中世日本語
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一方/Q/は「つ」「ツ」と表記されるが、後続する閉鎖音・摩擦音の複製として機能する[8]

また、中古日本語においては/kw,gw/のような唇音化した子音も用いられていた。しかし中世日本語期には、i音とe音の前に置かれたこれら唇化子音は、円唇化を伴わない子音と一体化していった。

/kwi/ > /ki/: 「くゐ」→「き」

/gwi/ > /gi/: 「ぐゐ」→「ぎ」

/kwe/ > /ke/: 「くゑ」→「け」

/gwe/ > /ge/: 「ぐゑ」→「げ」

なお、/ka/と/kwa/(「か」と「くわ」)の違いは依然として残存した。

歯擦音/s, z/は/i/と/e/の前で以下のように口蓋化する[9]

/sa, za/(さ、ざ): [sa, za]

/si, zi/(し、じ): [?i, ?i]

/su, zu/(す、ず): [su, zu]

/se, ze/(せ、ぜ): [?e, ?e]

/so, zo/(そ、ぞ): [so, zo]

ジョアン・ロドリゲスは著書『日本大文典』において、関東方言では/se/が[?e]でなく[se]と実現されている、と述べている[10]。/t/と/d/は歯音とは違うが、/i, u/が後続する場合には下記のような破擦音的変化を引き起こす[9]

/ti, di/(ち、ぢ): [t?i, d?i]

/tu, du/(つ、づ): [tsu, dzu]

音素/s, z/以外の/k, g/、/t, d/、/n/、/h, b/、/p/、/m/ならびに/r/においては口蓋化があったとする説もある。ローランド・ラングは朝鮮版『伊路波』(1492年刊)のエ列音のハングル表記を基にこれを主張している[11]
四つがな

ダ行音の「ぢ」/di/「づ」/du/が破擦音化した結果、ザ行音の「じ」/zi/「ず」/zu/と混同するようになった。このように「じ-ぢ」「ず-づ」の区別がそれぞれ混乱することを四つがなの混同という。ジョアン・ロドリゲスの『日本大文典』の記述によると当時の京都では既に混乱があったとされているが、キリシタン資料ではおおむね書き分けられている[12]。(詳細は四つ仮名参照)
濁音

有声破裂音および摩擦音においては前鼻音化が生ずる[13]とする説と前の母音が鼻母音になるとする説がある[14]

/g/(ガ行): 例 「はげ」: [?ange] - [?age]

/z/(ザ行): 例 「なぜ」: [nanze] - [naze]

/d/(ダ行): 例 「まで」: [mande] - [made]

/b/(バ行): 例 「なべ」: [nambe] - [nabe]

これもまたジョアン・ロドリゲス『日本大文典』における所見である。また、朝鮮で作られた教本『捷解新語』では、日本語における/b/、/d/、/z/、/g/の発音をハングル文字でmp、nt、ns、ngkと読むように表記していた。
/h/と/p/「半濁音」も参照

文献以前の日本語には[p]音が存在していたと考えられているが、これが上代日本語末期までには既に摩擦音[?]となり、さらに近世日本語において[h]音へと変化して現在に至る。中世日本語には上代までに一旦消えた[p]が再び現れたが、[?]と並立することから[?] (音素/h/としておく)とは異なる、新しく導入された音素/p/として扱われる。「さんぱい」「にっぽん」のような漢語だけでなく、「ぴんぴん」「ぱっと」などの擬態語にも使われる[15]。語頭以外の/h/は平安時代中期に/w/と統合したため、中世には/a/ /o/が後に続くときには[w]音になるが、その他の母音の前では発音されない[16][17]。よって語頭以外のハ行は下記の通りとなる。

「-は」: /wa/: [wa]

「-ひ」: /i/: [i]

「-ふ」: /u/: [u]

「-へ」: /ye/: [je]

「-ほ」: /wo/: [wo]

半母音

中古日本語から中世日本語への変化の過程で、/i/ と /wi/の統合、/e/ と /ye/ と /we/ の統合、/o/ と /wo/ の統合が起こったため、ワ行は下記の通りとなる。

「わ」: /wa/: [wa]

「ゐ」: /i/: [i]

「ゑ」: /ye/: [je]

「を」: /wo/: [wo]

/w/はワ行のほかには「くわ」/kwa/は残ったが、/kwi/、/kwe/ はそれぞれ /ki/、/ke/ に統合したようである[18]

/e/と/ye/と/we/の統合は12世紀末までにほぼ完成する。相次ぐ融合により、/e/と/we/および/ye/はすべて[je]に実現し、区別がなくなった。ヤ行は下記の通りである。

「や」: /ya/: [ja]

「ゆ」: /yu/: [ju]

(「江」: /ye/: [je])[注釈 1]

「よ」: /yo/: [jo]

なお参考までにア行は次の通りである。

「あ」: /a/: [a]

「い」: /i/: [i]

「う」: /u/: [u]

「え」: /ye/: [je]

