上代特殊仮名遣
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(類)貴 紀 記 奇 寄 忌 幾 木 城疑 宜 義 擬非 悲 斐 火 肥 飛 樋 干 乾 彼 被 秘備 肥 飛 乾 眉 媚未 味 尾 微 身 実 箕
ウ段宇 羽 于 有 卯 烏 得久 九 口 丘 苦 鳩 来具 遇 隅 求 愚 虞寸 須 周 酒 州 洲 珠 数 酢 栖 渚受 授 殊 儒都 豆 通 追 川 津豆 頭 弩奴 努 怒 農 濃 沼 宿不 否 布 負 部 敷 経 歴夫 扶 府 文 柔 歩 部牟 武 無 模 務 謀 六由 喩 遊 湯留 流 類
エ段
(類)衣 依 愛 榎祁 家 計 係 價 結 鶏下 牙 雅 夏世 西 斉 勢 施 背 脊 迫 瀬是 湍堤 天 帝 底 手 代 直代 田 泥 庭 伝 殿 而 涅 提 弟禰 尼 泥 年 根 宿平 反 返 弁 弊 陛 遍 覇 部 辺 重 隔弁 便 別 部売 馬 面 女曳 延 要 遥 叡 兄 江 吉 枝礼 列 例 烈 連廻 恵 面 咲
エ段
(類)気 既 毛 飼 消義 気 宜 礙 削閉 倍 陪 拝 戸 経倍 毎梅 米 迷 昧 目 眼 海
オ段
(類)意 憶 於 應古 姑 枯 故 侯 孤 児 粉吾 呉 胡 娯 後 籠 児 悟 誤宗 祖 素 蘇 十俗刀 土 斗 度 戸 利 速土 度 渡 奴 怒努 怒 野凡 方 抱 朋 倍 保 宝 富 百 帆 穂煩 菩 番 蕃毛 畝 蒙 木 問 聞用 容 欲 夜路 漏乎 呼 遠 鳥 怨 越 少 小 尾 麻 男 緒 雄
オ段
(類)己 巨 去 居 忌 許 虚 興 木其 期 碁 語 御 馭 凝所 則 曾 僧 増 憎 衣 背 苑序 叙 賊 存 茹 鋤止 等 登 澄 得 騰 十 鳥 常 跡特 藤 騰 等 耐 抒 杼乃 能 笑 荷方 面 忘 母 文 茂 記 勿 物 望 門 喪 裳 藻与 余 四 世 代 吉呂 侶

語例・用例

上代特殊仮名遣による書き分けの用例・語例を以下にまとめる[4][5]
動詞活用形棒線部は語幹である(ただし上一段活用は語幹末を文字で表記)。特に断らない限りひらがな表記はカ行で示す。

動詞の分類未然形連用形終止形連体形已然形命令形
四段活用?か (-a)?き甲 (-i1)?く (-u)?く (-u)?け乙 (-e2)?け甲 (-e1)
上一段活用?き甲 (-i1)?き甲 (-i1)?き甲る (-i1ru)?き甲る (-i1ru)?き甲れ (-i1re)?き甲[よ乙] (-i1[yo2])
上二段活用?き乙 (-i2)?き乙 (-i2)?く (-u)?くる (-uru)?くれ (-ure)?き乙[よ乙] (-i2[yo2])
下二段活用?け乙 (-e2)?け乙 (-e2)?く (-u)?くる (-uru)?くれ (-ure)?け乙[よ乙] (-e2[yo2])
カ行変格活用?こ乙 (-o2)?き甲 (-i1)?く (-u)?くる (-uru)?くれ (-ure)?こ乙 (-o2)
サ行変格活用?せ (-e)?し (-i)?す (-u)?する (-uru)?すれ (-ure)?せ[よ乙] (-e[yo2])
ナ行変格活用?な (-a)?に (-i)?ぬ (-u)?ぬる (-uru)?ぬれ (-ure)?ね (-e)
ラ行変格活用?ら (-a)?り (-i)?り (-i)?る (-u)?れ (-e)?れ (-e)

