世界遺産
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そのため、何を負の遺産と見なすのかは論者によって異なるが、しばしば挙げられるのは広島市への原爆投下を伝える原爆ドームホロコーストの物証であるアウシュビッツ=ビルケナウ[注釈 15](ポーランド)、奴隷貿易の拠点であったゴレ島(セネガル)、ネルソン・マンデラを含む反アパルトヘイト政治犯の収容所だったロベン島南ア)の4件[91][92][93]で、このほかに核実験に関わるビキニ環礁の核実験場(マーシャル諸島)や、ターリバーンによる文化浄化を被ったバーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群(アフガニスタン)なども、負の遺産とされることがある[94][95](負の遺産とされることがある他の例については、負の世界遺産参照)。

なお、これらの世界遺産登録では、単に悲劇的な出来事があったというだけでなく、それを繰り返すまいとする運動などが評価されることは珍しくない[95]。たとえば原爆ドームは、正式登録前から「負の遺産」と位置づける関連書籍もあったが[96]、世界遺産登録にあたっての評価は、あくまでも原爆のない世界を目指す半世紀にわたる平和運動に焦点が当てられており、戦争や原爆の悲惨さ自体は中心を占めていない[97][98]
記憶の場所詳細は「記憶の場所」を参照

負の世界遺産はユネスコが公式に認めた分類ではないが、2018年以降第二次世界大戦中から戦後に起きた出来事に関連する場所が世界遺産に推薦されるようになった。これに対しユネスコ・世界遺産委員会・諮問機関は、当事者間の記憶がまだ鮮明で、登録により対立が再燃することを警戒し、顕彰するのは時期尚早としたが、要望の声が高まったこともあり協議した結果、「最近の紛争(Recent conflicts)」に関する「記憶の場所」として顕彰を始めることとした。これはユネスコが公式に認めた区分となる。

但し、一方的な登録は文化的不寛容を助長し、文化紛争(英語版)から文化戦争に発展し、最終的に文化の崩壊(英語版)に至りかねないとして、審査に関しては異議申し立てを受け付けての審議延期や調停、当事者間対話の実施や和解プログラムの構築などを義務付ける[99]
顕著な普遍的価値とその評価基準

すでに述べたように、世界遺産となるためには「顕著な普遍的価値」(略号は OUV[100][101][注釈 16])を有している必要がある。しかし、世界遺産条約では「顕著な普遍的価値」自体を定義していない[102]。「作業指針」第49段落には、国家の枠にとらわれずに、現在だけでなく将来の人類にとっても大きな価値を持つといった大まかな定義があるが[101]、その証明のために要請されるのが、10項目からなる世界遺産登録基準のいずれか1つ以上を満たすことである[103]

以上は当初から変わらない条件だが、2005年の「作業指針」改定によって、OUVを構成する要素に保存管理が加わったため、OUVの証明には登録基準を満たすこと、完全性と真正性を満たすこと、保存管理が適切に行われていることのすべての証明が必要となった(「作業指針」第77・78段落)[101]
世界遺産登録基準

世界遺産登録基準は、当初、文化遺産基準 (1) - (6) と自然遺産基準 (1) - (4) に分けられていたが、2005年に2つの基準を統一することが決まり、2007年の第31回世界遺産委員会から適用されることになった[104][注釈 17]。新基準の (1) - (6) は旧文化遺産基準 (1) - (6) に対応しており、新基準 (7)、(8)、(9)、(10) は順に旧自然遺産基準 (3)、(1)、(2)、(4) に対応している[104]。このため、実質的には過去の物件に新基準を遡及して適用することが可能であり、現在の世界遺産センターの情報では、旧基準で登録された物件の登録基準も新基準で示している[104][注釈 18]

基準が統一されたあとも文化遺産と自然遺産の区分は存在し続けており、新基準 (1) - (6) の適用された物件が文化遺産、新基準 (7) - (10) の適用された物件が自然遺産、(1) - (6) のうち1つ以上と (7) - (10) のうち1つ以上の基準がそれぞれ適用された物件が複合遺産となっている[105]

登録基準(評価基準)[注釈 19]の内容は以下の通りである(「作業指針」第77段落[106])(以下は世界遺産センター公式サイトに掲載された基準[107]を翻訳のうえ、引用したものである)。基準(1)のみによって登録された『傑作』タージ・マハルロベン島。その登録は基準適用のあり方に議論を招いた。ビャウォヴィエジャの森は、野生絶滅に至ったヨーロッパバイソンの再導入地などとして重要である[108]

基準詳細
(1)『人類の創造的才能を表現する傑作。』この基準は、ユネスコが公刊しているマニュアルでは、天才に帰せられる基準ではなく、作者不明の考古遺跡などであっても適用できることが明記されている[109]。また、かつては芸術的要素を持つことが盛り込まれていたが、現在の基準にはそれはなく[110]、機能美を備えた産業遺産への適用も可能になっている[109]
(2) 『ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。』この基準のかつてのキーワードは一方向の伝播を想起させる「影響」だったが、「交流」に置き換えられている[111]。また、建築や記念工作物を対象としていた当初の文言に、文化的景観のために「景観デザイン」が、産業遺産のために「技術」がそれぞれ追加されるなど、対象が拡大してきた[112]
(3) 『現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。』この基準はもともと消滅した文明の証拠、すなわち考古遺跡をおもな対象とする基準だった[113]。しかし、文化的景観が導入された1990年代に順次改定され、「文化的伝統」や「現存する」といった文言が追加された[111]
(4) 『人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。』この基準はもともと建築に重点が置かれた基準だったが、文化的景観のために「景観」が、産業遺産のために「技術の集積」が追加された[114]
(5) 『ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。』この基準はもともと伝統的な集落や建築様式を主な対象とするものだったが、文化的景観の導入を反映して「土地利用」に関する文言が追加され[115]、のちには陸上だけでなく海上についても明記された[116]
(6) 『顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの。』この基準はもともと「出来事、思想、信仰」との関連しか書かれていなかったが、文化的景観の導入にともない「現存する伝統」「芸術的、文学的作品」が追加された[117]。たとえば、ザルツブルク市街の歴史地区にこの基準が適用されている理由には、音楽家モーツァルトを輩出した都市であることなどが挙げられている[118]。その一方、いわゆる負の世界遺産には、この基準 (6) が単独適用されたものが多いとされる[119]。しかし、この基準は原爆ドームの登録をめぐって紛糾した結果、単独適用が禁じられ[120][注釈 20]、「ただし、極めて例外的な場合で、かつ他の基準と関連している場合のみ適用」[121]という厳しい条件がついた時期があった。


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