「お」: /wo/: [wo]

音節の構成

従来、音節は開音節(母音、あるいは子音+母音)の形をとっていたので、音節モーラを区別する必要はなかったのであるが、のちに-m、-n、-tなどの子音で終わる中国由来の外来語が新しくもたらされた。子音+母音+子音という形を取る閉音節も一音節と数えられたが、モーラは以前からの開音節に基づいていた。-mで終わる音節と-nで終わる音節は当初区別されていたが、中世日本語の中期には両者/N/と同化した[19]。-tで終わる音節は「チ」「ツ」と表記されるが、キリシタン資料では主に t のみで書かれることから、母音/i/, /u/を伴うものと、[t]のままで実現する場合があったと考えられているが、異説もある[20]

Nichiguat(日月)

Butbat(仏罰)

連声

-m、-n、-tで終わる音節のうち、母音または半母音が続くものには連声が起こり、子音が-mm-、-nn-、-tt-のように連音化した[21]。-m > -mm-の例

samwi > sammi: さむ+ゐ→さむみ(三位)

-n > -nn-の例

ten'wau > tennau > [tenno?]: てん+わう→てんなう→てんのう(天皇)

kwan'on > kwannon: くゎん+おん→くゎんのん(観音)

kon'ya > konnya (今夜): こん+や→こんにゃ

-t > -tt-:

set'in > settin: せつ+いん→せっちん(雪隠)

konnitwa > konnitta: こんにち+は→こんにった(今日は)

but'on > button: ぶつ+おん→ぶっとん(仏音、仏恩)

音便

音便とは散発的に起こる音変化の一種である。「必然的なものでも、例外なしに起こるものでもなかった」[22]うえ、それらの変化が起こった詳しい原因についてはいまだ論争が続いている。言語生成の比較的早い段階でも現れることから、音便は中世日本語の動詞および形容詞の形態に大きな影響を及ぼした。動詞における音便の例としては

yom-(読む): /yomite/ > /yoNde/(読みて→読んで:[jo?de])

kuh-(食う): /kuhite/ > /kuute/(食ひて→食うて:[ku?te]): /kuQte/(食って:[kutte])

などがある。「食う」において起こりうる音便は二通り存在し、前者は西日本、後者は東日本の方言において顕著である[23]。また形容詞の例としては

/hayaku/ > /hayau/(はやく→はやう→はよう:[?ajaku] > [?ajau] > [?aj??])

/kataki/ > /katai/(かたき→かたい:[katai])

などがあるが、上記の例はいずれも、語中の音-k-が脱落したものである。
文法

古代からの文法の多くが姿を消していき、これにより日本語は現在の形式により近いものとなっていった。大きな発展の一例として、終止形の代わりに連体形を使用するようになったことが挙げられる[24]。この変化はさらに

二段活用の一段化において大きな役割を果たした[25]

一連の変化を通じ、二種類あった形容詞の活用が一つに統合されることとなった

係り結びの規則が力を失っていった

「ある」は変格活用動詞とされていたが、規則的な四段活用動詞へと変化を遂げていった

というように様々な事象へとつながるものである。
動詞

中世日本語は中古日本語からの9種類の動詞の活用を全て継承している。原則カ行の例を表記する(後述の形容詞においても同様)。

分類未然形連用形終止形連体形已然形命令形
四段活用-か (-a)-き (-i)-く (-u)-く (-u)-け (-e)-け (-e)
上一段活用-き (-i)-き (-i)-きる (-iru)-きる (-iru)-きれ (-ire)-きよ (-i[yo])
上二段活用-き (-i)-き (-i)-く (-u)-くる (-uru)-くれ (-ure)-きよ (-i[yo])
下一段活用-け (-e)-け (-e)-ける (-eru)-ける (-eru)-けれ (-ere)-けよ (-e[yo])
下二段活用-け (-e)-け (-e)-く (-u)-くる (-uru)-くれ (-ure)-けよ (-e[yo])
カ行変格活用-こ (-o)-き (-i)-く (-u)-くる (-uru)-くれ (-ure)-こ (-o)
サ行変格活用-せ (-e)-し (-i)-す (-u)-する (-uru)-すれ (-ure)-せよ (-e[yo])
ナ行変格活用-な (-a)-に (-i)-ぬ (-u)-ぬる (-uru)-ぬれ (-ure)-ね (-e)
ラ行変格活用-ら (-a)-り (-i)-り (-i)-る (-u)-れ (-e)-れ (-e)

しかしこの時代を通して徐々に二段活用の動詞が一段活用へと変化していった。この変遷の過程は近代日本語において完成をみるが、ある面では終止形と連体形が融合した結果引き起こされた変化であるといえよう[25]
形容詞

形容詞には2つの種類がある。通常の形容詞形容動詞である。前者は歴史的にさらに2つに分類される。連用形が「-く」で終わるものと「-しく」で終わるものの2種類である[26]

分類未然形連用形終止形連体形已然形命令形付記


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