世界遺産
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

そこで、1994年に奈良市で開催された「世界遺産の真正性に関する国際会議」で採択された奈良文書[注釈 9]において、真正性はそれぞれの文化的背景を考慮するものとし[148]、木造建築などでは、建材が新しいものに取り替えられても、伝統的な工法・機能などが維持されていれば、真正性が認められることになった[149]。この真正性の定義づけには日本も積極的に関わり、世界遺産制度史上における日本の特筆すべき貢献と評価されている[149][150]
登録範囲登録範囲の地図の例(ハンブルクの倉庫街とチリハウスを含む商館街)。赤が資産の範囲、黄が緩衝地帯。

世界遺産の登録範囲(Boundary)は、前述のように完全性をはじめとする「顕著な普遍的価値」(OUV)の証明のために必要な要素を、過不足なく含むことが求められる[151]。範囲の設定は行政区分などに左右されるべきでないとされ、自然地形の特徴などに即していることが望ましいとされている[151]。登録後にも範囲の変更は可能である。それについては後述を参照のこと。

世界遺産の登録に当たっては、登録物件の周囲に緩衝地帯(Buffer zone)を設けることがしばしばである。ただし、それはOUVを有するとは認められていない地域で、世界遺産登録範囲ではない[152]。かつては、世界遺産そのものの登録地域を核心地域(Core zone)と呼んでいたが、核心地域と緩衝地帯がともに世界遺産登録地域であるかのように誤認されないために、2008年から世界遺産そのものの登録地域は資産(property)と呼ばれ、緩衝地帯と明確に区別されるようになった[153]
緩衝地帯

緩衝地帯は、そのままカタカナでバッファー・ゾーンと表現されることもある[154]。本来保護すべき範囲の外側に緩衝地帯を設定するという考え方は、自然保護に見られた概念を文化遺産にも拡大したものといえる。この範囲設定は、ユネスコの「人と生物圏計画(英語版)」で「核心地域」「緩衝地域」「移行地域」の3区分が存在していたことをモデルに、核心地域と緩衝地域の概念を導入したものである[155]。なお、日本の省庁の場合は「バッファー・ゾーン」を世界遺産では「緩衝地帯」、生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)では「緩衝地域」と訳し分けている[156][注釈 22]

緩衝地帯の役割は、資産の保護のために設定される区域で、法的あるいは慣例的に開発などは規制を受ける[157]。たとえばフランスの場合、歴史的記念建造物の周囲には一律(半径500メートル)に規制が敷かれるが、世界遺産の場合、保護する範囲に機械的な線引きはなく、また資産全体に同じ範囲だけ設定しなければならないものではない[158]。そもそも緩衝地帯は当初、方針文書に明記されておらず、ごく初期の世界遺産には設定されていなかった[159]。1980年や1988年の「作業指針」で段階的に盛り込まれていったが[160]、厳格な適用を求める方向で「作業指針」が改定されたのは2005年のことで[161]、設定しない場合には理由の提示が必要となった[154]。世界遺産の推薦にあたっては、原則として資産だけでなく緩衝地帯についても、規模や用途などを明記し、地図も提出する必要がある(「作業指針」第104段落)[162]

それ以降、第31回世界遺産委員会(2007年)ですでに登録されている世界遺産7件に遡及的に設定されるなど[163]、「軽微な変更」(後述)として緩衝地帯の遡及的な設定なども行われるようにもなっている[162]ロンドン塔(手前)とザ・シャード(奥)

その一方、生物圏保存地域と異なり、緩衝地帯の外側に移行地域が存在しないため、緩衝地帯のすぐ外側での開発などが問題視されることが出てきた[164]。たとえばロンドン塔の場合、超高層建築ザ・シャードが緩衝地帯の外に建てられたが、ロンドン市内で突出したその高さは、ロンドン塔の景観にも影響を及ぼしてしまっている[165]。これは緩衝地帯の外であったため、世界遺産委員会では懸念は表明されたものの、それ以上の措置には踏み込まなかった[166]。世界遺産委員会では、緩衝地帯の外でさえ、景観に影響を及ぼす場合には規制すべきという意見も出されるようになっている[167][注釈 23]。その一方、都市の成長や開発に対する過度の抑制につながることを懸念する論者もいる[168]

前述のように、緩衝地帯は理由を明記すれば、設定しないことも許容される。許容されるための理由としては、資産そのものの保護範囲がもともと十分に広く設定されている場合や、大平原や地下など、資産の所在環境による条件を勘案して緩衝地帯の設定が無意味、あるいは不要などと判断される場合などがある[162]。しかし、フォース橋(2015年登録)が保護範囲の十分の広さを理由に緩衝地帯を設定しなかったところ、その審議が紛糾した例などもあり、専門家からは緩衝地帯を設定しない推薦は例外的なものと見なされている[162]
世界遺産リスト登録手続きと登録後の保全

世界遺産リスト登録に必要となる前提、審査の流れ、登録後の保全状況報告などは、「世界遺産条約履行のための作業指針」(「作業指針」)で規定されている。その登録までの流れを図示すると以下のようになる。
第1段階


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:423 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef