乳癌
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稀に、腺癌以外の癌腫(あるいは癌腫以外の悪性腫瘍)がみられる[27]

また乳腺の増殖性病変の一部は乳癌と紛らわしい良性病変、良性と紛らわしい乳癌の顕微鏡像を呈することがあり、正しい診断に到達するためには、免疫染色という方法を用いることがある[28]。乳腺病理専門医にたいしてセカンドオピニオンを求めたり、針生検においては無理に最終診断を下さず切除生検を推奨したりすることも、時に重要となってくる。

診断が確定すると、次は癌の病期の判定に移る。腫瘍の広がり具合と、浸潤や転移の有無を、病期判定の尺度とする。
病期

硬癌

HER2/neuの過剰発現(免疫組織化学法)

乳癌の病期(ステージ)は腫瘍の乳房内での広がり、リンパ節への転移の有無、癌細胞の遠隔転移で決まってくる。腫瘍の乳房内での広がりには、腫瘍のサイズ、皮膚や胸壁への浸潤の有無、炎症性乳癌という病態かどうかが含まれる。浸潤・転移が疑われリスクが高い場合は、CTスキャン、骨(シンチグラフィー)、フルオロデオキシグルコース陽電子断層撮影(FDG-PET)、磁気共鳴画像(MRI)、血液検査などの追加の検査で、遠隔転移の発見が試みられる。

乳癌の病期分類病 期解説
0期非浸潤癌といわれる乳管内にとどまっている癌、または乳頭部に発症するパジェット病(皮膚にできる癌の一種)で、極めて早期の乳癌。
I期しこりの大きさが2cm以下で、リンパ節や別の臓器には転移していない。
IIA期しこりの大きさが2cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周囲の組織に固定されず可動性がある。または、しこりの大きさが2?5cmでリンパ節や別の臓器への転移がない。
IIB期しこりの大きさが2?5cmで、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周囲の組織に固定されず可動性がある。または、しこりの大きさが5cmを超えるが、リンパ節や別の臓器への転移がない。
IIIA期しこりの大きさが5cm以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周辺の組織に固定されている状態、またはリンパ節が互いに癒着している状態、またはわきの下のリンパ節転移がなく胸骨の内側のリンパ節に転移がある場合。あるいは、しこりの大きさが5cm以上で、わきの下または胸骨の内側のリンパ節への転移がある。
IIIB期しこりの大きさやリンパ節への転移の有無に関わらず、皮膚にしこりが顔を出したり皮膚が崩れたり皮膚がむくんでいるような状態。
IIIC期しこりの大きさに関わらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移がある、または鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある。
IV期別の臓器に転移している。

※ 「国立がん研究センター がん情報サービス」の乳癌の病期(ステージ)分類表[29] より引用し改変。
治療

乳癌の治療は原則的には外科的切除であり、抗癌剤や抗エストロゲン剤など化学療法放射線療法が併用される。術前に化学療法を行なうことをneo-adjuvant治療といい、術後に行なうことをadjuvant治療と呼ぶ。非浸潤性乳管癌の場合は、より集中的な治療を行うことでリスクを低減することができる[30]。化学療法への腫瘍細胞の反応は様々で、術前化学療法で病理組織検査上、癌細胞が完全に死滅することもあるが、この場合でも、温存術後の放射線治療は省略すべきでないとされている。
外科手術

手術Stage I から III A に対して適応となる。最近では、乳房温存術と乳房切除術とでは予後に差がないことが報告されてきており、手術は拡大手術ではなく縮小手術が行われる傾向にある。

乳房温存術(lumpectomy - 腫瘤のみを摘出。乳腺腫瘤摘出術。)

乳房切除術(mastectomy - 乳房を切除ないし完全に切除する。)

胸筋合併乳房切除術

胸筋温存乳房切除術

腫瘤の大きさによって切除範囲が選択されるため、>3cm以上の大きな腫瘤や、胸壁や皮膚へ直接浸潤しているような進行している場合には広範囲切除となる。切除断端陽性(遺残)が再発の高リスクであるため、できる限りの腫瘤摘出が望まれる。

手術の際には、リンパ節郭清として、センチネルリンパ節生検 (sentinel lymph node biopsy) が行われ、リンパ節転移のある場合には状況によりセンチネルリンパ節のサンプリングだけで終わるか、腋窩リンパ節郭清を行なうか判断される。なお、乳房を直接切り開いて腫瘍を摘出する場合のほか、内視鏡を使用して摘出する場合もある[31]
根治的放射線療法 (radical radiation therapy)
乳房温存療法

温存術後に放射線治療を組み合わせた治療法を「乳房温存療法 (breast conservative treatment) 」といい、局所再発率といった治療成績は乳房全摘術 (amptation of the breast) と同等である。
乳房温存療法の禁忌

ただし妊娠中およびホモ接合性ATM遺伝子変異陽性例(極めてまれ)は放射線治療の絶対的禁忌である。また胸部照射の既往、活動性の強皮症や全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosusをはじめとする膠原病の合併、二次性悪性腫瘍のリスクの高い遺伝性疾患の合併などは相対的禁忌とされる。また、放射線治療時には両手を挙上する必要があるがこの体位を保持できない場合にも、温存療法の適応とならない。
乳房温存療法の成績

