以上の基準の少なくとも1つ以上を満たしていると世界遺産委員会で認定されれば、世界遺産リストに登録される。多くの世界遺産では、複数の基準が適用されている[129]。最多は泰山とタスマニア原生地域の7項目である[130]。 前述の通り、世界遺産の「顕著な普遍的価値」には、完全性と真正性を満たしていることも必要となる。 完全性[131]とは、その物件のOUVを証明するために必要な要素が、適切な保全管理の下で過不足なく揃っていることを指す(「作業指針」第78・87・88段落)[132]。インテグリティ、全体性などとも呼ばれる[133]。 一定の規模を確保することが求められる反面、価値の証明と関係のない要素が多く混じっても否定的に評価されるため、いたずらに範囲を拡大するよりも、個々の要素群に絞り、面ではなく点で捉える「関連性のある資産」とすることも含め、価値の証明に即して範囲を練ることが求められる[134]。たとえば、富岡製糸場と絹産業遺産群では、当初10件の構成資産を擁する推薦物件だったが、絹産業の技術革新と国際交流という価値の証明に即した練り直しの結果、4件にまで絞られた経緯があり[135]、絞り込みが効果的だったとされている[136][137]。 諮問機関は、範囲の設定に不足がある推薦の場合には範囲の再考を勧告するが、逆に余計な要素が含まれていると判断した場合には、特定の要素の除外を条件にした登録勧告を示すことがある。たとえば、富士山-信仰の対象と芸術の源泉の推薦では三保松原の除外が[138]、「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群の推薦では新原・奴山古墳群などの除外が[139]それぞれ勧告された(いずれも逆転で登録)。他方、平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―の推薦で除外が勧告された柳之御所遺跡は、委員会審議でも勧告通りに除外と決まった例である。 自然遺産・複合遺産の例では、ブルー・アンド・ジョン・クロウ・マウンテンズ(ジャマイカ)は、同名の国立公園の推薦時には絞り込みを勧告され、核心部分のみに限定した再推薦で登録された例であり、逆に大ヒマラヤ国立公園保存地域(インド)は、国立公園だけでは不足があるとして、隣接する自然保護区にまで拡大することで登録された例である。 真正性とは、特に文化遺産について、そのデザイン、材質、機能などが本来の価値を有していることなどを指す(「作業指針」第79段落 - 第82段落)[140]。真実性と訳されるほか[141]、もともと日本語に対応する概念がなかったとしてオーセンティシティとカタカナで表現される場合もある[141]。
完全性と真正性
完全性富士山-信仰の対象と芸術の源泉の構成資産三保松原は、完全性に寄与するかが争点となった
真正性再建されたワルシャワの街並みジェンネの泥のモスク