名詞等の語例

イ段甲類乙類
カ行アキ(秋)、キミ(君)、キヌ(衣)、キル(著)、サキ(先)、サキ(幸)、キル(切)、キヅ(傷)キ(木)、ツキ(月)、キリ(霧)、キ(城)、キシ(岸)
ガ行ハギ(脛)、タギ(滝)、ムギ(麦)ハギ(萩)
ハ行ヒ(日)、ヒ(檜)、ヒク(引く)、ヒコ(彦)、ヒザ(膝)、ヒモ(紐)、ヒヂ(泥)、ヒト(人)、ヒナ(夷)ヒ(火)、ヒ(樋)
バ行タビ(旅)、オビ(帯)ビ(廻)、キビ(黍)
マ行ミ(三)、ミズ(水)、ミネ(峯)、ミル(見)、アミ(網)、カミ(上)、カミ(髪)、ナミ(波)、ユミ(弓)ミ(身)、ミナ(皆)、ミル(廻)、カミ(神)、ヤミ(暗)

エ段甲類乙類
カ行ケ(異)、タケシ(長)、サケブ(叫)、ケサ(今朝)ケ(毛)、ケ(気)、タケ(竹)、サケ(酒)、イケ(池)、タケチ(高市)
ガ行クラゲ(海月)、サヤゲル(騒)カゲ(影)、クシゲ(櫛笥)、スゲ(菅)、ヒゲ(髭)
ハ行へ(辺)、へ(家)、ヘス(圧)、へダツ(隔)へ(上)、へ(戸)、ヘソ(巻子)、ウへ(上)
バ行べ(部)ベシ(可)
マ行メ(女)、ヒメ(姫)、メス(召)、アヤメ(菖蒲)、ウラメシ(恨)メ(目)、メ(芽)、メヅ(愛)、イメ(夢)、ウメ(梅)、タメ(為)、カメ(亀)、アメ(雨)、コメ(米)、マメ(豆)、メグム(恵)

オ段甲類乙類
カ行コ(子)、コ(籠)、カコ(水牛)コ(木)、コシ(腰)、コソ(助動詞)、コゾ(去年)、ココロ(心)、ノコス(残)
ガ行ナゴヤカ(和)ゴ(碁)、ナゴリ(名残)
サ行ソ(麻)、ソ(衣)、イソ(磯)、ソラ(空)ソ(助動詞)、ソ(背)、カソ(父)、ソコ(底)
ザ行カゾフ(数)コゾ(去年)
タ行ト(戸)、トガナ(利鎌)、トジ(戸主)、トフ(問)、トル(取)トモ(友)、トガ(咎)、トキ(時)、トコ(床)
ダ行カド(門)、ツドフ(集)ヨド(淀)、ノド(咽)、ノドカ(長閑)
ナ行ノ(野)ノ(荷)、ノ(助詞)、ノリ(海苔)、ノル(乗)、ノコス(残)、ノボル(登)
マ行モ(妹)、モズ(百舌鳥)、モユ(燃)、モスソ(裳裾)モ(面)、モコロ(若)
ヤ行ヨ(夜)、ヨリ(助動詞)、ヨブ(呼)、マヨ(眉)、カヨフ(通)、マヨフ(迷)ヨ(世、代)、ヨ(助詞)、ヨコ(横)、ヨシ(吉)、ヨシ(由)、ヨソ(外)、ヨド(淀)、ヨヒ(宵)、ヨスガ(縁)
ラ行クロ(黒)、シロ(白)、ムロ(室)、フクロ(袋)、カギロヒ(陽炎)イロ(色)、コロ(頃)、シロ(代)、ヒロ(廣)、マロ(麻呂)、オロス(下)、オロカ(愚)、コロス(殺)、コロモ(衣)、ヨロシ(宜)、ムシロ(筵)、ココロ(心)

