中華人民共和国法
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地方性法規は、一級行政区又は主要都市の人民代表大会(人代)及びその常務委員会が、憲法、法律及び行政法規に抵触しない限りで、制定する。

自治条例・単行条例は、自治区、自治州又は自治県が制定するもので、当該地方の基本法となるものが自治条例、個別分野を規律するものが単行条例である。家族法の分野を中心に、当該地方の実情に合わせた「変通規定」が制定されている。

行政規則(行政規章)は、国務院の各部門、又は一級行政区若しくは主要都市の人民政府が、法律又は国務院の行政法規・決定・命令に基づいて、制定する。行政規則は裁判規範ではない(人民法院は行政規則とは異なるルールを使って事件の結論を出すことができる)が、参照される。

人民法院の判例は、法的拘束力を有しないが、最高人民法院の裁判例は下級人民法院の事件処理の指針となっている。さらに、最高人民法院及び最高人民検察院が示す司法解釈が、判例以上に、裁判実務や検察実務の重要な指針となっている。

立法の憲法適合性を審査する権限は全人代又はその常務委員会にあり、人民法院にはない(人民民主主義の理念によれば、人民法院は全人代と対等な機関ではなく、その裁判部門にすぎない)。国務院、中央軍事委員会、最高人民法院、最高人民検察院又は一級行政区の人代常務委員会は、全人代常務委員会に対し、行政法規、地方性法規、自治条例・単行条例の憲法・法律適合性の審査を要求することができる。
司法組織、裁判制度

共和国の司法組織は、人民法院組織法及び人民検察院組織法が規定している。また、訴訟手続は、民事訴訟法、刑事訴訟法及び行政訴訟法が規定している。

共和国の裁判制度は、一般に、四級二審制を採用している。すなわち、人民法院は、最高人民法院を頂点として組織される。下級法院としては、まず、軍事事件を取り扱う人民解放軍軍事法院・大軍区級軍事法院・軍級軍事法院からなる軍事法院の系列がある。また、軍事関係以外の事件を取り扱う最上位の下級法院として、各一級行政区に高級人民法院が置かれ、その下には、海事事件を取り扱う海事法院及び鉄道運輸事件を取り扱う鉄道運輸中級法院・鉄道運輸基層法院という特別法院のほか、通常事件を取り扱う地区級の中級人民法院・県級の基層人民法院という系列がある。

民事・刑事・行政事案の第一審では、人民陪審員制度[注 1][注 2]が採用されている。

@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}共和国では、憲法及び法院組織法に人民法院が裁判権を独立して行使する旨の規定があるが、実際には、法院内部でも院長等の幹部職員や裁判委員会による審査・承認・「助言」という制度があるし、共産党による「指導」、予算を握る各級人民政府からの影響といった、日米欧の先進諸国で観念される「司法の独立」とは異質の要素の存在が数多く指摘されている。[要出典]

人民検察院は、各級の人民法院に対応して設置されている。その主たる任務は、逮捕・起訴の可否の決定、公訴の提起・維持、刑事事件の判決の執行である。また、人民検察院は、刑事事件に限らず、第一審判決に誤りがあると認めるときは、その判決が既に効力を生じた[注 3]か否かを問わず、上訴の手続(抗訴)をとることができる。
法分野

主要な法分野としては、憲法、行政法、民事法(共和国には独立の商法典はない《民商合一》)、経済法、刑事法、訴訟法といった分野がある。中国における昨今の法典整備は、ドイツ法を直接の参考にしているほか、ドイツ法を継受した日本法、日本法の影響が強い台湾法を参考にしているという間接的な意味でも、ドイツ法の影響を受けているといえる[9]
民法典

民事法については2020年に民法典が成立した。同法律は総則、物権、契約、人格権、婚姻家庭、相続、権利侵害責任の7つの編及び附則の合計1260条によって構成されている。民法典成立以前に中国には民法は存在せず個別の法律があったが民法典成立に伴い廃止された[10]

1970年代までは企業間紛争は人民法院の管轄から外されており、「婚姻家族法」を中心とする家族法が比較的整備されていたほかは、各種行政法規や行政規則、司法解釈に関係規定が点在するのみというのが実情であった[11]

改革・開放が始まり、共和国政府は財産法の体系的整備を開始したが、1980年代前半には「経済法論」[注 4]が通説ないし有力になり、これに基づく「技術契約法」が制定された。

しかし、共和国政府内にも、市場経済を規律するには取引主体の自主性・平等性を重視するべきであるという考え方が浸透し、1986年に採択された「中華人民共和国民法通則」では、「平等な主体である公民間、法人間、公民と法人との間の財産関係と人身関係」という表現が用いられるに至った。その後も、「中華人民共和国物権法」、「中華人民共和国担保法」、「中華人民共和国契約法」が制定され、経済法論は民事法立法の指導原理としての地位を失った。

2021年民法典の施行に伴い個別にあった、民法通則、物権法、担保法、契約法、権利侵害責任法、婚姻法、養子縁組法、相続法が廃止となった。

商事法の分野には、「全人民所有制工業企業法」、「中華人民共和国公司法(会社法)」、「郷鎮企業法」、「組合企業法」、「手形小切手法」、「保険法」、「証券法」などの法律があり、商法学が民法学から独立した学問分野として認知されるに至っている。もっとも、商法典を民法典とは独立に制定しようという動きは支配的とはなっていない。

倒産法の分野では、「企業破産法(試行)」が制定されているが、共和国政府は企業の法的整理を実施することには消極的であり、個人倒産法制については、法律すら制定されていない。

