乳癌
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エベロリムス[33]
CDK4/6阻害薬

パルボシクリブ

アベマシクリブ
抗PD-L1抗体

アテゾリズマブ

周術期薬物治療

化学療法

浸潤性乳癌に対して術前または術後にアンスラサイクリンベースのレジメンとタキサン系薬剤の逐次投与が行われる。再発リスクが高く、骨髄機能が良好な場合はG-CSFを併用したdose dense化学療法が推奨される。再発リスクが高いと判断される場合にはUS Oncology 01062試験およびFinXX試験の結果からカペシタビンの併用も検討する。

アンスラサイクリンまたはタキサンによる術前化学療法でpCRが得られなかった場合には、CREATE-X試験の結果から術後にカペシタビンの併用も検討される。

ホルモン受容体陽性で遺伝子発現プロファイルから再発リスクが低いと判断される場合には化学療法を省略して内分泌療法のみとなる場合もある。

HER2が陽性の場合の治療は別項で記載する。

ホルモン受容体陽性乳癌に対する内分泌療法

ホルモン受容体陽性乳癌に対しては術後内分泌療法が推奨されている。閉経前後で体内のエストロゲンの主要な産生源が異なることから、推奨される薬剤が異なっている。閉経前の場合は抗エストロゲン薬であるタモキシフェンが基本となり、症例によってLH-RHアゴニストの上乗せが検討される。閉経後の場合はアロマターゼ阻害薬が推奨されている。

術後内分泌療法の期間としては5年投与と10年投与の比較で後者が優れているため、再発リスクと副作用を考慮した上で10年投与が推奨される。

HER2陽性乳癌に対する抗HER2療法

術前または術後に、薬物治療が行われる。細胞障害性薬剤に加えてトラスツズマブの合計1年間の投与が推奨される。再発リスクの高い場合にはAPHINITY試験の結果から、トラスツズマブに加えてペルツズマブの併用も推奨される。

またトラスツズマブを含む術前化学療法でpCRが得られなかった場合にはKATHERINE試験の結果からT-DM1の投与が行われる。
転移・再発例への薬物治療

化学療法

エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2受容体のどれかが陽性の内腔細胞乳癌と、これら3つの受容体を全くもたないトリプルネガティブ乳癌があり、トリプルネガティブ乳癌は全乳癌の約20%を占める。これら3つの受容体があると、ホルモン療法や抗体療法などの分子標的療法で癌を抑制できるが、トリプルネガティブ乳癌はこれらのいずれの受容体ももたないため、有効な分子標的療法がなく、また浸潤・転移もしやすいことから、乳癌の中でも最も予後が不良である。化学療法はトリプルネガティブ乳癌に対する標準治療となる[34]。またホルモン受容体陽性乳癌に対しては通常内分泌療法が行われるが、病勢が急速に進行する場合や内分泌療法耐性の場合は化学療法が行われる。

一次治療としてはアンスラサイクリン系薬剤を含むレジメン、タキサン系薬剤が強く推奨され、TS-1単剤が弱く推奨される。PD-L1陽性のトリプルネガティブ乳癌に限り、IMPASSION130試験の結果に基づきナブパクリタキセル+アテゾリズマブの併用療法が選択肢となる。二次治療では一次治療で用いなかったレジメンに加えて、カペシタビン、エリブリンが強く推奨され、ゲムシタビン、ビノレルビンが弱く推奨される。一次治療および二次治療において、化学療法にベバシズマブを併用することも検討される。三次治療以降は、一次治療および二次治療で用いられなかった薬剤が投与される。トリプルネガティブ乳癌に限りプラチナ製剤も選択肢となり弱く推奨されるものの、トリプルネガティブ乳癌に対する保険適応を有していないことに注意が必要となる。

BRCA1/2遺伝子変異陽性の場合、アンスラサイクリンおよびタキサンを投与した後の治療としてオラパリブの使用が推奨される。

ホルモン受容体陽性乳癌に対する内分泌療法

閉経前の場合は一次治療としてタモキシフェン+卵巣機能抑制(多くの場合LH-RHアゴニスト)が強く推奨される。二次治療としてはLH-RHアゴニスト+フルベストラント+CDK4/6阻害薬または卵巣機能抑制の上で閉経後に用いる薬物治療を行うことが弱く推奨される。

閉経後の一次治療は非ステロイド性アロマターゼ阻害薬+CDK4/6阻害薬が強く推奨され、フルベストラント単剤および非ステロイド性アロマターゼ阻害薬単剤は弱い推奨となっている。一次治療として非ステロイド性アロマターゼ阻害薬+CDK4/6阻害薬を投与した場合の二次治療に投与すべき薬剤は確立しておらず、一次治療で未使用の薬剤が考慮される。一次治療で非ステロイド性アロマターゼ阻害薬単剤を用いた場合は、二次治療としてフルベストラント+CDK4/6阻害薬の投与が推奨され、三次治療以降はエキセメスタン+エベロリムスや、一次および二次治療で用いられていない薬剤の投与が行われる。

