世界遺産
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同連絡会議はその後、参加する省庁が変更され、2017年時点では文化庁、環境省、林野庁、水産庁、外務省、国土交通省、経済産業省宮内庁内閣官房となっている[181][注釈 26]。同連絡会議を経て正式決定された物件は、それを踏まえて閣議了承がなされる[182][注釈 27]
推薦台湾の候補地のひとつ、太魯閣(タロコ)国家公園

推薦書の提出は、原則として世界遺産条約締約国のみにしかできない[183]。ゆえに、たとえば台湾世界遺産候補地リストを独自に発表するなど世界遺産登録に前向きだが[184]世界遺産条約締約国ではなく、一つの中国を掲げる中華人民共和国も台湾の物件を推薦したことがないため、世界遺産委員会の審議対象になったことすらない[183][185]。逆にバチカン市国国際連合にもユネスコにも加盟していないが、世界遺産条約は締約しているため、国全体が世界遺産である[186]。世界遺産条約締約国の保有でない例外は、エルサレムの旧市街とその城壁群のみである。これはエルサレム帰属をめぐる問題から、ヨルダンの申請で認められたが、ヨルダンの世界遺産ではなく、「エルサレム(ヨルダンによる申請)」と位置づけられている[187]。このほか、現状の枠組みにおさまらない概念として、公海の世界遺産が模索されている。

推薦書に記載することが求められるのは、資産の登録範囲と内容、それがOUVを持つことの証明、脅威を与える要素などについてのモニタリングを含む保全関連の情報などの条項である[188]

正式推薦の締め切りは、審議予定の前年の2月1日だが[注釈 28]、そのさらに前の年の9月30日までに草案を提出し、世界遺産センターから不備を指摘されたうえで正式推薦書を提出することが認められている[188]。草案の提出は任意だが、2月1日までに提出した正式推薦書に不備があった場合、諮問機関に回されずに翌年以降の再提出を求められる[188]
緊急的登録推薦


崩壊前のバム(左)と崩壊後(右)

緊急的登録推薦の手続きは、その推薦物件がOUVを疑いなく保有する場合で、なおかつ重大な危険に直面しているなどの緊急を要する場合に、通常の手続きを飛び越えて推薦できることを指す(「作業指針」第161・162段落)[189]。緊急的登録推薦の場合は、暫定リスト記載と推薦を同時に行い、かつ最速で同じ年に登録することが可能となる。この手続きで登録された場合、危機遺産リストにも同時に登録されることになっている[189]

この手続きで登録された資産には、ダム工事による浸水の危険があったアッシュール(イラク)[190]、大地震で被災したバムとその文化的景観(イラン)[191]などがある。パレスチナの世界遺産の場合は、最初の物件から3件連続でこの規定が適用されたが、このような手法には議論がある(後述)。
諮問機関の勧告

上掲の図のように、自然遺産については国際自然保護連合(IUCN)、文化遺産については国際記念物遺跡会議(ICOMOS)が諮問機関[注釈 24]として、現地調査を踏まえて事前審査を行う[注釈 29]。そこでの勧告は、後述の世界遺産委員会の決議と同じく「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録」の4種である[192]。世界遺産委員会は後述するように勧告を踏まえて審査するが、「登録」以外の勧告が出た物件が逆転で登録されることもあれば、勧告よりも低い評価が下されることもある[193]

現地に派遣される諮問機関の調査官は1人であり、その調査も踏まえて複数名で勧告書が作成される[194]。ICOMOSの調査では、日本の場合、アジア・太平洋地区(後述)の調査官が原則として派遣される。これは他地区の調査官が厳しい評価を下した場合に、無用の批判が出るのを避けるためといわれている[195]

2017年第41回世界遺産委員会において、パレスチナ国のヘブロン/アル=ハリール旧市街への緊急的登録推薦の手続きが取られたが[196][197]、この旧市街は、イスラエルの軍事占領下にあり、ICOMOSの調査員が候補地を訪れる許可が実効支配しているイスラエルから降りなかったため現地調査が出来ず[198]、ICOMOSは通例の4種の勧告のいずれをも出さず保留とした[197]。ICOMOSの勧告保留は世界遺産条約史上初めてのことだった[199]。(後述の「民族・領土問題」も参照)
アップストリーム・プロセスアップストリーム・プロセスが奏功したナミブ砂海

アップストリーム・プロセスとは、推薦手続きの中で世界遺産センターや諮問機関と対話を重ね、登録に向けた諸問題の解消ないし低減に資するための手続きである(「作業指針」第122段落)[200]。これは第32回世界遺産委員会で提案され[200]第34回世界遺産委員会での決議に基づき、第35回世界遺産委員会で試験的に導入する10件の対象が選定され、のちにこのプロセスを活用してナミブ砂海(ナミビア)、サウジアラビアのハーイル地方の岩絵などが世界遺産リスト登録を果たした[201]。反面、ヨルダンのペラ(英語版)のように、実施した結果、取り下げられた案件もある[202][203]。アップストリーム・プロセスを全面導入するためには、費用の分担などの問題を解決する必要があるが、少なくとも推薦書作成の前に、諮問機関や世界遺産センターに助言を仰ぐことは推奨されるようになっている[204]第41回世界遺産委員会(2017年)で正式な導入が決まったものの、上述の制約により、翌年から2年間は年間10件のみを選定して実施することとなった[205]

なお、推薦書の提出後には、諮問機関と推薦国の接触は認められていなかったが、ラージャスターンの丘陵城塞群の評価を不満とした推薦国インドの提案をきっかけとして、その期間に諮問機関の特別助言ミッションが派遣されることも行われるようになった[206]。また、第40回世界遺産委員会(2016年)審議分から、正式な勧告の前に諮問機関が「中間報告」を出すことになり、推薦の取り下げや推薦書の大幅改訂などの対応をとりやすくなった[207]


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