知的財産権法の分野では、「商標法」が1950年代に制定されたほかは、21世紀初頭まで大きな進展がなかった。2001年以降、発明、実用新案、意匠を包括して規律する「中華人民共和国専利法」、「著作権法」が制定された。

国際私法については、「民法通則」等に若干の規定があるが、体系的な法規が制定されていない。「民法通則」によれば、共和国が加盟・調印した条約と国内法とが抵触するときは、条約が優先する。共和国の法も条約も存在しないときは、国際慣習によるが、共和国の社会公共利益に反することはできない。
民事紛争処理制度

中華人民共和国民事訴訟法は、法院は民事事件について判決をする前に調停を行うという調停前置主義を採用している。また、民事訴訟法は、職権探知主義を採用し、当事者が収集不可能な証拠や事件の審理に必要と認める証拠を人民法院が自ら調査・収集する。また、訴えの取下には人民法院の許諾が必要であり、処分権主義も徹底されていない。

村民委員会などは、人民調停委員会を設置することができ、この人民調停委員会による人民調停が民間紛争の処理に大きな役割を果たしている。また、基層人民政府も「司法助理員」と呼ばれる専従職員を置き、民間紛争の調停に当たっている。その他、弁護士事務所や郷鎮法律サービス事務所も調停を行っている。ただ、基層人民政府による調停を除き、調停が成立しても、その後に当事者が翻意すれば人民法院への出訴等は妨げられないのが一般である。

仲裁については、「仲裁法」が制定されている。同法は、家族関係に関する民事紛争、行政争訟、労働紛争(別の仲裁制度を定めるものとしている)、農業集団経済組織内部の農業請負契約紛争(別の仲裁制度を定めるものとしている)については、適用されない。同法の適用がある民事紛争については、当事者は、仲裁合意に基づいて、一級行政区人民政府所在市の人民政府に置かれた仲裁委員会に、仲裁の申請をすることができる(仲裁合意があるのに人民政府に提訴しても、受理されない)。仲裁は、仲裁委員会が事件ごとに任命する仲裁人が行う。仲裁裁定は、一審限りの終局判断とされ、手続の瑕疵を理由として人民法院に取消しを求めることができるほかは、不服を申し立てることができない。

中国民事訴訟法231条は、訴訟の解決までの間、外国人当事者に対して人民法院による出国停止処分を認めている。近年、日本企業に対して従業員や取引先が訴訟をおこし、企業の責任者などが出国停止処分を受ける例が急増し、問題となっている。(チャイナリスクも参照のこと)
刑事法

共和国では、1979年に「中華人民共和国刑法」が制定されるまでは、単行法令や各種司法解釈、共産党の文書などに刑罰規定が置かれていた。79年「刑法」は、犯罪を「社会に危害を加える行為で、法律により刑罰を受けるべきもの」と定義し[注 5]類推解釈を公認していた。

1997年に「刑法」は全面的に改正された(その後、全人代常務委員会による多くの改正がある)。97年「刑法」は、類推解釈を禁止し、罪刑法定主義を採用した。日本をはじめとする大陸法圏の刑法と比較したときの大きな特色としては、共犯論について、正犯・従犯という構成要件を中心とした枠組に代えて、主犯・従犯という犯罪の経緯に着目した枠組が用いられていることである。主刑には管制(公安機関の監督下で生活させること)、拘役(労働改造刑)、有期懲役、無期懲役、死刑の5種類があり、付加刑には罰金、政治的権利剥奪、財産没収がある。死刑にも執行猶予の制度がある(猶予期間を経過すれば無期懲役に減軽される)のも特徴である。

「刑事訴訟法」も、1996年に全面的に改正された。公安機関による捜査は、立案[注 6]に始まり、証拠収集を経て、人民検察院に起訴意見書を提出することで終了する。犯罪嫌疑人の身柄拘束期間は原則として2か月であるが、所定の手続を経て延長することができる。起訴意見書を受理した人民検察院は、公訴提起決定、事件取消決定又は不起訴決定をする。人民法院は、公訴を受理すると、原則として1か月?1か月半で判決をする、無罪の推定は明示的には採用されていない。訴弁取引(弁訴取引、控弁取引とも。司法取引のこと。)は、実例はあるが、制度としては採用されていない。

社会危害性はあるが犯罪とするに値しない行為については、公安機関が、「治安管理処罰法」に基づき、警告、罰款(日本法の過料に相当する)、行政拘留、許可証の取消し、外国人に対する国外退去といった治安管理処罰を課す。治安管理処罰の決定は、行政不服審査の申立てや行政訴訟によって争うことができる。その他、かつての共和国では、法の根拠がない行政処罰や、法定の手続を遵守しない行政処罰、公布されていない法令に基づく行政処罰がみられたが、「行政処罰法」は、このような行政処罰を明文をもって禁止した。

共和国では、正業に就かない者や麻薬中毒者等に対する労働矯正も行われている。労働矯正の期間は最長で4年にも及び、その手続や運用に関する批判[注 7]が高まっている。
行政法

共和国においても、「法治」とか「依法行政」(法による行政)という言葉が使われるが、これは、日本でいう「法治主義」とは異なり、「人治」や「党治」に対応する概念にすぎない。共和国においては、前近代的な「官府無錯」(国家無答責の法理参照)という法意識や社会主義的な「人民政府と人民の間に利益の対立はあり得ない」という発想が、行政の法的統制や行政救済の発展が立ち遅れる要因となっていた。


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