と言う[40]。「江戸べらぼうに京どすえ」という諺があるように京言葉を代表する表現だが、現在では高齢層や芸妓など限られた場面でしか聞かれない。

例:どこどしたいな(何処でしたかね)[39]

例:なんどすいな(何ですかね)[39]

例:これどっしゃろ(これでしょう)[39]

例:えらいすまんこっとした[40](大層済まないことでした)

例:とれへんのっしゃろか[40](取れないんでしょうか)

例:だれどんにゃ[40](誰なんですか)

例:どーす[40](どうです)


形容詞

連用形は「なごーなる(長くなる)」「おしゅーなる(惜しくなる)」「あつーなる(暑くなる)」「おもーなる(重くなる)」のように
ウ音便が起こるが、語幹がイのもの(シク活用)は「おしーなる」のように終止形と同じ形で言う傾向がある(特に「て」が続く時)[41]。「ない」が続く時は、シク活用以外でも連用形が終止形と同じ形になることがあり、楳垣は1949年時点で「学童用語に近来目立って来た」と指摘している[41]。連用形は短音化することがあり、特に短音化した連用形を繰り返して意味を強調する用法(畳語)は京言葉の特徴である[41]。「はよーにたのんどいた」(早くに頼んでおいた)のように連用形に「に」を続けることもあるが、大阪と違ってシク活用では「に」を続けない[41](奥村は、伏見や山城南西部では多少見られると指摘している[42])。

例:あほらし(ー)て物が言えん(馬鹿らしくて物が言えない)[41]

例:ちょっともあまいない(ちっとも甘くない)[41]

例:なごなごなった(長く長くなった)[41]

例:くわしくわし言うた(詳しく詳しく言った)[41]

例:はよーに頼んどいた(早くに頼んでおいた)[41]

例:うつくしーに掃除する(美しく掃除する)(伏見や山城南西部の言い方)[42]


感嘆文では終止形語尾が省略され(語幹用法)、シク活用では感嘆文以外でも省略が起こることがある[41]

例:あーたかやの!(ああ高いこと!)[41]

例:あーしんきくさ!(ああじれったい!)[41]

例:こんでもよろし(来なくてもよろしい)[41]


仮定形は「長ければ→長けりゃ/長けら」のように「ば」を融合させるが、通常「長かったら」「長いんなら」「長いんやったら」のような言い方で代用する[41]

推量に「長かろう」のような形はほとんど使わず、動詞と同様、「長いやろ」のように「終止形+やろ」で表す[43]

形容動詞・断定辞

形容動詞語尾および断定の助動詞には「や」を使う
[42]。否定形は「静かやない」のような「やない」であるが、「ない」という言い方を避けて「静かやらへん」のような形をよく使う[42]。仮定形には「やったら」を使うが、「なら」もある程度使う[42]
次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:110 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef