給付利得の類型において、因果関係は受益と損失という同一の事実の両面であって当事者の確定程度の意義しか持たず、因果関係は独立の要件とする意味に乏しい[15]。
また、給付利得の場合、「法律上の原因がないこと」というのは、給付の目的ないし原因となる契約などの法律関係が無効・取消し・解除などによって欠くこと意味する(目的の不存在、目的の不到達、目的の消滅)[22][24]。 侵害利得の類型においては、権限なく他人の財産を利用して得た利益が受益である。一方、勝手に自己の財産を利用されたことによって被った損害が「損失」である。しかし、侵害利得の場合には具体的な受益と損失を数量化することが困難な場合もあるとされ[20]、侵害利得の場合において「損失」の要件は不要とみるべき場合もありうるとする学説もある(土地所有者に使用意思のない土地における無断耕作など)[25]。 侵害利得における「法律上の原因がないこと」というのは、給付利得の場合とは異なり、外形的にも何ら具体的法律関係が存在しないことを意味する[26]。 不当利得の効果は当該利得についての返還義務の発生である(703条
侵害利得
不当利得の効果
不当利得の一般的効果
返還すべき物は原則として利得の原物返還によるが、社会観念上不能であれば価格返還(返還時の価格)による[27]。
返還義務の範囲は後述のように善意の受益者と悪意の受益者とでは異なるが(善意の受益者に過失があった場合の扱いについては見解が分かれている)、後述のように給付利得の場合にはこの区別は適合しにくい面があるとされる[28][29]。 善意の受益者は、その利益の存する限度(現存利益の範囲)において、これを返還する義務を負う(703条
当事者双方に返還義務を生じる場合には両者は同時履行の関係に立つ(明文はない。533条類推適用)。
なお、不当利得返還請求権は通常の債権と同様に「権利を行使できるようになった時から10年、権利を行使できることを知った時から5年」の消滅時効にかかる(166条)[30]。
善意の受益者の返還義務
現存利益の基準時は返還請求時である(多数説)[32]。
受益者が善意の場合、既に収取された果実については返還義務を負わないが(189条)、価格返還の場合、利得の運用益は損失者が当然に取得したであろう範囲においては現存利益に含まれるものと解されることから返還義務を負う(最判昭38・12・24民集17巻12号1720頁)[33]。 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならず、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う(704条
悪意の受益者の返還義務
受益者が悪意の場合にも原則は原物返還であり、社会通念上原物返還が困難な場合に価格返還となり、価格返還の場合に限って利息を付すことを要すると解されている[35]。
本条後段に定められる損害賠償責任の性質について: 不当利得の範囲は受益者の主観(善意・悪意)に応じて異なるが、この区別は内容の点からみると給付利得においては妥当でない場合があり、全体的な公平の点から調整を図る必要性があるとされる(強迫による売買によって商品の引渡しを受けた者が当該売買を取り消した場合にも悪意者として扱うべきでないとされる)[28][29]。 他人の物を無断で使用している場合などの侵害利得類型においては物権法との関係が問題となる。 民法は上の一般不当利得のほかに705条 債務が存在しないのに弁済してしまうことを非債弁済(広義の非債弁済)というが、このうち債務が存在しないことを知りつつも(つまり誰かに強制されたわけではなく任意で)債務の弁済として給付をすることを狭義の非債弁済という。本来なら法律上の原因がないとして不当利得返還請求ができるところだが、狭義の非債弁済については返還請求できないとしている(705条
判例は、?「民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず,悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではない。」という。(最判平21・11・9民集63巻9号1987頁)。
この賠償請求権の時効期間についても(166条)による。[35][36]。
類型論との関係
給付利得
侵害利得
果実
多数説によれば占有者の果実の扱いについて定めた189条
目的物滅失
占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失した場合については191条に規定があり不当利得法が適用される場合と同じ結論となる[39][40]。
特殊不当利得
非債弁済(狭義の非債弁済)
意義
要件
債務の不存在当初から債務が存在しない場合とかつて存在していた債務が既に消滅していた場合とがある[41]。
任意の給付本条が適用されるためには弁済者が任意で弁済したことが必要であり、弁済者が強制執行の回避などやむを得ない事情により弁済してしまった場合には適用がない(大判大6・12・11民録23輯2075頁、最判昭35・5・6民集14巻7号1127頁)[39][41]。