中古漢語
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ただし頭子音が硬口蓋音かそり舌音か歯茎音かだけで区別されうるミニマル・ペアが同じ列に配置されることがないよう調整されているため、別の音同士のグループが合流している例はない[14]

それぞれの頭子音はさらに下記のように分類される:[15]

調音部位:「脣音」(唇音)、「舌音」(歯茎音)、「牙音」(軟口蓋音)、「歯音」(破擦音歯擦音)、「喉音」(咽喉音)。

発声:「清」(無気無声音)、「次清」(有気音)、「濁」(有声音)、「清濁」(鼻音または流音)。

それぞれの図には16行があり、伝統的な4つの声調(四声)に従って4行ずつ4グループに分けられている。ただし四声のうち入声には/p/、/t/、/k/で終わる音節のみが入り、それぞれ/m/、/n/、/?/で終わる音節と同じ列に配置されている。各声調の中の4行の配置の意味は解釈が難しく、激しく議論されている。これらの4行は普通、一等、二等、三等、四等(等呼)と呼ばれ、音節の頭子音または介音の口蓋化あるいはそり舌音化、あるいは似た主母音の音質(たとえば/?/、/a/、/?/)の違いに関連すると考えられている[13]。一方でこれを音声的カテゴリーではなく、『切韻』の分布パターンを活用してコンパクトな表示を実現する形式的な仕掛けと見ている学者もいる[16]

図のそれぞれのマスは、『切韻』の韻目に対応する。この配置から、それぞれの韻目を上記のカテゴリーに分類することができる[17]
現代方言と他言語での漢語系語彙

韻書や韻図は音韻的カテゴリーを示してはいるが、カテゴリーの実際の発音を明示はしていない。そこから変化した現代中国語諸方言の発音は手助けになるが、現代諸方言は後期中古音のコイネー言語に由来し、前期中古音の発音を知るのにはそれほど使えない。前期中古音の時期には大量の語彙が体系的にベトナム語、朝鮮語、日本語へ借用された(それぞれ漢越語漢字語漢語(音読み)と呼ばれる。漢語系語彙も参照)。ただし中国語の音韻を他言語の音韻体系に落とし込む際には、必然的に多くの区別が失われた[18]

例えば、下記に数詞の、中国語の3つの方言と、ベトナム語、朝鮮語、日本語に借用された発音を示す。

現代中国語方言ベトナム語朝鮮語
(イェール式)日本語[19]中古中国語[注釈 1]
北京
標準語蘇州
呉語広東語呉音漢音
1一y?[i??]7jat1nh?tilichiitsu?jit
2二er[?i]6ji6nh?inijinyijH
3三s?n[s?]1saam1tamsamsansam
4四si[s?]5sei3t?sashisijH
5五w?[?]6ng5ng?ogonguX
6六liu[lo?]8luk6l?c[r]yukrokurikuljuwk
7七q?[ts?i??]7cat1th?tchilshichishitsutshit
8八b?[po?]7baat3batphalhachihatsup?t
9九ji?[t?ioy]3gau2c?ukwukuky?kjuwX
10十shi[z??]8sap6th?psipj? < ji?udzyip

他言語の転写

中国語に転写された他言語からの証拠はさらに限られており、他言語の発音を中国語の音韻体系に落とし込むことで借用語同様の曖昧さが生じているが、他のデータでは欠落している直接的証拠を保存している。なぜなら外国語(特にサンスクリットガンダーラ語)から借用された語の発音は詳しく知られているからである[20]

たとえば、鼻音の頭子音/m n ?/は唐代初期にはサンスクリットの鼻音を表すのに使われていたが、後にサンスクリットの無気有声子音/b d ?/を表すのに使われるようになった。このことは、中国の一部の北西方言で鼻音が前鼻音化破裂音[?b] [?d] [??]に変化したことを示唆している[21][22]
研究方法ベルンハルド・カールグレン

韻書や韻図は音韻カテゴリーを提供しているが、具体的にどういう音を表しているのかヒントはほとんど与えてくれていない[23]19世紀末、ヨーロッパの研究者らは、インド・ヨーロッパ祖語の再構に使われた歴史言語学の手法を適用することでこの問題を解決しようと探求した。Volpicelli(1896)とSchaank(1897)は康熙字典にある韻図と現代方言の発音を比較したが、彼らには言語学の知識がほとんど無かった[24]

スウェーデンの方言の転写の訓練を受けていたベルンハルド・カールグレンは、初めて現代中国方言の体系的な調査を行った。彼は韻書の音の記述として、当時知られていた最古の韻図を使い、また当時知られていた最古の韻書である『広韻』を研究した[25]。彼は陳?による研究を知らないまま、韻書の声母と韻母を特定するのに必要な反切の分析を繰り返した。カールグレンは、研究結果はの首都だった長安の標準発音を反映したものと考えていた。彼は多くの区別をこの言語の正確な音声の精密表記として解釈した。彼は字音や現代方言の発音を『切韻』における分類の反映として扱うことでこの再構を行おうとした。『切韻』における一部の分類は、現存するどの言語・方言の発音でも区別されておらず、カールグレンはこの場合は同一の音を再構した[26]


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