中世日本語
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-m、-n、-tで終わる音節のうち、母音または半母音が続くものには連声が起こり、子音が-mm-、-nn-、-tt-のように連音化した[21]。-m > -mm-の例

samwi > sammi: さむ+ゐ→さむみ(三位)

-n > -nn-の例

ten'wau > tennau > [tenno?]: てん+わう→てんなう→てんのう(天皇)

kwan'on > kwannon: くゎん+おん→くゎんのん(観音)

kon'ya > konnya (今夜): こん+や→こんにゃ

-t > -tt-:

set'in > settin: せつ+いん→せっちん(雪隠)

konnitwa > konnitta: こんにち+は→こんにった(今日は)

but'on > button: ぶつ+おん→ぶっとん(仏音、仏恩)

音便

音便とは散発的に起こる音変化の一種である。「必然的なものでも、例外なしに起こるものでもなかった」[22]うえ、それらの変化が起こった詳しい原因についてはいまだ論争が続いている。言語生成の比較的早い段階でも現れることから、音便は中世日本語の動詞および形容詞の形態に大きな影響を及ぼした。動詞における音便の例としては

yom-(読む): /yomite/ > /yoNde/(読みて→読んで:[jo?de])

kuh-(食う): /kuhite/ > /kuute/(食ひて→食うて:[ku?te]): /kuQte/(食って:[kutte])

などがある。「食う」において起こりうる音便は二通り存在し、前者は西日本、後者は東日本の方言において顕著である[23]。また形容詞の例としては

/hayaku/ > /hayau/(はやく→はやう→はよう:[?ajaku] > [?ajau] > [?aj??])

/kataki/ > /katai/(かたき→かたい:[katai])

などがあるが、上記の例はいずれも、語中の音-k-が脱落したものである。
文法

古代からの文法の多くが姿を消していき、これにより日本語は現在の形式により近いものとなっていった。大きな発展の一例として、終止形の代わりに連体形を使用するようになったことが挙げられる[24]。この変化はさらに

二段活用の一段化において大きな役割を果たした[25]

一連の変化を通じ、二種類あった形容詞の活用が一つに統合されることとなった

係り結びの規則が力を失っていった

「ある」は変格活用動詞とされていたが、規則的な四段活用動詞へと変化を遂げていった

というように様々な事象へとつながるものである。
動詞

中世日本語は中古日本語からの9種類の動詞の活用を全て継承している。原則カ行の例を表記する(後述の形容詞においても同様)。

分類未然形連用形終止形連体形已然形命令形
四段活用-か (-a)-き (-i)-く (-u)-く (-u)-け (-e)-け (-e)
上一段活用-き (-i)-き (-i)-きる (-iru)-きる (-iru)-きれ (-ire)-きよ (-i[yo])
上二段活用-き (-i)-き (-i)-く (-u)-くる (-uru)-くれ (-ure)-きよ (-i[yo])
下一段活用-け (-e)-け (-e)-ける (-eru)-ける (-eru)-けれ (-ere)-けよ (-e[yo])
下二段活用-け (-e)-け (-e)-く (-u)-くる (-uru)-くれ (-ure)-けよ (-e[yo])
カ行変格活用-こ (-o)-き (-i)-く (-u)-くる (-uru)-くれ (-ure)-こ (-o)
サ行変格活用-せ (-e)-し (-i)-す (-u)-する (-uru)-すれ (-ure)-せよ (-e[yo])
ナ行変格活用-な (-a)-に (-i)-ぬ (-u)-ぬる (-uru)-ぬれ (-ure)-ね (-e)
ラ行変格活用-ら (-a)-り (-i)-り (-i)-る (-u)-れ (-e)-れ (-e)

しかしこの時代を通して徐々に二段活用の動詞が一段活用へと変化していった。この変遷の過程は近代日本語において完成をみるが、ある面では終止形と連体形が融合した結果引き起こされた変化であるといえよう[25]
形容詞

形容詞には2つの種類がある。通常の形容詞形容動詞である。前者は歴史的にさらに2つに分類される。連用形が「-く」で終わるものと「-しく」で終わるものの2種類である[26]

分類未然形連用形終止形連体形已然形命令形付記
ク活用-く
-う-し
-き
-い-き
-い-けれ前期
-く
-う-し
-い-き
-い-けれ後期
-から-かり-かる-かれ前期
-から-かり
-かっ-かる-かれ後期
シク活用-しく
-しう-し
-しき
-しい-しき
-しい-しけれ前期
-しく
-しう-し
-しい-しき
-しい-しけれ後期
-しから-しかり-しかる-しかれ前期
-しから-しかり
-しかっ-しかる-しかれ後期

