不敬罪
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皇室に関する罪の件数(1924-1941年)[25][26][27][28]西暦年元号年認知件数[注 2]検挙件数
1924年大正13年1719
1925年大正14年1415
1926年[注 3] 大正15年1516
1927年昭和2年1515
1928年昭和3年128131
1929年昭和4年2927
1930年昭和5年3227
1931年昭和6年2619
1932年昭和7年3938
1933年昭和8年4343
1934年昭和9年3027
1935年昭和10年2022
1936年昭和11年3937
1937年昭和12年2827
1938年昭和13年6160
1939年昭和14年6679
1940年昭和15年4245
1941年昭和16年6062

不敬罪の客体は、次の5種に分けられる。条文は「#刑法」を参照。
天皇(74条1項)

太皇太后皇太后皇后皇太子皇太孫など天皇に準ずる皇族(同条項)

神宮(74条2項)

皇陵(同条項)

普通の皇族(76条)

不敬罪の実行行為は、これらの客体に対して「不敬ノ行為」(不敬行為)を行うことである。不敬罪の法定刑は、1.?4.の客体に対する罪は「3か月以上5年以下の懲役」とされ、5.の普通の皇族に対する罪は「2か月以上4年以下の懲役」とされた。

不敬罪の客体のうち「ジングウ」は、伊勢神宮を指す[29]。また、同じく「皇陵」は、かつて天皇に在位した歴代の天皇の墳墓と解された。なお、現在でも礼拝所不敬罪という罪名があるが、これは単に墳墓や神社仏閣の境内教会堂全般に対する保護のためのもので、皇室とは直接関係ない。

不敬罪の保護法益は、客体が体現(象徴)する国家の名誉と尊厳、および客体自身の名誉と解された。そのため、不敬罪は、一般人における名誉毀損罪侮辱罪など、名誉に対する罪の一種とされた。しかし、「不敬ノ行為」(不敬行為)は、これら一般人における名誉に対する罪の実行行為よりも広い範囲の行為を含むとされた。また、名誉毀損罪などが親告罪とされるのに対して、不敬罪は非親告罪とされた。

不敬行為とは、客体に対する軽蔑の意を表示し、その尊厳を害する一切の行為を指すとされた。客体の行為の公私の別・即位の前後・事実の有無・事実の摘示の有無に関係なく、これら全てについて一切の行為、上は実際の名誉毀損・侮辱行為から下は神性(現人神であること)に疑問を持つなどまでである。また、その行為は、第三者から認識し得ることを要するものの、公然・非公然の別を問わないため、日記の記述を不敬行為とした判例もあり、適用範囲はきわめて広かった[29]。要求される敬意を不可抗力で払えない場合でも不敬行為とされた。

もっとも、歴代の天皇に対する不敬行為は、それが同時に現在の天皇に対する不敬行為にあたる場合を除き、不敬罪は適用されず、ただ死者に対する名誉毀損罪(230条2項)の適用の有無のみが問題とされた(注:死者に対する名誉毀損罪は、「虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ」(現代語化改正前の法文は「誣罔ニ出ツルニ非サレハ」)、処罰されない)。

現行法律下では告訴権者が「天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣」であるときに内閣総理大臣が代わって名誉毀損罪や侮辱罪の告訴を行うことができるのみで、適用される法律自体は一般国民に対するそれと変わらない(刑法232条2項・同条1項、同章)。
沿革

日本では不敬罪は、1880年明治13年)に公布された旧刑法(明治13年太政官布告第36号)において明文化された。この規定は、1907年(明治40年)に公布された現行刑法(明治40年法律第45号)に引き継がれた。

その後、1946年(昭和21年)11月3日に日本国憲法が公布された際に出された大赦令により、不敬罪(74条、76条)について恩赦の対象とされ、同条を含む法第2編第1章(「皇室ニ對スル罪」、73条から76条まで)は、1947年(昭和22年)10月26日に削除された。

不敬罪で起訴された最後の事件は、1946年昭和21年)5月1日飯米獲得人民大会における『プラカード事件』であるが、前記の大赦令の公布により免訴となった。この刑法第2編第1章には、不敬罪のほか、天皇・皇族などに対して危害を加える行為(未遂を含む)を加重処罰する罪(73条、75条)も定められていた。危害罪も含めた「皇室ニ對スル罪」全体を『不敬罪』と呼ぶこともある。
法文
刑法

