上代日本語
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

サ行子音は音素上は/t?s/であり、異音が以下のように立ったという説もある[7]。しかし、21世紀初頭の当時最新の中古音に基づいた音価の推定である Miyake (2003) では破擦音の異音は完全に否定されている[8]

母音語頭語中
i, et???
それ以外t?ss


タ行・ダ行は、チ・ツ・ヂ・ヅについても現代語のような破擦音ではなく、[t]・[?d]であった。 すなわち、チはティ、ツはトゥ、ヂはンディ、ヅはンドゥに近い発音がされていた。

音素配列論
音節
和歌の字余りの傾向からヤ行イとワ行ウが存在したとする説がある。[9]ホ甲乙を認める研究者もあるが、これに関して詳しくは上代特殊仮名遣を参照。中古音からア行オは乙類相当として再構音を当てられるので便宜上乙類においた。

ア段イ段ウ段エ段オ段
甲類乙類甲類乙類甲類乙類
ア行aiueo
カ行kaki?ki?kuke?ke?ko?ko?
クヮ行kwa[注 2]なしなしなしなし
サ行sasisuseso?so?
タ行tatituteto?to?
ナ行naninuneno?no?
ハ行papi?pi?pupe?pe?po(?)po(?)
マ行mami?mi?mume?me?mo?mo?
ヤ行ya(yi)yuyeyo?yo?
ラ行rarirurero?ro?
ワ行wawi(wu)wewo

濁音ア段イ段ウ段エ段オ段
甲類乙類甲類乙類甲類乙類
ガ行gagi?gi?guge?ge?go?go?
ザ行zazizuzezo?zo?
ダ行dadidudedo?do?
バ行babi?bi?bube?be?bo(?)bo(?)

音節構造は基本的に(C)Vであり、母音は語頭でのみ単独で出現することができた[注 3]漢字音の影響を受けて音便と呼ばれる一連の音韻変化が生じるよりも前の時代であり、撥音(ン)・促音(ッ)は存在せず、拗音(ャ・ュ・ョで表されるような音)や二重母音(ai, au, eu など)[注 4]も基本的に存在しなかった[注 5]。また、借用語を除けば、濁音およびラ行音は語頭には立ち得なかったとされる[注 6]
文法

(地の文の甲乙は下付き数字で表示し、時代別国語大辞典上代編を参照した。)

動詞の活用の種類はほぼ中古日本語と同じだが、中古に下一段の「蹴る」の「け-」は、上代には「くゑ-」と下二段に活用するので下一段活用はなかった。形容詞未然形に「け?」があり、「うら悲しけむ」のように活用した。形容詞已然形は「け?れ」「しけ?れ」のほかに、已然の意味を表す「け?」「しけ?」の例もあった。
動詞

棒線部は語幹である(ただし上一段活用は語幹末を文字で表記)。特に断らない限りひらがな表記はカ行で示す。

動詞の分類未然形連用形終止形連体形已然形命令形
四段活用?か (-a)?き甲 (-i1)?く (-u)?く (-u)?け乙 (-e2)?け甲 (-e1)
上一段活用?き甲 (-i1)?き甲 (-i1)?き甲る (-i1ru)?き甲る (-i1ru)?き甲れ (-i1re)?き甲[よ乙] (-i1[yo2])
上二段活用?き乙 (-i2)?き乙 (-i2)?く (-u)?くる (-uru)?くれ (-ure)?き乙[よ乙] (-i2[yo2])
下二段活用?け乙 (-e2)?け乙 (-e2)?く (-u)?くる (-uru)?くれ (-ure)?け乙[よ乙] (-e2[yo2])
カ行変格活用?こ乙 (-o2)?き甲 (-i1)?く (-u)?くる (-uru)?くれ (-ure)?こ乙[よ乙] (-o2[yo2])
サ行変格活用?せ (-e)?し (-i)?す (-u)?する (-uru)?すれ (-ure)?せ[よ乙] (-e[yo2])
ナ行変格活用?な (-a)?に (-i)?ぬ (-u)?ぬる (-uru)?ぬれ (-ure)?ね (-e)
ラ行変格活用?ら (-a)?り (-i)?り (-i)?る (-u)?れ (-e)?れ (-e)

形容詞

いわゆるカリ活用はこの時代にもあるが、縮約しない「くあら-」「くあり」「くある」等の形も見られる。

形容詞の分類未然形連用形終止形連体形已然形命令形
ク活用?け甲 (-ke1)?く (-ku)?し (-si)?き甲 (-ki1)?け甲 (-ke1) 
?け甲れ (-ke1re)
シク活用?しけ甲 (-sike1)?しく (-siku)?し (-si)?しき甲 (-siki1)?しけ甲 (-sike1) 
?しけ甲れ (-sike1re)

状態言

さらに、形容詞の語幹が後代より広く用いられ、「白玉」のようなものだけでなく、「うまし国」のようにシク活用でも名詞を修飾したり、「太知り」「高行く」のように用言を修飾したり、「遠のみ?かど?」のように連体格助詞を伴ったりもした。
各種構文
ク語法

「曰く」のような「ク語法」が、形容詞・動詞・助動詞などの活用語を名詞化する語法として広く用いられた(語らく、惜しけくもなし、散らまく惜しみ)。
ミ語法

「山(を)高み?」のように形容詞語幹「高」に「み?」という形態を接続させる「ミ語法」が、後代より広く用いられた。「山が高いので」の意味になる。
助詞

助詞「よ?り」は、ほかに「ゆ・ゆり・よ?」の形もあった。「或いは」の「い」はこの時代用法が広く(毛無の?若子い笛吹き?上る)、副助詞・間投助詞・主格助詞などの説がある。
助動詞

「る・らる」は「ゆ・らゆ」の形もあった。伝聞・推定の「なり」はラ行変格活用の活用語に接続する場合、中古以降は「る」つまり連体形に接続するが、上代では「り」に接続する(さやぎ?てありなり)。時代別国語大辞典上代編にはメリは一例のみ存在とあり、萬葉集3450をみると実際に乎久佐乎等 乎具佐受家乎等 斯抱布祢乃 那良敞弖美礼婆 乎具佐可知馬利とある。一方で終止形接続の「みゆ」という形があり(と?も?しあへ?りみゆ)、まるで助動詞のようであった。

「語らふ」の「ふ」は後世より用法が広く(守らひ?)、継続・反復を表す助動詞であった(「ハ行延言」ともいう)。

存続の助動詞「り」はサ行変格活用の「せ」、四段活用のエ段に接続するもののほか、「着る」「来る」に接続した「け?り・け?る」の例もある。なおこれらエ段音は已然形ではなく命令形と同じであり、*ia > e? という音韻変化によって「あり」が縮約したことによる。これは上代特殊仮名遣いでカ・ハ・マ行のエ段音に二種類あり、甲類が命令形、乙類が已然形と分かれていることからわかる。
方言「上代東国方言」を参照

当時標準語扱いされていたであろう中央(畿内)の方言のほかに、万葉集の「東歌」に見られる東国の方言があり、万葉仮名の用い方が中央の歌とは異なるところがある。また越中の国司として赴任した大伴家持が『万葉集』巻17で「越俗語」で「東風」を「あゆのかぜ」という旨の注記をしている。
関連書

『上代日本語表現と訓詁』
内田賢徳, 塙書房, ISBN 4-8273-0096-8

脚注[脚注の使い方]
注釈^ ただし『風土記』に関しては、書写年代が古く後世の改変の少ないものがよく用いられる。
^ 『萬葉集』巻15・3754番歌「過所無しに関飛び越ゆるほととぎす[多我子爾毛]止まず通はむ」にのみ在証。
^ ごく一部、「カイ(櫂)」のような例外的な語が存在する。
^ 中古以降の日本語に見られる(見られた)二重母音は、漢字音(愛、礼、教 keu > kyo: など)、外来語、「持ち上げる」「寝起き」などの複合語を除けば、おおむねイ音便ウ音便によるもの(「早い」 hayaki > hayai、「早う」 hayaku > hayau > hayo:)か、ハ行転呼とw音の衰弱によるもの(「顔」 kaFo > kawo > kao、「藍」 awi > ai)か、母音の脱落によるもの(「あいつ」 ayatu > *aytu > aitu)かのいずれかであり、いずれにしても、後代の転訛による二次的なものである。
^ ただし上代特殊仮名遣いの解釈によっては、後世とは違った種類の拗音や二重母音を想定することができる。
^ 現代の日本語でも、語頭に濁音が来る言葉は、漢語や外来語を除けば、本来の語頭母音が脱落した結果濁音が露出したもの(イダク > ダク、ウマラ/イマラ/イバラ > バラ)など、一部の語彙に限られる。またラ行音については、擬音語・擬態語付属語以外で語頭に現れる言葉は、今でもほとんど存在しない。ら行なども参照のこと。

出典^ Hammarstrom, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). ⇒“Old Japanese”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. ⇒http://glottolog.org/resource/languoid/id/oldj1239 
^ オックスフォード上代日本語コーパスからの改称“THE OXFORD-NINJAL CORPUS OF OLD JAPANESE”. 2020年9月9日閲覧。
^ 藤井游惟(2007)『白村江敗戦と上代特殊仮名遣い―「日本」を生んだ白村江敗戦 その言語学的証拠 』東京図書出版会
^ 木田章義(2012)「上代特殊仮名遣と母音調和」『国語国文』81-11
^ Frellesvig & Whitman (2008: 8) に、森博達による表記を加えた。
^ Blaine ERICKSON. Old Japanese and Proto-Japonic Word Structure p.496 
^ 小倉肇 (西紀一九九八年十二月卅一日). サ行子音の歴史 
^ [1]
^ 山口佳紀(2011)『古代日本語史論究』:七節「字余り論は何を可能にするか」


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:53 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef