世界遺産
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「情報照会」[225][注釈 32]は一般的に顕著な普遍的価値の証明ができているものの、保存計画などの不備が指摘されている事例で決議され[226]、期日までに該当する追加書類の提出を行えば、翌年の世界遺産委員会で再審査を受けることができる。ただし、3年以内の再推薦がない場合は、以降の推薦は新規推薦と同じ手続きが必要になる(「作業段落」第159段落)[227]

「情報照会」決議は、最速で翌年の再審議を可能にする。そのため、推薦国は、その年の登録が難しいという勧告を受けた場合、次善の策として望む決議であり、委員国への働きかけも顕著である[227]。しかし、「情報照会」決議が出てしまうと、推薦書の大幅な書き換えは認められず、推薦範囲の変更などもできないため、安易な「情報照会」決議は、かえって正式な登録を遠ざける危険性があることも指摘されている[228]。実際、インドのマジュリ島(英語版)は第30回世界遺産委員会では「登録延期」勧告を覆して「情報照会」決議とされたが、第32回世界遺産委員会の審議では「登録延期」決議とされ、かえって登録が遠のいてしまった[229]
登録延期シドニー・オペラハウス。最初の「登録延期」勧告から登録までに26年を要した。2017年時点では、もっとも年代の新しい世界遺産でもある[230]

顕著な普遍的価値の証明などが不十分と見なされ[226]、より踏み込んだ再検討が必要な場合は「登録延期」(記載延期[231][注釈 32])と決議される。この場合、必要な書類の再提出を行ったうえで、諮問機関による再度の現地調査を受ける必要があるため、世界遺産委員会での再審査は、早くとも翌々年以降になる[232]

「登録延期」はしばしば不名誉なものと捉えられることがある。日本の場合、最初に「登録延期」決議が出たのは平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―である[注釈 33]。このとき、日本では「落選」「平泉ショック」などと報じられ、他の自治体の世界遺産登録に向けた動きにも影響を与えた[233]

「登録延期」決議は確かに「情報照会」決議よりも一段下と位置づけられる決議だが、専門家からは、むしろ時間をかけて価値の証明を深化させる機会を与えられたと解すべきで、不名誉なものではないとも指摘されている[234]。なお、最初の「登録延期」決議から正式登録までに長期を要した遺産の例としては、30年を要したイングランドの湖水地方[235]、26年を要したシドニー・オペラハウス [236]などがある。
不登録

顕著な普遍的価値を認められなかった物件は、「不登録」(不記載[237][注釈 32])と決議される。「不登録」と決議された物件は、原則として再推薦することができない。ただし、新しい科学的知見が得られるなどした場合や、不登録となったときとは異なる登録基準からの価値を認められる場合には、推薦が可能である[238][239]

諮問機関の勧告の時点で「不登録」勧告が出されると、委員会での「不登録」決議を回避するために、審議取り下げの手続きがとられることもしばしばである。たとえば、2012年の第36回世界遺産委員会では、「不登録」勧告を受けた推薦資産は9件[注釈 34]あったが、うち5件は委員会開催前に取り下げられた[240]。「不登録」決議は、推薦国にとって何のメリットもないと考えられていたからである[238]。しかし、第41回世界遺産委員会では「不登録」勧告を受けた資産の多くが取り下げず、審議に臨んだ5件のうち4件が「登録延期」ないし「情報照会」決議となった。この従来と異なる傾向は、2000年代半ばから増えるようになった諮問機関と推薦国との意見の対立を示すものとされる[241]

なお、世界遺産委員会などでの審議の結果、登録が見送られた物件を指して裏世界遺産と呼ぶことがある[242][243]。もともとインターネット上の私的なウェブサイト[244]で打ち出された概念であり、公式な呼称ではない。
モニタリング

世界遺産におけるモニタリング[245]とは、保全管理に関わる指標や影響を及ぼす要素を明示することで、推薦書に盛り込まなければならないものと、登録後に行われるものの2種類ある[246]。ただし、これらはまったく同じ用語を用いても、手続きとしては別個のものである[247]

推薦書におけるモニタリングの項目に不備があれば、「情報照会」勧告などが出される場合がある[248]

登録後のモニタリングには、定期報告とリアクティブ・モニタリングの2種類がある。定期報告[249]は6年ごとにすべての登録資産に対して実施するものであり、アジア・太平洋、アフリカなどの地域を単位として少しずつ時期をずらし、世界遺産としての価値の維持と保全状況、その他情報の更新などを確認する[250]。第1期の定期報告は2000年から2006年に実施された[251]。2008年から2012年に第2期の定期報告がすべて終わり、2015年の第39回世界遺産委員会でとりまとめられた[250]

リアクティブ・モニタリング[252]は、定期報告とは別の手続きであり、定期報告が保有国による報告なのに対し、世界遺産が何らかの脅威に晒されていると判断された場合に、世界遺産センターないし諮問機関が行う[253]。当然、抹消の可能性がある世界遺産や危機遺産リスト登録物件なども対象になる(第169 - 170段落)[254]

しかし、リアクティブ・モニタリングは世界遺産委員会の決議を踏まえなければならず、保有国の協力も得ねばならないため、緊急の事態や保有国が非協力的な場合などには、十分に機能しない問題点を含む[255]

そこで新たに導入されたのが強化モニタリング体制[256]である。これは、世界遺産委員会の決議なしに、ユネスコ事務局長の判断で現地調査を可能にする仕組みであり、2007年の第31回世界遺産委員会で導入された[257]。これは、世界遺産委員会が開かれていない時期にも即応して、複数の報告書を提出できる仕組みであったが、2017年時点では正式な「作業指針」には盛り込まれていない[258]

もともとの原則では危機遺産登録物件のみとされており[258]、実際、2007年に対象になったのはそうだったが、2008年にはマチュ・ピチュの歴史保護区など、危機遺産リスト外の物件も対象に含まれた[259]。その辺りの時期には、危機遺産リストに登録する代わりに、強化モニタリング対象としたケースもあったとされている[260]
登録後の変更
名称

推薦する際の名称は、推薦国が英語とフランス語でつける。諮問機関は、資産の特色をよりよく表すような改名を勧告する場合があり、推薦国自身がそれを踏まえて改名することもある。たとえば、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」は当初の推薦名「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」を、ICOMOSの勧告を踏まえて改名したものである[261]。逆に、平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―の場合は「考古学的遺跡群」を外すことを勧告されたが、反対する日本の見解を世界遺産委員会も支持したため、推薦どおりの名称で登録された[262]

登録後にも名称の変更は可能であり、保有国の申請を世界遺産委員会が承認すれば認められる[263]ナチスの施設であることを明確にするために「アウシュヴィッツ強制収容所」が「アウシュヴィッツ=ビルケナウ ナチス・ドイツの強制絶滅収容所(1940 - 1945)」に変更された例や[264]、地元文化を尊重するためと推測されている英語「スケリッグ・マイケル」からゲール語シュケリッグ・ヴィヒル」(アイルランド)への変更の例[263][注釈 35]などを挙げることができる。


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