人力の次に使用された動力は、家畜である。人や物を直接乗せる際は駄獣、台車などを引かせて使用する場合は輓獣と呼ばれる。交通用の家畜として最も用いられたものはウマである。ウマに引かせる馬車は西洋で広く用いられ、19世紀には乗合馬車が都市交通の要となり、レールの上を走る鉄道馬車へと移行して1920年頃まで運行していた[18]。そのほかにもウシやロバ、ラバなどが世界的に広く役畜として使用され、ウシに引かせる牛車も存在した。特殊な地域の交通に用いられたものとしては、乾燥地帯でラクダの導入によって乾燥地帯を越える交易ルートの設定が可能となり、「砂漠の舟」と呼ばれるほどの重要性を持っていた[19]。寒冷地においてはトナカイやイヌを役畜として、犬ぞりのようにそりを引かせていた。ただしこうした畜力使用は自動車の普及とともに衰退し、20世紀後半からは特殊な場合を除きほぼ使用されなくなった。 動力機関を持つ陸上交通は、軌道を走るものと道路上を走るものに二分される。 軌道を走るものとして最も重要なものは、二本のレールの上を走る鉄道列車である。鉄道は大量輸送に適した交通機関であり、通勤・通学輸送や都市間輸送に強みを持つ[8]。都市交通としては、地下を走る地下鉄や路上を走る路面電車、ライトレールなども重要である。技術改良も進んでおり、新幹線をはじめとする高速鉄道が世界各地に建設されている。1本のみの軌道上を走る列車はモノレールと呼ばれる。軌道から浮上させて運行する浮上式鉄道も、磁気浮上式鉄道と空気浮上式鉄道の2種類が存在する。ケーブルカーや、ロープウェイやチェアリフトといった索道も広義には鉄道の一種である。このほか、エレベーターやエスカレーターなども一定の軌道上を動く交通機関である。ベルトコンベアは鉄鉱石や石灰石などの重量物の輸送や[20]、工場内輸送や手荷物輸送などに使用されるほか、動く歩道として人の移動にも使用される[21]。 道路上を走るものとして最も重要なものは自動車である。自動車は自家用自動車や貨物自動車、バスなど用途によっていくつかの種類に分かれ、利便性が高く小規模で柔軟な運用が可能であることが強みである。原動機付き二輪車はオートバイと総称され、自動車よりもさらに近場で利用する手軽な乗り物として広く使用される[22]。このほか特殊な状況や場所で使用する原動機付き車両としては、ゴルフカート、セグウェイ、電動車いす、シニアカー、スノーモービルなどがある。 最も原始的な水上交通機関は水流を利用するか人力で舟を操作するものであり、ドラゴンボートやカヌー、ガレー船といった櫂やパドルで漕ぐもののほか、艪で漕ぐものがある。足でペダルを踏んで進む足漕ぎボートもこの系譜に属する。運河などにおいては帆走が難しいため、隣接して曳舟道が必ず設けられ、陸上から人や動物が舟を曳く曳舟が行われていた。次いで、風を帆に受けて進む帆船が発明され、近代に至るまで海上交通の主役となっていた。汽船の進歩によって純帆船はほとんど商用に使用されなくなったが[23]、スポーツ用のヨットなどではいまだに利用されている。 現代の水上交通機関はほとんどが内燃機関を搭載している。大型商用船舶はその用途により旅客船、貨物船、貨客船に分かれ[24]、自動車ごと旅客を運送する貨客船はフェリーと呼ばれる[25]。一般の船舶より高速なものは高速船と総称され、水中翼船やホバークラフトなどが使用される。また、橋を架けるほどの交通量のない短距離航路においては、小型船舶による渡し船が運行している[26]。両岸をチェーンケーブルで渡し、ケーブルで船を鋼索するケーブルフェリー 空運には飛行機が主に使用される。飛行機は発着に滑走路が必要であり、天候の影響を受けやすくコストが高いものの、その高速性で遠距離旅客輸送の主力となっている。このほか、回転翼を利用するヘリコプターも、滑走路が必要なく狭い土地での離着陸が可能であるため、小規模な旅客や貨物の輸送に使用されている。[要出典]20世紀初頭においては、空気より比重が軽い気体を用いて機体を浮揚させる飛行船も用いられていたが、1937年の事故を機に下火となった。 交通の発達とその円滑な運営は経済にとって不可欠である。道路・鉄道・港湾・空港などはインフラストラクチャーのひとつであり、経済の基盤となっている。旅客および貨物の運輸業は経済の重要な一部分であり、さらに交通に用いるための自動車・鉄道車両・船舶・飛行機といった輸送機械の製造は大規模産業として経済に占める割合も大きい。また、公共事業による交通インフラの整備はそれ自体が重要な経済活動となっている[27]。 貨物の大量輸送においてもっともコストが低いものは海運であり、さらに公海には海洋の自由が存在するため、公海へのアクセスがある国家はコストが低く隣国の政治情勢に左右されない安定した貿易ルートを確立することができる。このため、一般に内陸国は海洋を持つ国家に対して低い経済成長を余儀なくされる。スイスのように近隣国の経済が良く開発され、交通インフラも整っている場合は経済を成長させることも可能であるが、とくにアフリカでは海洋国の交通インフラや市場がまったく整備されていないため、それに依存せざるを得ない内陸国はより貧しくなることが多い[28]。 グローバリゼーションの進展とともに、旅客・貨物ともに交通量は増大の一途をたどっている。観光目的の海外旅行やビジネス客などを主とする自国外への旅行者の総数は、1960年の1億人未満から、2015年には11億9,000万人にまで増大した。このうち出発国の近隣諸国への旅行客が77%を占め圧倒的に多いものの、遠隔地諸国への旅行者の割合は増大しつつある[29]。一方で、事故や戦争、疫病や災害によって交通が寸断されることは珍しくなく、この場合経済に大きな影響が及ぶ。2020年にはCOVID-19のパンデミックが起きて世界各国が出入国制限や都市封鎖、行動制限を実施した結果交通量が大幅に減少し、2020年3月末には世界全体の航空便数が前年同期比で37%にまで激減、世界の大都市でも交通量が軒並み30%程度にまで激減し[30]、経済に大きな打撃を与えた。 運輸部門における二酸化炭素排出は大きなものである。運輸部門のエネルギー消費のほとんどは石油によって占められており、2016年度には同部門の総エネルギー消費の90%以上は石油によってまかなわれていた[31]。これは、自動車や飛行機、船舶などの燃料が石油によってほぼ占められていることによる。電気やエタノールなどによる代替燃料開発も進められているものの石油に取って代わることは困難であり、2040年度予測でもこの状況にそれほどの変化はないと考えられている[32]。
動力機関
水上交通機関
航空交通機関
影響詳細は「持続可能な輸送」を参照
経済
計画詳細は「交通計画」を参照
環境詳細は「輸送の環境への影響(英語版