世界遺産
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世界遺産委員会では、緩衝地帯の外でさえ、景観に影響を及ぼす場合には規制すべきという意見も出されるようになっている[167][注釈 23]。その一方、都市の成長や開発に対する過度の抑制につながることを懸念する論者もいる[168]

前述のように、緩衝地帯は理由を明記すれば、設定しないことも許容される。許容されるための理由としては、資産そのものの保護範囲がもともと十分に広く設定されている場合や、大平原や地下など、資産の所在環境による条件を勘案して緩衝地帯の設定が無意味、あるいは不要などと判断される場合などがある[162]。しかし、フォース橋(2015年登録)が保護範囲の十分の広さを理由に緩衝地帯を設定しなかったところ、その審議が紛糾した例などもあり、専門家からは緩衝地帯を設定しない推薦は例外的なものと見なされている[162]
世界遺産リスト登録手続きと登録後の保全

世界遺産リスト登録に必要となる前提、審査の流れ、登録後の保全状況報告などは、「世界遺産条約履行のための作業指針」(「作業指針」)で規定されている。その登録までの流れを図示すると以下のようになる。
第1段階
各国の担当政府機関が暫定リスト(後述)記載物件のうち、準備の整ったものを推薦する。
第2段階
ユネスコ世界遺産センターが諮問機関
[注釈 24]に評価依頼する。
第3段階
文化遺産候補については国際記念物遺跡会議 (ICOMOS) が現地調査を踏まえて登録の可否を勧告する。文化的景観に関しては、IUCN とも協議が行われる場合がある。[169]。自然遺産候補については国際自然保護連合 (IUCN) が現地調査を踏まえて登録の可否を勧告する。
第4段階
世界遺産委員会で最終審議する。
最終段階
正式登録される。
暫定リスト鎌倉の寺院・神社ほかは、「不登録」勧告を受けて審議前に取り下げられたが、暫定リストには記載され続けている。また、鎌倉の文化財は日本遺産には選定されている。

暫定リストは、世界遺産登録に先立ち、各国がユネスコ世界遺産センターに提出するリストのことである。もともと文化遺産について、このリストに掲載されていないものを世界遺産委員会に登録推薦することは原則として認められていなかったが、「作業指針」の2005年の改訂で、自然遺産についても義務づけられるようになった[170][171]。ただし、バム地震(2003年)で壊滅的損壊を被ったバムとその文化的景観(イラン、2004年登録)のように[172]、不測の事態によって緊急で登録する必要性が認められた場合には、「緊急的登録推薦」に関する条項に従い、暫定リスト記載と推薦をほぼ同時に行うことが認められる場合がある[173]後述)。

暫定リストは、各国が1年から10年以内をめどに世界遺産委員会への登録申請を目指すもののリストであり[174]、10年ごとに見直し、再提出することが望ましいとされる[175]。ただし、10年間推薦しなかったら除去しなければならないというものではない。たとえば日本の場合、1992年から暫定リストに記載され続けていた物件のうち、古都鎌倉の寺院・神社ほかが最初に推薦されたのはおよそ20年後のことであり(結果は本審議前に取り下げ)、彦根城は一度も推薦されたことがない。

暫定リスト掲載物件は、世界遺産委員会がその「顕著な普遍的価値」(OUV)を認めたものではなく、現在暫定リストに掲載されているものには、不登録勧告を受けて取り下げたものや、登録延期決議などを受けたものもある。ただし、世界遺産委員会で「不登録」(後述)と決議されたものを暫定リストに掲載し続けることは、原則として認められていない(「作業指針」第68段落)[175][注釈 25]

世界遺産委員会は、条約締結各国に対して、暫定リストへの掲載にあたっては、その遺産のOUVを厳格に吟味することや、保護活動が適正に行われていることを十分示すように求めている。また委員会は、暫定リスト作成では、まだ登録されていないような種類の物件に光を当てることや、世界遺産を多く抱える国は極力暫定リストを絞り込むことなどを呼びかけており、後述の「登録物件の偏り」を是正するための一助とすることを企図している[176]

この暫定リストは、各国がOUVを持つと考える物件を加除できるリストである。それに対し、他国と争いのある物件などに関しては、世界遺産委員会の検証を踏まえるべきといった提案も出されているが、慎重な意見も出されている[177]第41回世界遺産委員会では、暫定リストが各国に独自に作成したリストであり、そこには世界遺産センターや委員会の意向は反映されていないと念押しされることになった[178]

日本の場合、暫定リストへの記載は、文化庁環境省林野庁が担当するが、推薦に向けては上記3省庁に外務省国土交通省水産庁を加えた6省庁に、オブザーバーとしての文部科学省農林水産省を加えた「世界遺産条約関係省庁連絡会議」を経る必要があった[179][180]。同連絡会議はその後、参加する省庁が変更され、2017年時点では文化庁、環境省、林野庁、水産庁、外務省、国土交通省、経済産業省宮内庁内閣官房となっている[181][注釈 26]。同連絡会議を経て正式決定された物件は、それを踏まえて閣議了承がなされる[182][注釈 27]
推薦台湾の候補地のひとつ、太魯閣(タロコ)国家公園


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