乳房
[Wikipedia|▼Menu]
乳首をもたない原獣類では、沁み出る乳汁を子が舐め取るという非効率な授乳方法であるため、貴重な乳汁の相当量が子に届かないまま流失する。後獣類(有袋類)の哺乳器官(乳首)は育児嚢に収まっていて、乳房と呼べるような膨らみは存在しない。真獣類(有胎盤類)の哺乳器官(乳首)は育児嚢のようなものに収納されておらず、基本構造としては体表面に露出している。そのような真獣類(有胎盤類)のごく一部のグループに、個々の乳首とその周囲を基底部から盛り上げる形で発達させているものがおり、このような構造の哺乳器官を「乳房」という。乳房の主たる構成物は柔らかくて弾力性(弾性)の高い脂肪であり、また形状としては、丘陵のようになだらか(典型: ヒトブタ)、あるいは貯蔵タンクのような塊状で(典型: ウシヤギ)、隆起もしくは膨張している。

野生の哺乳類の場合では、授乳時に乳頭が露出することによって、辛うじて存在が判明する程度の膨らみにしか発達しない種が多い。

の状態ではなく胎児の状態から産み出した後、一定の期間、乳汁を主たる栄養源として母親が子に供給し続けることで確実に育てる。それが哺乳類の採った生存戦略であり「哺乳類」という名称もここから来ている。哺乳類の乳房は、胴部の腹面に複数個、左右に対をなして発達する。オスにも乳腺、乳首、乳房が存在するが、乳汁の生産と分泌の機能をもたないため、通常的には発生学的の痕跡でしかない。つまり、発生過程の前期でメスとして成長しつつ途中でオスとして成長するべくが切り替わった個体に、切り替え以前に発現した形質が痕跡として残る、それが♂(雄及び男)の乳首ということである。

以下、特に断りがない限り、人間の乳房について記述する。ヒト以外の哺乳類の乳房については同名のセクションを参照のこと。
ヒトの乳房
概観

真獣類すなわち有胎盤類(ウシなど、胎盤を有するグループ)であるヒトの乳房の主たる役割は、出産後に母乳を分泌し、乳児を育てることである。

現代においては人工乳も改良が進み、体重や身長などの形態学的な面だけでなく、機能的な面でも母乳栄養児とほぼ同じように成長する。ただし、母乳栄養児にはアレルギーが少ないことなどが知られており、人工乳と母乳を同一視できるわけではない(母乳にはいまだ解明されていない生理機能や成分が存在する)[21]

ヒトの乳房はその大きさや膨らみ方が他のサル類より大きい例が多いこと、また、妊娠期間や育児中でなくとも目立つ存在である点で特異である。しかしなぜそうなったか、どのような過程を経てそうなったかについては議論が多く、一定の結論は出ていない。
構造

成人女性の乳房の断面図。
1. 胸壁 2. 胸筋 3. 乳腺葉 4. 乳首 5. 乳輪 6. 乳管 7. 脂肪組織 8.

乳房の表面は皮膚で覆われる。ヒトの女性では、通常は胸部の大胸筋の表面の胸筋筋膜上に左右1対が存在し、およその位置は、上下が第3肋間?第7肋間、左右は胸骨と腋窩の間である。乳房は思春期前は性差がなく男児と同じ(乳房のタナー段階I)であるが、思春期の初経を挟む約4年間に乳腺が発達し、脂肪組織が蓄積する。また、妊娠中から出産直後にかけても膨らむ[22]。乳房の脂肪組織の形や大きさは個人差が非常に大きい。20代より乳房の中身が徐々に衰退するため乳房が張りを失い徐々に下垂し始める[23]

乳房の内容は成人型乳房の場合、その体積の9割は脂肪組織で、1割が乳腺である。初潮前後から成人型乳房になるまで(乳房のタナー段階III・IV)は乳房が硬くなる。乳腺は、乳房一つあたり15?25個の塊として存在し、乳頭の周囲に放射状に並ぶ。それぞれの塊を乳腺葉と呼ぶ[24]。それぞれの乳腺葉からは乳管が乳頭まで続き、乳腺より機能し分泌された乳は、乳管、乳頭を通して体外へ出る。乳房組織の脂肪組織は乳の生産には全く関係しない[25]
成長

詳細は「乳房の成長(英語版)」を参照女性のタナー段階。思春期前は乳房・陰毛共にI。乳房がIIになることで思春期に入るが、陰毛がIIになるのはそれより後となり、以降もタナー段階の進み具合が乳房と陰毛で必ずしも同一になるとは限らない。急激な成長で妊娠線が現れた乳房

タナー段階によれば、両性において共通するのがI(幼児型)である(思春期前に、一時的に乳房が乳頭期(II)以降の状態に成長し、数ヶ月から3年で幼児型(I)に戻る症状として思春期前乳房隆起がある(殆どが2歳以下で発症)。Iに戻らなかったり、身長増加速度が異常に高かったり、骨年齢が異常に進むなどの場合は思春期早発症の可能性がある[26])。その後、女性は第II・III・IVの3課程(第2・3を前後半に分けると5過程)を経て、Vにおいて女性成人型に変化する。女性の思春期は7歳7ヶ月 - 11歳11ヶ月の間、平均年齢の9.74±1.09歳[27]に乳房の成長開始(Thelarche・乳頭期)から始まり(乳房の発育異常が見られる場合は年齢を含めてこの限りでは無い)、初経の1年以上前はIIで、初経前後でIII、初経の1年後以降でIVとなり、IからVへ変化する期間は途中で初潮を挟む約4年間である[28]。初経は多くの女性で10歳-15歳の間[29]に迎えるため、初経から3年以上経ち成人型乳房になるのは13歳(10歳で初経の時)-18歳(15歳で初経の時)以降となる。

まれに日本人女性の場合、乳房がV?Wのままで、Xまで行かずに、成長が止まってしまう事もある。但し、陰毛無毛症と同じく、放射線治療被曝による副作用及び後遺症、プラダーウィリー症候群等の性腺機能不全による視床下部性肥満及び小児の肥満及び皮下脂肪型肥満、漏斗胸等の胸郭疾患及びターナー症候群等の内分泌疾患脳腫瘍先天性癲癇障害や抗てんかん薬の薬の副作用、無理なダイエット思春期による友人関係や家庭環境等のトラブル受験等のストレス等でなければ健康上の心配はない。

成人を過ぎた場合は美容整形外科での乳房形成術豊胸術等がある。内科的治療としてはホルモン療法内服薬)があり、思春期に精神的なストレスを感じている小学5?6年生(小学生)や中高生の女児に有効的な治療法でもある。男性は女性と異なり思春期初来から成長せず、腋毛の発生時に、乳輪の面積が若干広くなり、乳頭と共に茶色や黒色に変色し、筋肉の発達後に乳房が男性成人型へ発達する[30](ただし、女性化乳房の症状が出ている場合は事情が異なる)。

女性タナー段階[31]
(ステップ)[32]細分類[33]時期[34]乳首乳輪乳首・乳輪の色乳房の膨らみその他
I
(ステップ0)思春期前小さな乳首のみ突出。乳腺が触れていない。面積が小さい。薄ピンク色。膨らんでいないため、乳房と胴体の境界が不明瞭。幼児型。成長前の男性と性差無し。
II
(ステップ1・めばえる)乳頭期[35]
(Thelarche)思春期初来初経を挟む約4年間膨らみ始める(以降、乳首の大きさには個人差がある[36])。面積が拡大し始める。個人差により薄ピンク色のままの人もいれば、ホルモンバランスの変化や乳首・乳輪に被服などの物が摩擦することなどで乳首・乳輪のメラニン細胞が活性化してメラニンが生成され、黒ずむ人もいる[37]。蕾期[38]乳腺が活動し始める。内部から広がるように膨らんでいくため、乳首・乳輪付近が非常に敏感・繊細で傷付きやすく、体操シャツTシャツ1枚のみ着用し且つ胸と密着した時[39]、乳首・乳輪付近に疼痛痒みが生じたり(これが左記の黒ずみの一因になる)、胸ポチが生じやすくなることで思春期に入り[40]、ノーブラを止めてジュニアブラを着け始める必要がある[41]事に気づきやすい。
初経の1年以上前
乳輪期[35]膨らみが増す。面積の拡大が増す。乳輪付近が硬くなりながら[42]膨らみ始める。
III
(ステップ2・ふくらむ)乳房第1期初経前後膨らみが増す。乳頭径はこれ以降4-9mmに膨らむ。乳輪付近だけでなく、乳房全体が硬さ[42]を増しながら膨らみ始める。乳房の内部組織の成長が進み、中にしこりができてくる時期。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:97 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef