中古日本語から受け継がれた形容動詞の活用の種類は2つある。ナリ活用、タリ活用である。
分類未然形連用形終止形連体形已然形命令形付記
ナリ活用-なら-なり
-に-なり-なる
-な-なれ前期
-なら-に
-で-な
-ぢゃ-なる
-な
-ぢゃ
-の-なれ後期
タリ活用-たら-と-たり-たる-たれ
最も顕著な変化として、連体形「-なる」から「-な」への遷移が挙げられる[28]。終止形と連体形の合一が起きたとき、両者いずれもが新しい「-な」という変化形をとった。「-たり」型の形容動詞は古いものとみなされ、以降使用が減少していった。 下二段活用・上二段活用の連体形・已然形において、-uru・-ureの語尾が-eru・-ere、-iru・-ireの形になってそれぞれ下一段、上一段と同じような活用形になる史的変化のことを二段活用の一段化という。 平安末期や鎌倉時代には既に例が見られるが、まだ一般的ではなく、室町時代、江戸時代を経てゆっくりと一般化していった[29]。 連体形で文を終止することは、上代日本語にも中古日本語にも会話文を中心に見られるが、室町時代にはほぼ一般化した[30]。中古までの連体形終止には余情・余韻が感じられたが、中世に一般化すると終止形終止の機能と変わりのないものになった[31]。 已然形は仮定形へと発展を遂げていく[32]。已然形は既に起こっていることを述べる場合(確定条件)に用いられたがこの用法は徐々に衰え、いまだ起きていないことについて述べる仮定条件として使われるようになった。現代日本語の仮定形においてはもはや仮定条件のみが存在し、確定条件は使用されていない。確定条件は「ところ」「ほどに」「あひだ」などの語法で表すようになった[33]。 命令形は古来、接尾辞なし、あるいは接尾辞「-よ」をつけて用いられた。中世日本語においては下二段・カ変・サ変活用の動詞に接尾辞「-い」が用いられるようになった[34]。 ロドリゲスは『日本大文典』で、「見よ→見ろ」のように、「-よ」が「-ろ」により代用されることもあると指摘している[35]。8世紀の古代日本語、なかでも東日本の方言では古くこのような「-ろ」命令形が用いられていたが、現代日本語においてはもはやこれが標準となっている。 連体形で文末を結ぶ「ぞ・なむ・や・か」の係結びは、連体形終止の一般化と共に意義を失い、形式も混乱していった。已然形で結ぶ「こそ」の係結びも、逆接の接続助詞を伴ったものが増えてきたが、連体形係結びに比べて後代まで残った[36]。現代にも「-こそすれ」「-こそあれ」の形が化石的に残っている。 時制および相の体系は急激な変化にさらされることとなった。完了を表す「ぬ」「つ」「り」、過去の時制を表す「き」「し」「けり」は廃れていき、代わりに完了相「たり」が一般的な過去時制へと発展していった。これが次第に「た」へと変化し、現代では過去時制の形式となっている[37]。 格助詞「にて」が変化し、新たに「で」が用いられるようになった[38]。推量を表す助動詞「む」はmu > m > N > ? と、何度も音声学上の変化を経ている。未然形の語幹の母音と結びつく場合には長母音化を起こすが、その直前に-y-の音が挿入されることがある。 中世日本語初期から「候ふ」が丁寧語助動詞として盛んに用いられるようになり、鎌倉時代にはこれを特徴とする書き言葉としても用いられるようになって候文に発展した。候文は書簡、公文書等に近代まで用いられた。
二段活用の一段化
たぶる(taburu)>たべる(taberu)
すぐる(suguru)>すぎる(sugiru)
連体形終止
仮定形
命令形
呉れ+い (くれい)
来+い (こい)
為+い (せい)
係結び
時制・相
助詞
候文
脚注[脚注の使い方]
注釈^ ア行「え」とヤ行「江」の区別は中古前期に既に失われている。
出典^ Shibatani(1990: 119)
^ 中田(1972: 175)
^ 近藤 (2005: 97)
^ Shibatani(1990: 121)
^ 中田 (1972: 181)
^ 山口(1997: 86-87)
^ 近藤(2005:123)
^ Miyake (2003: 76-77)
^ a b Miyake(2003: 75)
^ 山口(1997: 87-88)
^ 馬淵(1971:113-114)
^ 佐藤(1995:106-107)
^ 大野 (2000: 53-54)
^ 近藤(2005:125)
^ 中田 (1972: 197-198)
^ 近藤 (2005: 71)
^ Miyake (2003: 74-75)
^ 近藤(2005:103)
^ 近藤 (2005: 102)
^ 近藤(2005:127)
^ 近藤 (2005: 103)
^ Frellesvig (1995: 21)
^ 近藤 (2005: 128)
^ 山口 (1997: 95-96)
^ a b 坪井 (2007: 14-30)
^ 松村 (1971: 961, 966-967)
^ 近藤(2005:113)
^ 近藤 (2005: 113)
^ 近藤(2005:113, 134-136)
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^ 山口(1997:94-95)
^ 山口 (1997: 96)
^ 佐藤(1995:144)
^ 山口 (1997: 97)
^ 山口 (1997: 97-98)
^ 山口(1997:109-111)
^ Shibatani (1990: 123)
^ 近藤 (2005: 113-114)
参考文献
土井忠生『時代別国語大辞典 室町時代編一』三省堂、東京、1985年。ISBN 4-385-13296-8。
ジョアン ロドリゲス、土井忠生(訳)『日本大文典』三省堂、1955年(原著1604-1608)。ISBN 978-48301-02974。
『邦訳日葡辞書』岩波書店、東京、1980年(原著1603年)。ISBN 4-0008-0021-3。
Frellesvig, Bjarke (1995). A Case Study in Diachronic Phonology: The Japanese Onbin Sound Changes. Aarhus University Press. ISBN 87-7288-489-4
ジョアン ロドリゲス、池上岑夫(訳)『日本語小文典』岩波書店、1993年(原著1620年)。ISBN 4-00-336811-8, ISBN 4-00-336812-6。
近藤泰弘、月本雅幸, 杉浦克己
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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