三毛別羆事件
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さらにヒグマはマユの体を引きずりながら、土間を通って窓から屋外に出たらしく、窓枠にはマユのものとおぼしき数十本の頭髪が絡みついていた[12] [13]。加害クマを追跡するにはすでに遅い時間で、この日は日没が迫るなか住民たちに打つ手は無かった[13]当時の開拓村の家(再現)北海道開拓の村に再現された開拓小屋の内部事件直前の明景家写真

翌日の12月10日午前9時頃、捜索隊が結成され、一行はクマを見つけた。余りにも近い場所からクマが出たのに驚いた一行は、慌てふためき銃口を向けたが、手入れが行き届いていなかったため発砲できたのは谷の銃わずか1丁だけだった[14]

ヒグマは銃声を聞いて逃走したため、男性らがヒグマのいた付近を確認すると、トドマツの根元に、黒い足袋を履きぶどう色の脚絆が絡まる膝下の脚と頭蓋の一部しか残されていないマユの遺体を発見し、収容した[14]

このヒグマは人間の肉の味を覚えた。マユの遺体を雪に隠そうとしたのは保存食にするための行動だった。
第二の襲撃事件

同日夜、太田宅で幹雄とマユの通夜が行われたが、村民はヒグマの襲来におびえ、参列したのは六線沢から3人と三毛別から2人、幹雄の両親とその知人、喪主の太田三郎のあわせて9人だけだった[14]。午後8時半ごろ、ヒグマが乱入してきた。ランプが消え、棺桶が打ち返されて遺体は散らばり、恐怖に駆られた会葬者達はに上ったり屋外に飛び出したりと、右往左往の大混乱となった[15]。堀口清作は屋内に踏みとどまった一方、蓮見嘉七はいち早く妻のチセを踏み台にして屋根裏の梁にかけあがり、踏み倒されたチセは堀口に助けられてようやく天井の梁に逃れた。嘉七は死ぬまでチセに頭が上がらなかったという。300m先の家で食事をしていた50人が駆けつけたが、ヒグマはこの時には姿を消していた。犠牲者が出なかったことに安堵した一同は、いったん明景家に退避しようと下流へ向かった[16]

そのころ、太田宅から500mほど下流の明景家には戸主・明景安太郎(当時40歳)、その妻・明景ヤヨ(当時34歳)、長男・力蔵(当時10歳)、次男・勇次郎(当時8歳)、長女・ヒサノ(当時6歳)、三男・金蔵(当時3歳)、四男・梅吉(当時1歳)の7人と、事件を通報するため30kmほど離れた苫前村役場や19kmほど離れた古丹別巡査駐在所に向かっていた斉藤石五郎(当時42歳)[17]の妻で妊婦の斉藤タケ(当時34歳)、三男・巌(当時6歳)、四男・春義(当時3歳)の3人、そして事件のあった太田宅の寄宿人で男手として明景宅に身を寄せていた長松要吉(当時59歳)の合計11人(タケの胎児を含めると12人)がいた[15]

太田家からヒグマが消えて20分と経たない[15]午後8時50分ごろ、激しい物音と地響きをたて、窓を突き破って黒い塊が侵入してきた。ヤヨはその塊に「誰だ」と呼びかけたが、それはヒグマであった。混乱の中で囲炉裏とランプの火が消え、ヒグマは暗闇の中で人々に次々と襲いかかった[18]

ヤヨと、彼女に背負われていた梅吉はクマに噛まれて負傷するも、クマは逃げる要吉に気を取られたため難を逃れ、外に逃れた。一方で追われた要吉は牙を腰のあたりに受けて重傷を負った[19]。さらにヒグマは居間にいた金蔵と春義を殺害、厳に噛みつき重傷を負わせる。野菜置き場に隠れていたタケは気づいたヒグマによって居間に引きずり出され、「腹破らんでくれ!」「のど喰って殺して!」と胎児の命乞いをしたがやがて意識を失い、上半身から食われて殺害された[20]

激しい物音と絶叫を聞いて駆けつけた村の男性らは負傷したヤヨに助けを求められた。「家を焼き払う」「一斉銃撃をする」などの案も出たが、中に生存者がいることを案じたヤヨの反対で止められた。生存者を救出したうえで家を取り囲み鉄砲を空に向かって放つと、ヒグマは玄関から躍り出て男たちの前に現れ、彼らが撃ちあぐねているうちに裏山の方へと姿を消した[20]。男たちが家に入って様子を確認したところ、殺害されたタケの腹は破られ胎児が引きずり出されていたが、ヒグマが手を出した様子はなく、そのときには少し動いていたというが、やがて死亡した[21][19]。六線沢の全15戸の住民は、三毛別にある三毛別分教場(その後、三渓小学校になるが廃校)へ避難することになり、重傷者達も3km川下の辻家に収容されて応急の手当てを受けた。巌は母・タケの惨死を知るすべもないまま、「おっかぁ!クマとってけれ!」とうわ言をもらし、水をしきりに求めつつ20分後に息絶えた[22]

結果的にこの日の襲撃では、タケ、金蔵、巌、春義、タケの胎児の5人が殺害され、ヤヨ、梅吉、要吉の3人が重傷を負った[23]。力蔵は雑穀俵の後ろに隠れ生還、ヒサノは失神し居間で倒れていたが、同じく生還した[21]


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