内視鏡は観察のみにとどまらず、標本の採取(生検:組織学的診断のために重要である。またヘリコバクター・ピロリの培養にも用いられる)や治療・手術にも用いられる。例えばポリープ・悪性腫瘍などの粘膜病変に対し、内視鏡を用いて切除する処置(ポリペクトミー, 内視鏡的粘膜切除術;EMR, 内視鏡的粘膜下層剥離術;ESD)が行われる。上部消化管潰瘍・出血に対してはクリッピング・焼灼・エタノール注入・トロンビン散布・硬化療法などが施行される。内視鏡を用いた胆道・膵臓の検査・治療も行われる(ERCP・ERBD・ESTなど)。また胃瘻造設術にも用いられる(PEG; percutaneous endoscopic gastristomy)。先進的医療としては内視鏡的消化管全層切除術(EFTR; endoscopic full-thickness resection), 自然開口部越経管腔的内視鏡手術(NOTES; Natural Orifice Translumenal Endoscopic Surgery)がある[6]。 日本で2000年に極細径(太さ6mm以下)の内視鏡が開発され、従来の経口内視鏡に代わる経鼻内視鏡が登場した。CCDの高解像度化により、経口内視鏡と同等の上部消化管検査が可能となっている。経口内視鏡に比べ嘔吐感や息苦しさなどの苦痛が少なく、検査中に会話することも可能なため、患者側には好評である。デメリットとしては、個人差による経鼻挿入困難、大きな生検採取やポリープ切除が不可、まれに鼻出血が発生することなどが挙げられる。 通常の生検鉗子では、鉗子の硬さに内視鏡が負け、反転操作が難しくなることがあった。このため経鼻内視鏡を施行したのちに、再度通常径内視鏡での再検査が必要となることも指摘されてきた。現在では住友ベークライトの開発したSB生検鉗子では反転操作が十分に可能となっている。 上部消化管内視鏡では通常は咽頭から食道、胃、十二指腸下行部までの観察を行う。上部消化管病変の存在が疑われる全ての症例がその適応となる。重篤な全身状態や検査同意が得られない場合が禁忌となる。 下咽頭後壁に沿って食道入口部があり、その左右は梨状陥凹が認められる。 気管分岐部付近には大動脈弓、左主気管支が位置しており、生理的に狭窄している。 縦走する柵状血管の下橋が食道胃接合部である。逆流防止機構があり胃の内容物が逆流するのを防いでいる。 噴門部を観察すると、見上げた状態になるのでスコープが見える。 胃体部は皺壁 胃角部も見上げた状態となりスコープが見える。 ルゴール氏液はグリコーゲンと反応し、褐色に正常な食道粘膜表層を染色する。食道癌病変は染色されず、白色調に見える。 (近年、機器の進歩に伴い咽頭癌,喉頭癌も検査時に発見されることがある。) 合併症のリスクを把握するために病歴、全身状態、各種検査データの把握に務める必要がある。合併症の中で特に問題となるのは検査前投薬の抗コリン薬投与が問題となる不整脈や狭心症などの心疾患、喘息などの呼吸器疾患、甲状腺機能亢進症、緑内障、男性では前立腺肥大症などが挙げられる。
AIMの組成と散布1.5%酢酸 30mL, 蒸留水 30mL, インジゴカルミン原液 20mL を混和し総計 80mL として使用する[7]。酢酸 0.6%, インジゴカルミン 0.1%に調整した混合液 40mLを鉗子口より直接注入して、まんべんなく撤布する。腫瘍部は腺管構造が破壊されており、酢酸に対する粘液の分泌能が異なるため、正常組織と異なって描出される[8]。
経鼻内視鏡
絶対適応
下顎脱臼を起こす(いわゆる顎が外れる)ため経口内視鏡ができない症例
開口不能な症例(神経疾患患者など)
通常径内視鏡では通過不能な狭窄病変のある患者
通常径内視鏡では反転しての観察が困難な病変(経鼻内視鏡は反転に際しての屈曲半径が小さい)
検査対象となる症状
食べ物が胸につかえる(食道通過障害の疑い)
少しの食事で満腹になり、食事を受け付けない(胃の拡張障害の疑い、スキルスに多い)
胃液が口や胸にあがってくる、胸焼けがする
みぞおちの痛み(=心窩部痛)
吐き気・嘔吐
吐血・下血
内視鏡像
食道の内視鏡像
下咽頭
気管分岐部
食道胃接合部(EGJ)
胃十二指腸の内視鏡像
胃底部
胃体部
胃角部
幽門部
十二指腸球部
十二指腸下行部
併用される検査
狭帯域光観察(Narrow Band Imaging;NBI), 青色レーザー
NBIでは白色光にフィルターを掛け、ヘモグロビンの反射光に当たる帯域に限局した波長の光をつくる。この波長の光による「狭帯域光観察」は粘膜表層の毛細血管や粘膜模様を強調するオリンパスの技術である。
青色レーザーは、同様な波長のレーザー光を用いた富士フイルムメディカルによる技術である[9]。
FICE(Flexible spectral Imaging Color Enhancement)
富士フイルムメディカルによる画像強調技術。画像をデジタル処理し、RGBそれぞれの分光画像でフィルタをかける波長を自由に設定できる。
インジゴカルミン[2]
色素内視鏡検査の一つ。コントラストが明瞭になる。早期胃癌の存在診断にはインジゴカルミンが有用である。[10]
ルゴール氏液
二重染色
食道癌の検査で行われる色素内視鏡検査。食道領域では癌はルゴール(ヨード)で茶褐色に染まらず、トルイジンブルー
メチレンブルー
メチレンブルーは腸上皮でしか吸収できないことを利用し、胃での腸上皮化生を検査する。
コンゴーレッド法
酸分泌機能をみる検査。
検査対象となる疾患
食道
逆流性食道炎・急性食道壊死[11]
アカラシア
食道静脈瘤
食道癌
悪性黒色腫
バレット食道
食道カンジダ
マロリーワイス症候群
異所性胃粘膜島
胃
胃炎・胃潰瘍
ヘリコバクター・ピロリによる胃炎・胃潰瘍は再発しやすく、また胃癌の発生母地となるため定期的な検査がすすめられる。
胃炎のうち、特に鳥肌胃炎[12]や化生性胃炎
黄色腫(xanthoma)
しばしば内視鏡所見として認められるが、これはヘリコバクター・ピロリ感染による炎症の結果、貪食したマクロファージが泡沫化し黄色腫となったもので、萎縮性胃炎と同様に胃癌のリスクを示唆する。
アニサキス症
胃静脈瘤
GAVE = gastric antral vasclular ectasia (water melon stmach)
胃癌
胃悪性リンパ腫(MALTリンパ腫についてはヘリコバクター・ピロリを参照のこと。)
カルチノイド
消化管間質腫瘍 (GIST)
十二指腸
十二指腸潰瘍
乳頭部癌
アミロイドーシスにおける生体検査
胃前庭部の多発胃潰瘍
インジゴカルミン散布後の多発タコいぼ状びらん
胃体部にみられた早期胃癌
左と同じ症例のインジゴカルミン染色像
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の酢酸染色後FICE強調像
合併症