乳房温存術後の局所再発の予防を目的とした乳房全照射が一般に行なわれ、術後照射により局所再発が.mw-parser-output .frac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .frac .num,.mw-parser-output .frac .den{font-size:80%;line-height:0;vertical-align:super}.mw-parser-output .frac .den{vertical-align:sub}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}1⁄3から1⁄4に減るとする文献もあり、大規模な研究によれば、生存期間を延ばすという効果も認められている。
照射野

照射野は通常、患側乳房全体であるが、腋窩リンパ節転移が主に4個以上あれば、鎖骨上窩リンパ節領域への予防照射も検討され、術前の画像上、胸骨傍リンパ節転移を疑う場合には同部位も照射野に入れる。

乳房温存術後の予防照射としては、全乳房に対して50Gy/25fr(一回に2Gy(グレイ)という放射線量を25回照射し、総線量50Gy照射)照射するのが、一般的である。術後断端が陽性(顕微鏡レベルではあるが、手術で癌を取り切れていなかった可能性が高い)である場合などは、癌が元あった場所(腫瘍床)に10Gy/5fr追加で照射することもある(ブースト照射)。
乳房全切除術後放射線療法(postmastectomy radiation therapy; PMRT)

乳房全切除術後の放射線療法はPMRTと呼ばれる。腋窩リンパ節転移4個以上の場合はPMRTが標準治療であり、1~3個の場合もPMRTが推奨されるが全例に行うべきかどうかは議論の余地がある。照射野は胸壁および鎖骨上リンパ節領域(±内胸リンパ節領域)となり、郭清したリンパ節への照射は推奨されない。
早期有害事象

術後の予防照射では、皮膚の発赤や茶褐色の着色、乾燥、かゆみ、術創部付近のぴりぴり感などの急性の有害事象が生じることが多いものの、概して軽度に治まり、徐々に(一年程度)、照射による変化は消失していく。
晩期有害事象

一方、患側の手の浮腫は手術によるリンパ節郭清の影響と相俟って、強く出ることもあり、これは鎖骨上窩リンパ節照射を照射することによって、出現頻度が高まり、まだ症状も強い傾向にある。一旦浮腫が起こると治療することが難しいため、ならないように生活指導されるが、重いものを持たないなど患側の手を愛護的に扱うといったことが中心である。しかし、患側が利き手であるとこうしたことは難しく、研究結果とともに患者の今後の生活まで視野に入れた治療方針を決定することが重要である。また、左乳癌の場合、心臓もわずかに照射野に入るため、心膜炎狭心症心筋梗塞といった有害事象も生じうる。さらに、放射線による二次発癌も懸念される。
治療スケジュール

25回の照射は、通常土曜日、日曜日、祝日を除いて毎日連続で行なうことが必要であり、一か月と少しは毎日病院に来る必要があって、通院が負担となる例もある。そのため短期照射といって、25回よりも短い期間で同様の効果が得られる放射線治療法が健康保険でも認められており、利用されている。ただし、短期照射では、総線量が50Gyに満たない。民間の医療保険では、放射線治療を行なった場合、50Gy以上の照射でなければ、保険金が出ないという契約となっていることも多く、短期照射を希望する場合は確認が必要である。

また、小線源治療などにより、乳房全体ではなく、腫瘍があった部分に限局して放射線を照射するという研究もなされており、結果が待たれる。
緩和的放射線治療 (palliative radiation therapy)

転移および再発における症状緩和を目的とした照射がある。乳癌は比較的骨転移を来しやすい癌腫である。骨転移は無症状の場合もあるが、強い疼痛を伴うこともあり、こうした場合に病変部に照射すると、9割程度で除痛効果が得られ、半数では完全に痛みが消失する。背骨(脊椎)に転移すると、脊髄という神経の束を圧迫して、麻痺などを起こすこともあるが、放射線照射で癌を制御することにより、麻痺が解除されうる。また、脳転移も時に認められるが、数が少なければ定位放射線治療を行なったり、多ければ全脳照射を行なったりする。

他、肝臓や、肺にも転移しやすく、少数であれば定位放射線治療の適応もあるが、一般に化学療法などの全身療法をすることが多い。転移には血管新生も関係している。腫瘍の血管新生はがん細胞が周りの正常組織にPI3K/Akt/mTORシグナルを送ることから始まる。このシグナルは、正常組織の特定の遺伝子の発現をうながし、それによって新しい血管が作られる。このシグナルの働きを阻害することで、がん細胞の増殖や転移を抑制する[32]と考えられている。詳細は「転移」を参照
化学療法

ホルモン受容体の発現の有無、HER2発現の有無、Ki-67発現、遺伝子発現プロファイリングなどに応じて、内分泌薬、抗癌剤分子標的治療薬の3種類が組み合わせて用いられる。

化学療法は周術期に行うものと転移・再発例に行うものに分けられる。前者は根治を目指した治療で、後者は延命・QOL向上を目指した治療である。前者において術前化学療法と術後化学療法の効果は同等であるとされ、症例によってどちらかが選択される。乳房温存手術を希望する場合は術前化学療法が選択されることが多い。
内分泌薬
乳癌はエストロゲン依存性であることが多いことから、エストロゲン受容体 (ER) 、プロゲステロン受容体 (PgR) の発現の高いものは内分泌薬が奏効する。

抗エストロゲン薬:タモキシフェンフルベストラント


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