世界遺産
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たとえば、文化財保護法などの独自の保護関連法制が整っていて必要性が認識されづらかったこと[40]、参加した場合の煩瑣な行政手続きや国内法の修正作業への懸念があったこと[41]、重要性に対する認識が希薄な中で国会審議の優先順位が高くなかったこと[42]冷戦下でアメリカを刺激したくなかったこと[注釈 8]世界遺産基金の分担金拠出に関する議論が決着しなかったこと[37][43]、省庁の縦割り行政の弊害があったこと[44]などが挙げられている。

国内では紆余曲折あった日本の参加だが、参加してすぐに重要な議論を本格化させることになる。それは「木の文化をどう評価するか」ということである。日本の世界遺産のうち、最初の文化遺産は姫路城法隆寺地域の仏教建造物である(いずれも1993年登録)。これらはいずれも解体修理の手法で現代に伝えられてきた建造物であり、基本的にそのような修理を必要としない「石の文化」の評価基準になじまない側面があったために議論となり、それが「真正性に関する奈良文書(英語版)」[注釈 9]の成立につながった[45]後述参照)。これは、アジアやアフリカに多い木、日干し煉瓦、泥の建築物など、多様な世界遺産を増やすことにつながり、世界遺産の歴史の中で重要な意義を持った[46]
抹消される事例の出現1,000件目となったオカバンゴ・デルタ

世界遺産は毎年その件数が増えていく中で、上限に関する議論なども見られ始める(後述)。その一方で、登録物件から「顕著な普遍的価値」が失われた場合などには、その物件は世界遺産リストから抹消される規定が存在していたが[47]、そのような事例は長らく存在していなかった。しかし、2007年の第31回世界遺産委員会アラビアオリックスの保護区が初めて抹消され、続いて2009年の第33回世界遺産委員会ではドレスデン・エルベ渓谷が、さらに2021年の第44回世界遺産委員会海商都市リヴァプールが抹消された。松浦晃一郎は、最初の抹消事例が出た2007年以降を、保全や保護に対する重要性がいっそう増した時期と見なしている[48]

さまざまな課題を抱える一方で、世界遺産の数は増加し続けている。産業遺産文化の道など、比較的新しい文化遺産のカテゴリーも取り込みつつ、2010年にはハノイのタンロン皇城の中心区域ベトナムの世界遺産)をもって世界遺産登録件数が900件を突破[49]2014年にはオカバンゴ・デルタボツワナの世界遺産)の登録をもって1,000件を突破した[注釈 10]

2023年の第45回世界遺産委員会時点での条約締約国は195か国、世界遺産の登録数は1,199件(168か国)となっている[50]。その締約国数、人気、知名度などから、しばしば国際条約の中でもっとも成功した部類に数えられている[51]
登録対象東大寺大仏

登録される物件は不動産、つまり移動が不可能な土地や建造物に限られる。そのため、たとえば寺院が世界遺産になっている場合でも、中に安置されている仏像などの美術品(動産可動文化財)は、通常は世界遺産登録対象とはならない。ただし、東大寺大仏のように移動が困難と認められる場合には、世界遺産登録対象となっている場合がある[52]。逆に、将来的に動産になる可能性があると判断される場合、推薦時点で不動産であっても認められない(「作業指針」第48段落)[53]チェルヴェーテリとタルクイーニアのエトルリア墓地遺跡群(イタリア)の登録時には、優れた出土品の数々が収められた隣接する博物館を登録対象にするかどうかが議論になったが、世界遺産委員会はあくまでも不動産しか評価対象にしないとして、収蔵している出土品を理由とする形での博物館登録は認めなかった[54][注釈 11]。このような対象の設定に対する限界が、のちの無形文化遺産の枠組みにつながった[55](後述)。

世界遺産に登録されるためには、後述する世界遺産評価基準を少なくとも1つは満たし、その「顕著な普遍的価値」を証明できる「完全性」と「真正性」を備えていると、世界遺産委員会から判断される必要がある[56]。その際、同一の歴史や文化に属する場合や、生物学的・地質学的特質などに類似性が見られる場合に、シリアル・プロパティーズ([57]関連性のある資産群)としてひとまとめに登録することが認められている(「作業指針」第137段落)[58][注釈 12]。たとえば、フランスインド日本アルゼンチンなど7か国の世界遺産であるル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-などはその例である。

また登録されたあと、将来にわたって継承していくために、推薦時点で国内法などによってすでに保護や管理の枠組みが策定されていることも必要である。日本の例でいえば、原爆ドームの世界遺産推薦に先立ち、文化財保護法が改正されて原爆ドームの史跡指定が可能になったことも、そうした点に合致させる必要があったためである[59]
分類

世界遺産はその内容によって文化遺産、自然遺産、複合遺産の3種類に分けられている。なお、日本語文献ではしばしば無形文化遺産も単に「世界遺産」と呼ばれることがあるが、後述するように、そちらは世界遺産条約の対象ではなく、世界遺産委員会で扱われる「文化遺産」には含まれない[60]

また、内容的な区分以外にも、国際的な対応の優先度の高い「危機にさらされている世界遺産」(危機遺産)、2か国以上で保有する「国境を越える資産」、非公式な分類だが日本語圏では広く用いられる「負の世界遺産」などがある。
文化遺産詳細は「文化遺産 (世界遺産)」を参照

文化遺産[61]は世界遺産条約第1条に規定されており、記念工作物、建造物群、遺跡[注釈 13]のうち、歴史上、芸術上あるいは学術上顕著な普遍的価値を持つものを対象としている[62]。しばしば「世界文化遺産」と呼ばれる[63]

基本的なカテゴリーは上記の3種のままだが、それらに内包されるカテゴリーとして、上述のように1992年に文化的景観の概念が追加され、以降、産業遺産文化の道など多様なカテゴリーが加わった[62]。文化遺産は研究の深化とともに範囲が広がっており、それゆえICOMOSも、世界文化遺産の一覧は「開いた一覧」となる見通しを示している[64]
自然遺産詳細は「自然遺産 (世界遺産)」を参照

自然遺産[65]は世界遺産条約第2条に規定されている。その定義では「無生物又は生物の生成物又は生成物群から成る特徴のある自然の地域であって、鑑賞上又は学術上顕著な普遍的価値を有するもの」「地質学的又は地形学的形成物及び脅威にさらされている動物又は植物の種の生息地又は自生地として区域が明確に定められている地域であって、学術上又は保存上顕著な普遍的価値を有するもの」「自然の風景地及び区域が明確に定められている自然の地域であって、学術上、保存上又は景観上顕著な普遍的価値を有するもの」[66]が挙げられている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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