上代日本語
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松本克己に代表されるオ甲乙を条件異音とする現代と同じ5母音(7対立)説[3]もかつてはあったが、院政期アクセントをも含んだ最小対の存在からもはや受け入れられていない[4]。上代特殊仮名遣の音価の推定については上代特殊仮名遣を参照のこと。

上代特殊仮名遣の主な転写法としては、以下があげられる。(甲類でも乙類でもないものを森博達に倣って一類と呼ぶ。英語では neutral などと呼ばれる)

上代特殊仮名遣の主な転写法[5]甲乙イェールフレレスヴィッグ & ホイットマン大野修正マティアス・ミラー下付き数字仮名表記
イ甲yiiiii?片仮名
イ乙iywiiii?平仮名
イ一iiiii片仮名
エ甲yeyeeee?片仮名
エ乙eyeeee?平仮名(ヘは変体仮名)
エ一eeeee片仮名
オ甲wowoooo?片仮名
オ乙o?oooo?平仮名
オ一ooooo片仮名

子音体系

[6]

唇音舌頂音硬口蓋音軟口蓋音
無声阻害音*p*t*s *k
前鼻音化した有声阻害音*mb*?d*?z *??
鼻音*m*n  
接近音/はじき音*w*?*j 

上記のごとく音素目録は非常に単純であり、現代日本語と大差ないが、音価については異なった点がある。

ハ行/p/の子音は奈良時代には [p] であったとする説が現在一般的である。

サ行/s/の子音は現代の[s]のような摩擦音ではなく[?]・[?]などの破擦音であった可能性がある。

サ行子音は音素上は/t?s/であり、異音が以下のように立ったという説もある[7]。しかし、21世紀初頭の当時最新の中古音に基づいた音価の推定である Miyake (2003) では破擦音の異音は完全に否定されている[8]

母音語頭語中
i, et???
それ以外t?ss


タ行・ダ行は、チ・ツ・ヂ・ヅについても現代語のような破擦音ではなく、[t]・[?d]であった。 すなわち、チはティ、ツはトゥ、ヂはンディ、ヅはンドゥに近い発音がされていた。

音素配列論
音節
和歌の字余りの傾向からヤ行イとワ行ウが存在したとする説がある。[9]ホ甲乙を認める研究者もあるが、これに関して詳しくは上代特殊仮名遣を参照。中古音からア行オは乙類相当として再構音を当てられるので便宜上乙類においた。

ア段イ段ウ段エ段オ段
甲類乙類甲類乙類甲類乙類
ア行aiueo
カ行kaki?ki?kuke?ke?ko?ko?
クヮ行kwa[注 2]なしなしなしなし
サ行sasisuseso?so?
タ行tatituteto?to?
ナ行naninuneno?no?
ハ行papi?pi?pupe?pe?po(?)po(?)
マ行mami?mi?mume?me?mo?mo?
ヤ行ya(yi)yuyeyo?yo?
ラ行rarirurero?ro?
ワ行wawi(wu)wewo

濁音ア段イ段ウ段エ段オ段
甲類乙類甲類乙類甲類乙類
ガ行gagi?gi?guge?ge?go?go?
ザ行zazizuzezo?zo?
ダ行dadidudedo?do?
バ行babi?bi?bube?be?bo(?)bo(?)

音節構造は基本的に(C)Vであり、母音は語頭でのみ単独で出現することができた[注 3]漢字音の影響を受けて音便と呼ばれる一連の音韻変化が生じるよりも前の時代であり、撥音(ン)・促音(ッ)は存在せず、拗音(ャ・ュ・ョで表されるような音)や二重母音(ai, au, eu など)[注 4]も基本的に存在しなかった[注 5]。また、借用語を除けば、濁音およびラ行音は語頭には立ち得なかったとされる[注 6]
文法

(地の文の甲乙は下付き数字で表示し、時代別国語大辞典上代編を参照した。)

動詞の活用の種類はほぼ中古日本語と同じだが、中古に下一段の「蹴る」の「け-」は、上代には「くゑ-」と下二段に活用するので下一段活用はなかった。形容詞未然形に「け?」があり、「うら悲しけむ」のように活用した。形容詞已然形は「け?れ」「しけ?れ」のほかに、已然の意味を表す「け?」「しけ?」の例もあった。
動詞

棒線部は語幹である(ただし上一段活用は語幹末を文字で表記)。特に断らない限りひらがな表記はカ行で示す。

動詞の分類未然形連用形終止形連体形已然形命令形
四段活用?か (-a)?き甲 (-i1)?く (-u)?く (-u)?け乙 (-e2)?け甲 (-e1)
上一段活用?き甲 (-i1)?き甲 (-i1)?き甲る (-i1ru)?き甲る (-i1ru)?き甲れ (-i1re)?き甲[よ乙] (-i1[yo2])
上二段活用?き乙 (-i2)?き乙 (-i2)?く (-u)?くる (-uru)?くれ (-ure)?き乙[よ乙] (-i2[yo2])
下二段活用?け乙 (-e2)?け乙 (-e2)?く (-u)?くる (-uru)?くれ (-ure)?け乙[よ乙] (-e2[yo2])
カ行変格活用?こ乙 (-o2)?き甲 (-i1)?く (-u)?くる (-uru)?くれ (-ure)?こ乙[よ乙] (-o2[yo2])
サ行変格活用?せ (-e)?し (-i)?す (-u)?する (-uru)?すれ (-ure)?せ[よ乙] (-e[yo2])
ナ行変格活用?な (-a)?に (-i)?ぬ (-u)?ぬる (-uru)?ぬれ (-ure)?ね (-e)
ラ行変格活用?ら (-a)?り (-i)?り (-i)?る (-u)?れ (-e)?れ (-e)

形容詞

いわゆるカリ活用はこの時代にもあるが、縮約しない「くあら-」「くあり」「くある」等の形も見られる。

形容詞の分類未然形連用形終止形連体形已然形命令形
ク活用?け甲 (-ke1)?く (-ku)?し (-si)?き甲 (-ki1)?け甲 (-ke1) 
?け甲れ (-ke1re)
シク活用?しけ甲 (-sike1)?しく (-siku)?し (-si)?しき甲 (-siki1)?しけ甲 (-sike1) 
?しけ甲れ (-sike1re)

状態言

さらに、形容詞の語幹が後代より広く用いられ、「白玉」のようなものだけでなく、「うまし国」のようにシク活用でも名詞を修飾したり、「太知り」「高行く」のように用言を修飾したり、「遠のみ?かど?」のように連体格助詞を伴ったりもした。
各種構文
ク語法

「曰く」のような「ク語法」が、形容詞・動詞・助動詞などの活用語を名詞化する語法として広く用いられた(語らく、惜しけくもなし、散らまく惜しみ)。
ミ語法

「山(を)高み?」のように形容詞語幹「高」に「み?」という形態を接続させる「ミ語法」が、後代より広く用いられた。「山が高いので」の意味になる。
助詞

助詞「よ?り」は、ほかに「ゆ・ゆり・よ?」の形もあった。「或いは」の「い」はこの時代用法が広く(毛無の?若子い笛吹き?上る)、副助詞・間投助詞・主格助詞などの説がある。
助動詞

「る・らる」は「ゆ・らゆ」の形もあった。伝聞・推定の「なり」はラ行変格活用の活用語に接続する場合、中古以降は「る」つまり連体形に接続するが、上代では「り」に接続する(さやぎ?てありなり)。時代別国語大辞典上代編にはメリは一例のみ存在とあり、萬葉集3450をみると実際に乎久佐乎等 乎具佐受家乎等 斯抱布祢乃 那良敞弖美礼婆 乎具佐可知馬利とある。一方で終止形接続の「みゆ」という形があり(と?も?しあへ?りみゆ)、まるで助動詞のようであった。

「語らふ」の「ふ」は後世より用法が広く(守らひ?)、継続・反復を表す助動詞であった(「ハ行延言」ともいう)。

存続の助動詞「り」はサ行変格活用の「せ」、四段活用のエ段に接続するもののほか、「着る」「来る」に接続した「け?り・け?る」の例もある。なおこれらエ段音は已然形ではなく命令形と同じであり、*ia > e? という音韻変化によって「あり」が縮約したことによる。これは上代特殊仮名遣いでカ・ハ・マ行のエ段音に二種類あり、甲類が命令形、乙類が已然形と分かれていることからわかる。
方言「上代東国方言」を参照

当時標準語扱いされていたであろう中央(畿内)の方言のほかに、万葉集の「東歌」に見られる東国の方言があり、万葉仮名の用い方が中央の歌とは異なるところがある。また越中の国司として赴任した大伴家持が『万葉集』巻17で「越俗語」で「東風」を「あゆのかぜ」という旨の注記をしている。
関連書

『上代日本語表現と訓詁』
内田賢徳, 塙書房, ISBN 4-8273-0096-8


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