交響曲第6番_(ベートーヴェン)
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1807年暮れからスケッチが開始され、第5交響曲がほぼ完成した後の1808年初春から1808年初秋にかけて作曲された[8]

従来、交響曲第5番と第6番は同時期の作曲と見られていたが、ベートーヴェンのスケッチ研究の成果によって、両者の作曲時期はそれほど重なっていないことが明らかにされている。第6番のスケッチは、主として1808年初頭から同年9月ごろまでにベートーヴェンが使用していた「パストラール・シンフォニー・スケッチ帳」で確認できることから、実質的な作曲時期は1808年春からの約半年間である。一方、同スケッチ帳には第5番のスケッチはまったく現れておらず、第5番は前年の1807年中に筆が進められ、1808年の初頭には仕上げに入ったものと考えられる[8]

過去の研究では、19世紀の音楽学者グスタフ・ノッテボーム(1817年 - 1882年)によって、第6交響曲のスケッチは1806年に始まり、翌1807年夏ごろから本格的に取りかかり、1808年に仕上げに入って同年6月ごろ完成とされていた[9]。こうした事情から、これまで『田園』交響曲に対する見方は『運命』交響曲との比較論が中心で、両曲の性格の相違が強調される傾向にあった。例えば、『運命』での極度の精神的緊張、創造力の爆発的な噴出に対して、ベートーヴェン自身が精神的バランスを維持するための創造形式が『田園』である、といった見方である。しかし、このような情緒的解釈は、交響曲様式の革新性において第5番に劣らない本作の意義を見落としかねない[10]

なお、1803年6月ごろから1804年4月ごろまで使用していた「ランツベルク6」と呼ばれるスケッチ帳に第6番の主題のわずかな萌芽を見ることができる。1807年7月から8月にかけて使用された「ハ短調ミサ・スケッチ帳」にも第6番第1楽章の主題に発展する原形が見られるが、これらはすべて断片的であり、本格的な創作は「パストラール・シンフォニー・スケッチ帳」使用期と見られる[8]
初演・出版

1808年12月22日オーストリアウィーンアン・デア・ウィーン劇場において、ベートーヴェン自身の指揮によって初演[1]第5交響曲ピアノ協奏曲第4番合唱幻想曲などとともに演奏された。このとき、本作は「第5番」とされ、現在でいう第5番が「第6番」となっていたが、1809年に出版されたパート譜では現在の番号となっている[11]

ロプコヴィッツ侯爵、ラズモフスキー(en:Andrey Razumovsky)伯爵に献呈された[12][注 1]。1809年5月に管弦楽パート譜、1826年5月に総譜が、ともにライプツィヒブライトコプフ・ウント・ヘルテル社より出版された[12][1]
楽器編成

ピッコロ 1(第4楽章のみ)、フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2

ホルン 2、トランペット 2(第3楽章?第5楽章)、トロンボーン 2(アルト、テノール)(第4楽章と第5楽章)

ティンパニ(第4楽章のみ)

弦5部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラチェロコントラバス[8]

前作第5番と比較すると、コントラファゴットが使用されず、トロンボーンは3管から2管に減少しているものの、通常の2管編成に加えてピッコロやトロンボーンが使用されており、これらの楽器の定着化と楽器編成の拡大が推し進められている[13]
曲の構成

新しい交響曲形式として5楽章構成が試みられている。この時期のベートーヴェンは楽章構成上の有機的な統一感を追求しており、前作第5番同様の切れ目のない楽章連結を受け継ぎつつ、ここではさらに徹底して、第3楽章以降の3つの楽章が連結されている[13]。第4楽章の「嵐」は、実質的に第3楽章と第5楽章の間の長い挿入句であり、交響曲全体の中で果たす役割は、ソナタ形式の展開部の機能に似ている。このことは、ベートーヴェンは田園交響曲においてソナタ形式の構成を作品全体に拡張しようとしたともいえる[2]

なお、ブライトコプフ&ヘルテル社は初版パート譜作成時、第1・4・5楽章の表題をベートーヴェンから送付された原稿の形から改変し(第4楽章では「雷Donner」を「雷雨Gewitter」とするなど)、原稿や直筆スコアのニュアンスを率直に伝えていない。この書き換えは旧ベートーヴェン全集、オイレンブルク版スコアやリプリント版パート譜、21世紀に入って出版されたハウシルト校訂のブライトコプフ社新版にまで及んでおり、デルマー校訂のベーレンライター版、ヘンレ社=ドゥフナー校訂の新ベートーヴェン全集版はベートーヴェンが関与した手稿に立ち戻っている。
第1楽章第1楽章:第1主題とその動機展開
「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」。アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ヘ長調、4分の2拍子[12]

ソナタ形式。弦のほかは木管とホルンのみが使用される。チェロとヴィオラの5度の保続音の上に第1ヴァイオリンが第1主題を出す。4小節で独立しており[14]、半終止のフェルマータは、第5交響曲の冒頭と呼応している[15]。木管の3連符とヴァイオリンの経過句でト長調となり、第2主題はハ長調、4小節の単純な句が第1ヴァイオリンから次第に低い弦に移っていく[14]

展開部では徹底的に第1主題動機を扱う[16]変ロ長調からニ長調(実はト長調のドミナント)、ト長調へと転調しつつ、主題の動機を36回繰り返す。一段落すると、今度はト長調からホ長調(実はイ長調のドミナント)、イ長調へと転調しつつ同様な反復となる。

再現部では第2ヴァイオリンとヴィオラによって第1主題が示される。4小節目の半終止の代わりに第5小節から第1ヴァイオリンの軽快な句が現れるが、これは第5番の第1楽章再現部でのオーボエの叙唱句と同様の筆法である。第2主題では型どおりにヘ長調をとる。コーダでは展開部と同じように始まるが、すぐに転調して木管と弦のかけあいから弦のみとなり、クラリネットとファゴットの重奏、ヴァイオリン、フルートと続いて全合奏で終わる[14]
第2楽章第2楽章:結尾での小鳥の模倣部分(上段フルート、中段オーボエ、下段クラリネット)


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