この2つの活用の区別をなくし統一をもたらしたものとして、以下3つの事象が挙げられる。

終止形と連体形が融合したこと

後期には形容詞の接尾辞「-き」が「-い」へと変化したこと

なお鎌倉時代にはシク活用の終止形に「しし」という形が見られる(「見苦しし」「たのもしし」等)が、一般化はしなかった[27]

中古日本語から受け継がれた形容動詞の活用の種類は2つある。ナリ活用、タリ活用である。

分類未然形連用形終止形連体形已然形命令形付記
ナリ活用-なら-なり
-に-なり-なる
-な-なれ前期
-なら-に
-で-な
-ぢゃ-なる
-な
-ぢゃ
-の-なれ後期
タリ活用-たら-と-たり-たる-たれ

最も顕著な変化として、連体形「-なる」から「-な」への遷移が挙げられる[28]。終止形と連体形の合一が起きたとき、両者いずれもが新しい「-な」という変化形をとった。「-たり」型の形容動詞は古いものとみなされ、以降使用が減少していった。
二段活用の一段化

下二段活用・上二段活用の連体形・已然形において、-uru・-ureの語尾が-eru・-ere、-iru・-ireの形になってそれぞれ下一段、上一段と同じような活用形になる史的変化のことを二段活用の一段化という。

たぶる(taburu)>たべる(taberu)

すぐる(suguru)>すぎる(sugiru)

平安末期や鎌倉時代には既に例が見られるが、まだ一般的ではなく、室町時代、江戸時代を経てゆっくりと一般化していった[29]
連体形終止

連体形で文を終止することは、上代日本語にも中古日本語にも会話文を中心に見られるが、室町時代にはほぼ一般化した[30]。中古までの連体形終止には余情・余韻が感じられたが、中世に一般化すると終止形終止の機能と変わりのないものになった[31]
仮定形

已然形は仮定形へと発展を遂げていく[32]已然形は既に起こっていることを述べる場合(確定条件)に用いられたがこの用法は徐々に衰え、いまだ起きていないことについて述べる仮定条件として使われるようになった。現代日本語の仮定形においてはもはや仮定条件のみが存在し、確定条件は使用されていない。確定条件は「ところ」「ほどに」「あひだ」などの語法で表すようになった[33]
命令形

命令形は古来、接尾辞なし、あるいは接尾辞「-よ」をつけて用いられた。中世日本語においては下二段・カ変・サ変活用の動詞に接尾辞「-い」が用いられるようになった[34]

呉れ+い (くれい)

来+い (こい)

為+い (せい)

ロドリゲスは『日本大文典』で、「見よ→見ろ」のように、「-よ」が「-ろ」により代用されることもあると指摘している[35]。8世紀の古代日本語、なかでも東日本の方言では古くこのような「-ろ」命令形が用いられていたが、現代日本語においてはもはやこれが標準となっている。
係結び

連体形で文末を結ぶ「ぞ・なむ・や・か」の係結びは、連体形終止の一般化と共に意義を失い、形式も混乱していった。已然形で結ぶ「こそ」の係結びも、逆接の接続助詞を伴ったものが増えてきたが、連体形係結びに比べて後代まで残った[36]。現代にも「-こそすれ」「-こそあれ」の形が化石的に残っている。
時制・相

時制および相の体系は急激な変化にさらされることとなった。完了を表す「ぬ」「つ」「り」、過去の時制を表す「き」「し」「けり」は廃れていき、代わりに完了相「たり」が一般的な過去時制へと発展していった。これが次第に「た」へと変化し、現代では過去時制の形式となっている[37]
助詞

格助詞「にて」が変化し、新たに「で」が用いられるようになった[38]。推量を表す助動詞「む」はmu > m > N > ? と、何度も音声学上の変化を経ている。未然形の語幹の母音と結びつく場合には長母音化を起こすが、その直前に-y-の音が挿入されることがある。
候文

中世日本語初期から「候ふ」が丁寧語助動詞として盛んに用いられるようになり、鎌倉時代にはこれを特徴とする書き言葉としても用いられるようになって候文に発展した。候文は書簡、公文書等に近代まで用いられた。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ ア行「え」とヤ行「江」の区別は中古前期に既に失われている。

出典^ Shibatani(1990: 119)
^ 中田(1972: 175)
^ 近藤 (2005: 97)
^ Shibatani(1990: 121)
^ 中田 (1972: 181)
^ 山口(1997: 86-87)
^ 近藤(2005:123)
^ Miyake (2003: 76-77)
^ a b Miyake(2003: 75)


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