刑法第二編第一章は、かつては存在していたが、1947年(昭和22年)に削除されている。.mw-parser-output .lang-ja-serif{font-family:YuMincho,"Yu Mincho","ヒラギノ明朝","Noto Serif JP","Noto Sans CJK JP",serif}.mw-parser-output .lang-ja-sans{font-family:YuGothic,"Yu Gothic","ヒラギノ角ゴ","Noto Sans CJK JP",sans-serif}?法(明󠄁治40年法律第45號)第1章 皇室ニ對スル罪第73條 天皇、太皇太后、皇太后、皇后、皇太子又ハ皇太孫ニ對シ危害󠄂ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者󠄁ハ死?ニ處ス第74條 天皇、太皇太后、皇太后、皇后、皇太子又ハ皇太孫ニ對シ不敬ノ行爲アリタル者󠄁ハ三月󠄁以上五年以下ノ懲󠄁役ニ處ス神󠄀宮又ハ皇陵ニ對シ不敬ノ行爲アリタル者󠄁亦同シ第75條 皇族ニ對シ危害󠄂ヲ加ヘタル者󠄁ハ死?ニ處シ危害󠄂ヲ加ヘントシタル者󠄁ハ無期󠄁懲󠄁役ニ處ス第76條 皇族ニ對シ不敬ノ行爲アリタル者󠄁ハ二月󠄁以上四年以下ノ懲󠄁役ニ處ス
旧刑法

旧刑法にも同様の規定がある。罰金刑を定めていた点、および、監視に関する規定を持つ点が異なる。舊?法(明󠄁治13年太政官??第36號)第1章 皇室ニ對スル罪第116條天皇三后皇太子ニ對シ危害󠄂ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者󠄁ハ死?ニ處ス第117條天皇三后皇太子ニ對シ不敬ノ所󠄁爲アル者󠄁ハ三月󠄁以上五年以下ノ重禁錮ニ處シ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ヲ附加ス2項皇陵ニ對シ不敬ノ所󠄁爲アル者󠄁亦同シ第118條皇族ニ對シ危害󠄂ヲ加ヘタル者󠄁ハ死?ニ處ス其危害󠄂ヲ加ヘントシタル者󠄁ハ無期󠄁徒?ニ處ス第119條皇族ニ對シ不敬ノ所󠄁爲アル者󠄁ハ二月󠄁以上四年以下ノ重禁錮ニ處シ十圓以上百圓以下ノ罰金ヲ附加ス第120條此章ニ記載シタル罪ヲ犯シ輕罪ノ?ニ處スル者󠄁ハ六月󠄁以上二年以下ノ監視󠄁ニ付ス
大津事件詳細は「大津事件」を参照

1891年明治24年)5月、日本を訪問していたロシア帝国皇太子ニコライ(後のニコライ2世)が、滋賀県大津市で警備の巡査津田三蔵に突然斬りかかられて負傷する暗殺未遂事件が発生した。その事件処理に際して、大国ロシアを恐れた政府は大審院に対し、皇室に対する罪を適用して処断するよう圧力をかけた。しかし、大審院は、「皇室に対する罪は、外国の皇太子に対する行為については適用されない」として、一般の殺人未遂事件として処理し、司法権の独立を保った。このとき政府から適用するよう求められた罪は、不敬罪ではなく皇族に対する危害罪(旧刑法116条)である。

また昭和21年5月19日に於ける不敬罪事件(最大判昭23・5・26刑集2・6・529)ではGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の「天皇といえども特別な保護を受けるべきではない」という意向により不敬罪で起訴された被告人は天皇個人に対する名誉毀損の特別罪として免訴された判例がある。
ノルウェー

2005年刑法が2015年に施行され、不敬罪は犯罪と見なされなくなった。
スウェーデン

スウェーデンでは、第二次世界大戦後の1948年に不敬罪(lese-majeste)は廃止された。
イギリス

1848年反逆罪重罪法(Treason Felony Act of 1848)は、君主制廃止の主張を犯罪としていた。依然として法令集に記載されているが事実上無効とされる[30]
関連文献
日本の不敬事件判例


司法省刑事局 編『国立国会図書館デジタルコレクション 不敬事件』司法省刑事局〈思想研究資料 ; 第8輯〉、1928年。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1281190/7 国立国会図書館デジタルコレクション。 

脚注[脚注の使い方]
注釈^ 君主やその一族以外の者に対し行った場合に適用される罪が存在しない場合に問題になる。
^ 元の統計では被害数、発生件数とあるが、用語を認知件数に改めた。前年以前に起きてその年に認知された事件を含み、その年に起きて翌年以降に認知された事件を含まない。
^ 昭和元年。

出典^COP-15 activists in lese majeste case
^Spain royal sex cartoonists fined.
^ a b c d “カンボジア 国王への不敬罪、初適用 小学校校長を逮捕”. 毎日新聞 (2018年5月15日). 2018年5月17日閲覧。
^ “Constitutional Court Judgment of 28 October 2021 (in Dutch)” (2021年10月28日). 2022年2月15日閲覧。
^ “Straffeloven” [[[Danish Penal Code|The Penal Code]]] (デンマーク語). Retsinformation. 2017年1月26日閲覧。
^ Koninkrijksrelaties, Ministerie van Binnenlandse Zaken en. “Wetboek van Strafrecht” (オランダ語). wetten.overheid.nl. 2021年9月6日閲覧。
^ Spain. Ley Organica 10/1995, de 23 de noviembre, del Codigo Penal [Constitutional Law 10/1995, of 23 November, on the Criminal Code] (in Spanish). BOE no 281, 24 November 1995. Retrieved 16 July 2019.


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