HER2陽性乳癌に対する抗HER2療法

一次治療はCLEOPATRA試験の結果からドセタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブが標準治療であるが、トラスツズマブエムタンシン、トラスツズマブ+化学療法も弱く推奨される。二次治療はEMILIA試験の結果からトラスツズマブエムタンシンが標準治療だが、トラスツズマブ+化学療法も弱く推奨される。三次治療以降としてDESTINY breast01試験の結果からトラスツズマブデルクステカンが推奨されるが、間質性肺疾患に注意する。トラスツズマブ+化学療法も弱く推奨される。

化学療法の適応とならない且つホルモン受容体陽性の場合は、抗HER2療法と内分泌療法の併用が推奨され、内分泌療法単独は推奨されない。
予後

乳癌の治療成績は、診断確定時の病期と治療内容に依存する。一般に、発見および治療開始が早いほど予後は良い。早期であればほとんどの乳癌が手術によって根治する。

外科的手術を行った場合、審美的な観点および患者の精神的なケアの観点から、乳房再建術が行われることがある。さらに再建後の乳房に適したブラジャーの相談対応やオーダーメイドも行われている[35]

男性乳癌では女性乳癌と比較して大胸筋浸潤を起こしやすく、進行癌で発見される確率が高いため、5年生存率40?50%と予後不良であると考えられてきた。米国ヴァンダービルト大学医療センターの調査報告によれば、乳癌に罹患した患者の生存率には性別による差違があり、乳癌に罹患した患者は「男性の方が死亡率は高い」と報告されている[36][37]。しかしながら、女性患者と比べて全生存率、無病生存率ともに変わらないという報告もある[38]

5年生存率は、米国と英国イングランドでは80%から90%であった[39][40][41]。途上国においては5年生存率は低い[42][43]。2018年には200万人が新たに発症し、627,000人が死亡した[42]

乳癌は、他の癌に比べて長期間経過後の再発が多いため、術後10年間の経過観察が一般的である。
予防

乳癌の予防の可能性の要素として次のようなものがある。

余暇運動への参加が多いほど、乳癌になりにくい。総身体活動量が高い女性は、閉経後においてホルモン
受容体陽性の乳癌になりにくい。過体重の女性では、週1回以上の余暇運動に参加する人は、乳癌になりにくい[44]

大豆イソフラボンであるゲニステインの血中濃度が高いグループの乳癌リスクは低い[45]味噌汁の摂取が多いほど、乳癌になりにくい。大豆イソフラボンは乳癌発生率減少と関連している[46]

野菜・総果物摂取量全体では、乳癌発生との関連は観察されなかったが、閉経前の女性では、「アブラナ科野菜」の摂取量が高いほど、乳癌になりにくいとの報告がある[47]

閉経前女性では、マメ科植物、家禽類、ナッツ、魚類の摂取合計が、獣肉(レッド・ミート)摂取に対して多いと、乳癌の相対リスク低下が見られた[48]

疫学 2004年における10万人毎の乳癌による死亡者数(年齢標準化済み)[49] .mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}  データなし   2人以下   2人から4人   4人から6人   6人から8人   8人から10人   10人から12人   12人から14人   14人から16人   16人から18人   18人から20人   20人から22人   22人以上

世界中でよく見られる癌で、西側諸国では女性のおよそ10%が一生涯の間に乳癌罹患する機会を有する。それゆえ、早期発見と効果的な治療法を達成すべく膨大な労力が費やされている。

日本でも女性の全癌において罹患数第1位であり、増加傾向にある。生涯で乳癌に罹患する確率は、日本人女性で11人に1人、欧米では8?10人に1人である。一方、死亡数は2021年の女性の全癌死亡の第4位である[50]

また大阪府癌登録による成績では、1975 - 2001年に診断された乳癌全罹患数(39,879例)のうち、男性乳癌は0.57%(226例)であった。また、Tajimaらは、男性乳癌の最頻値が60歳代であることを示した。[51][52]

乳癌に罹患するリスクは年齢と共に増加する。

総患者数、性・年齢階級別(千人)年齢総患者数男性女性
0歳000
1-400-
5-9---
10-1400-
15-190-0
20-24000
25-29101
30-342-2
35-39505
40-4411011
45-4924024
50-5426026
55-5923023
60-6426026
65-6933033
70-7426026
75-7924123
80-8416016
85-891009
90歳以上505
不詳0-0
合計2323229

(厚生労働省平成29年患者調査による[53]
転移

乳癌は肺、骨、脳、副腎、肝臓への転移が多い[54]。乳癌の骨転移の頻度は57?73%である[54]
歴史

乳癌は古代からあった病気で、古代エジプトにおいてはイムフォテプと言う医師による乳癌治療の記録がパピルス文書に残されている(紀元前3000年 - 紀元前5000年のこと)。

古代における乳癌の主な治療方法は、乳房の一部を切開することで悪性腫瘍を排膿し、残りの腫瘍は原始的に焼却したり腐敗させたりした。古代においては麻酔防腐もない時代であるので、乳癌の手術には大変な苦痛が伴い、手に負えないものであれば軟膏を塗るといった姑息的な手法によるしかできなかった。

それから長い時代において、乳癌治療の歴史[55] は停滞したままであったが、16世紀にアンブロワーズ・パレという外科医が、糸による結紮(けっさつ)で細胞を壊死させ、それによって癌を取り除くという手法を試みた。


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