現代における上代特殊仮名遣の表記法

上代特殊仮名遣が崩壊したのちに仮名が発達したため、仮名によって甲乙を示すことは通常できない。それゆえ、文字上で甲乙の区別をする必要がある時は「甲」「乙」等といった明記、右左の傍線、トレマサーカムフレックスをつけたラテン文字・下付き数字の使用、カタカナ化と変体仮名の導入などで対応している。なお、甲類と乙類の区別のない音節を指す場合、一類と呼ぶ場合がある[6]。便宜のために主な表記法を対照すると以下のようになるが、以降の記事では読みやすさのため、特に必要の無い限り仮名表記では甲乙を直截示し、ラテン文字の表記では下付き数字を使って甲乙を直截示す。

現代における上代特殊仮名遣の主な表記法[7]甲乙イェールフレレスヴィッグ & ホイットマン金田一京助[8]修正マティアス・ミラー下付き数字平仮名と片仮名[9]傍線[10]
イ甲yiiiii1片仮名右
イ乙iywiiii2平仮名左
イ一iiiii片仮名なし
エ甲yeyeeee1片仮名右
エ乙eyeeee2平仮名(ヘは変体仮名)左
エ一eeeee片仮名なし
オ甲wowoooo1片仮名右
オ乙o?oooo2平仮名左
オ一ooooo片仮名なし

研究史・諸説「日本語学#歴史」も参照
発見 (江戸時代)
本居宣長・石塚龍麿

仮名遣の研究は、江戸時代国学が勃興して以降、本格的に行われるようになる[11][12][13]。そのような中で上代特殊仮名遣の研究は、 本居宣長によって端緒が開かれた。宣長の著した『古事記伝』には、第一巻の「仮字の事」ですでに「同じ音の中でも、言葉に応じてそれぞれに当てる仮字が使い分けられている」ことが指摘されている。

さて又同音の中にも、其言にひて用る仮字異にして各定まれること多くあり。其例をいはゞ、コの仮字には普く許古二字を用ひたる中に、子には古字をのみ書て許字を書ることなくメの仮字には普く米賣二字を用ひたる中に、女には賣字をのみ書て米字を書ることなくキには伎岐紀を普く用ひたる中に、木代には紀をのみ書て伎岐をかゝず、…(中略)…右は記中に同言の数処に出たるを験て此彼挙げたるのみなり。此類の定まりなほ余にも多かり。此は此記のみならず、書記萬葉などの仮字にも此定まりほのゞゝ見えたれど、其はいまだ?くもえ験ず。なほこまかに考ふべきことなり。然れども此記の正しく精しきには及ばざるものぞ。抑此事は人のいまだ得見顕さぬことなるを、己始て見得たるに、凡て古語を解く助となることいと多きぞかし。(本居宣長『古事記伝』)

また、宣長は『古事記伝』再稿本においてこれが音の区別によるものであると考えた記述を残したが、のちに削除してしまった[14]

凡て此類いかなる故とは知れねども古おのづから音(こゑ)の別れけるにや

この宣長の着想をさらに発展させたのが、彼の門弟・石塚龍麿による『仮名遣奥山路』(1798年頃発表)であった[15]。これは万葉仮名の使われた『古事記』・『日本書紀』・『万葉集』について、その用字を調査したものであり、エ・キ・ケ・コ・ソ・ト・ヌ・ヒ・ヘ・ミ・メ・ヨ・ロ・チ・モの15種について用字に使い分けがあると結論づけた[15]。しかし、当時は本文批判が盛んでなく、調査に使われたテキストに誤記が含まれていたことや仮名の使い分けが音韻の違いに結びつくという結論付けがなされていなかったこと、それに石塚の著作が刊行されずに写本でのみ伝わっていたこともあり、注目を集めることはなかった。


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