不当労働行為
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不当労働行為(ふとうろうどうこうい)とは、使用者が行う労働者団結権を侵害する行為であり、労働組合法において禁止されている。

日本の現行制度は、範をワグナー法にとって規定された。その設けられた意義は、日本国憲法第28条の目的をより効果的に担保せんとするにある。労働組合法第1条の宣言するところもこれと異ならない。即ち、団結権、団体行動権を侵害する使用者の行為の類型を明確にして、これを禁止し、その違反に対しては裁判所による権利保護に加え、行政委員会による簡易迅速な救済措置が講じられているのである。不当労働行為制度は、労使関係の平和的かつ円滑な進展に寄与するよう運営されるべきであって、争議行為の原因たらしめるべきではない(昭和32年1月14日発労第1号)。

本項で労働組合法については以下では条数のみ記す。

不当労働行為の種類

労働組合法は、使用者の不当労働行為のみを規定している。しかし、団結権、団体行動権に影響を与えるからといって、かかる使用者の行為のすべてを禁止しているのではない。即ち、それは使用者の正当な行為を禁ずるものではなく、また、労働者側の不当な行為までも保護するものではない(昭和32年1月14日発労第1号)。

以下の使用者の行為が、不当労働行為とされる(第7条各号)。
労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。前段はいわゆる不利益取扱、後段は黄犬契約を不当労働行為として扱う旨の規定である。「不利益取扱」とは、解雇、転勤、降給、降格、減給、出勤停止、譴責等、労働者にとって経済的精神的に不利益な取扱であって、法律行為のみならず事実行為をも含み、作為たると不作為たるとを問わない。何が不利益取扱であるかについては、個々の場合の実情に即して判断すべき問題である(昭和32年1月14日発労第1号)。但書は、労働協約によって、その労働組合の組合員であることを雇用条件とすること(特にユニオン・ショップ協定)は不当労働行為とはしない旨を規定する。採用拒否は、三菱樹脂事件で示された企業の「採用の自由」を重視する考えから、特段の事情がない限り不利益取扱に該当しないとするのが現行の最高裁の立場であるが(JR北海道事件、最判平成15年12月22日[注釈 1])、学説はこの判決に批判的である[1]

使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。団体交渉拒否を不当労働行為として扱う旨の規定である。交渉は、両当事者がテーブルにつかなければ開始されない。憲法が労働者・労働組合に団体交渉権を認めたということは、労働者・労働組合の要求に対して誠実に交渉に応じるという使用者の作為義務を承認したことにほかならない[2]

労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。いわゆる支配介入や経理援助を不当労働行為として扱う旨の規定である。本来労働組合が任意に決めるべきである、組合員資格の範囲の限定や、上部団体加入に対する妨害は、不当労働行為となる。もっとも、労働者のうち誰が組合員であるかを使用者が調査することは、一般的に直ちに支配介入に当たるものではない(最判平7.9.8)。日本の労働組合#便宜供与も参照。「支配」及び「介入」とは、いずれも労働組合の内部意思に干渉する行為であるが、「支配」はその結果労働組合の意思を左右することをいい、「介入」とは左右する程度にまで至らないものをいうのであり、使用者が労働協約の定めるところに従い組合費の天引を行うこと(チェック・オフ)は「支配」「介入」にならないことはいうまでもない(昭和24年8月1日富山県経済部長あて労働省労政局労働法規課長通知)。使用者が交渉又は協議の為使用者の意思により労働組合の代表者を交渉地に参集を求めた場合においても、その交渉地に赴くための旅費、宿泊費等を使用者が支給することは「経理上の援助」に該当する(昭和24年8月3日労収第6128号)。就業時間中に組合活動をした場合、事故欠勤的な取扱とせず勤怠成績に影響なきものとするか否か、例えば勤続年数によつて昇任、昇給がなされるとき、組合活動をした日数をこの勤続年数に算入するか否かは、使用者と労働組合との間で自主的決定せらるべき問題であって、勤続年数に算入しても「経理上の援助」にはならない。就業時間中になした組合活動時間中の賃金を実際に支払わないで労働基準法平均賃金健康保険法の報酬又は雇用保険法の賃金等について便宜上差し引かないで計算すること自体は、労働組合法においては直ちに「経理上の援助」ということはできないが、業務災害が発生し、その傷病者が労働者災害補償保険法によって災害補償を受ける場合には、かかる便宜扱による平均賃金によっては、補償費の支給は受けることはできないのであって、実際に支払われた賃金に基き平均賃金を算定し、その正当な平均賃金によつてのみ補償費が支給せられる。従つて右の便宜扱による虚偽の平均賃金の告知、報告等が事業主又は労働者等によつてなされた場合においては保険給付の制限及び罰則の適用を受けるばかりでなく、場合によっては刑法上の犯罪として処罰せられることがある、又、雇用保険法にあつては、申告した保険料について更正がなされ、実際に支払われた賃金と異ることを知り乍ら異った賃金に基いて申告したときは、罰則の適用を受けることがあるものであるから注意せられたい(昭和24年8月8日労収第5553号)。組合の非専従者である労働者が会社の業務に従事中災害を蒙った場合の災害補償費の算定基礎となる平均賃金は、会社よりその労働者に対して支払った賃金額についてこれを計算するのであって、この場合労働組合より支払を受けたものは平均賃金算定の基礎とはならない(昭和24年11月11日労収第8377号)。専従職員に社宅を供与することは、その社宅の供与が現物給与の性格をもつものであれば「経理上の援助」に該当し、福利厚生施設の性格をもつものであれば「経理上の援助」には該当しない(昭和24年8月15日労収第6294号)。労働組合の専従役職員でない労働者が労働委員会の委員、衆議院議員等の公職に就く場合は、この者は労働組合の運営のための業務を行うものでないから、使用者がこの者の保険料を支払うことは、「組合運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること」ではなく、不当労働行為とはならない(昭和24年10月10日労収第7929号)。予備船員である期間中であっても組合事務に専従する者に対して会社が給料を支払うことは、不当労働行為に該当する。その場合会社業務に支障を来さないということは理由にならない(昭和24年12月22日労収第9964号)。就業時間中の組合活動に参加せる者(例えば委員会に出席する委員等)の氏名、活動参加時間等賃金支給(或は差引)基準となるものを会社側は控置して組合活動時間相当の賃金を計算して置き、賃金支払に際しては活動参加者にも一応賃金は全額支給したる後、会社側は先に計算し置きたる差引くべき活動時間相当賃金額を組合に対して請求し、労働組合は之に応じて会社に返還するという方法(経費援助)は、会社と労働組合との間に明確な特約が存し、それに従って組合の会社に対する返済が厳格にされる限り、不当労働行為には該当しないと解されるが、実際上このような行為は脱法行為として行われるおそれがあるから好ましくない(昭和25年1月13日労収第1029号)。


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