三峡ダム
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1919年 孫文、三峡ダム建設プロジェクト提唱

(戦争等により進展せず白紙に)

1931年 - 長江大洪水が発生。死者13万5千人、家屋流失200万件。

1950年 - 長江水利委員会が設置され、予備調査を開始。

1954年 - 長江大洪水が発生。死者3万人、家屋流失100万人。

1956年 調査完了、1963年着工方針発表、長江流域企画弁公室(長弁)設立。

中ソ対立文化大革命・ダム建設反対論等により中断、進展せず。


1983年 - 三峡ダム事業化調査報告提出。

1989年 - 六四天安門事件直後、建設反対派の意見を掲載した『長江 長江-三峡工程論争』が発禁となる。

1992年4月3日 - 全人代、三峡ダム着工を採択(出席者2633名、賛成1767名、反対177名、棄権664名、無投票25名)。

1993年9月27日 - 長江三峡工程開発総公司が設立され、第一期工事の準備工事が開始。

1994年12月14日 - 本工事開始。

1997年11月8日 - 第一期工事完成。第二期工事開始[10]

1998年 - 長江大洪水が発生。死者1562人[11]

2003年 - 第二期工事完成。湛水、水力発電の部分稼働を開始、第三期工事開始[10]

2006年5月20日 - 三峡ダム本体竣工。

2009年 - 完成。

2012年7月10日 - 水力発電の本格稼働を開始[2][3]

2020年

7月19日 - 中国で6月から断続的に降り続いている豪雨により、2006年の完成以来で最高の水位となる164.18 mに達したと報じられた[12]

8月20日 - 毎秒7万5千立方メートルの流入量を観測したと発表、2003年にダムが完成して以来、最大の流入量となった[13]


三峡プロジェクトを推進する政治家

中国指導部の胡錦濤元党総書記や李鵬元総理はいずれも発電技師出身のテクノクラートであり、三峡プロジェクトを強力に推進している。また中国国務院温家宝元総理は三峡工程建設委員会主任を兼ねている。しかし、2006年5月20日に行われたダムの完工式には彼等は一人として出席していない。この規模の国策事業の節目において最高指導部が欠席することは異例と言ってよく、その背景が注目されている。
利点
治水と干ばつ対策

三峡ダムのもっとも大きな目的は、長江の洪水の抑制である。堤高185 mである三峡ダムの最高水位は海抜175 mに設定されているが、毎年6月ごろに海抜145 mあたりまで水位を下げ、洪水期に備える。三峡ダムの巨大な貯水量は、水量調節を容易にして洪水を抑制することが期待されている。この洪水抑制能力は非常に高いものであり、10年に1度のペースで起きていた長江流域の洪水を100年に1度にまで抑制することができるとされている[14]。完成後、2010年には長江で大洪水が発生したものの、三峡ダムは洪水を一時貯留し、下流の洪水を緩和したと三峡集団は表明している[15][16]

また、豊水期に貯留した水を、渇水期に放出することによる干ばつ対策も大きな目的である。三峡ダムは2008年以降、毎年10月ごろにダムの最高水位である海抜175 mまで試験貯水と称する水位運用を行っており、2010年度は10月26日に海抜175 mに達した[17]。翌2011年には長江流域で大渇水が発生したが、このとき三峡ダムの水位を下げて追加放水が行われ、下流の干ばつ対策に貢献したと報道された[18]
2020年中国大洪水

三峡ダムは毎年満水である175 mになるまで試験貯水と称する水位運用を行っており、2019年度は9月10日に貯水が開始され[19]、10月31日に満水に達した[20]。また、この試験貯水は毎年洪水期に入る前に放水が行われて水位が下げられており、2020年6月8日には水位は144 mにまで引き下げられた[21]

2020年6月には長江流域で豪雨が発生し、洪水が懸念されていた(2020年中国大洪水)。これに対し、三峡ダムは2020年6月29日に放流を行い増水に備えたとの記事[22][23]があるが、放流はそれ以前から継続しており、流入量のピークを貯留して下流の被害を軽減するよう放流量を増減するという、通常の洪水操作が行われているに過ぎない[24]。豪雨は継続し、7月19日にはふたたび洪水のピークを迎えた。このときは下流の洪水抑制のため放流を制限しダムの水位は上昇したが、ピーク後に放流が行われて水位は下げられた[25][26]。この放流によって下流は洞庭湖を中心に警戒水位を超え、避難が行われた[27]。さらに7月29日には3回目の増水ピーク[28]、8月14日には4回目の増水ピークを迎え[29]、8月19日には洪水の流入量が竣工以来最も大きな数値となり[30]、8月20日には5回目のピークを記録[31]。これを受け、同日には三峡ダムの航行が中止された[32]。8月21日には水位は165 mを超え、危険水位を大きく上回ることとなったとの記事[33]があるが、この水位は上記のように通常秋に経験するものであり、危険水位という概念や呼称はないので、事実誤認である。また8月23日には再度放水が行われた[34]。8月22日には水位がピークとなる167.65 mに達し、洪水期の水位としては過去最高となったが、8月25日には水量減少により、三峡ダムの閘門を再開[35]。運用停止期間はダム完成以来最長の174時間に達した。

この洪水は三ヶ月に及び、三峡ダム上流にある重慶始め長江流域各地の冠水状況や三峡ダムの放流状況がネットで伝えられ、今にもダムが決壊するかのような情報もあったが、実際には巧みなダム放流操作により、洪水時満水位175 mに対して十分な余裕を持って洪水をピークカットし、下流の被害を軽減することができたと評価されている[24]
水運

また、ダムによって水位がかさ上げされることにより、上記のように1万トン級の船が四川盆地の玄関口である重慶市中心部にまでさかのぼることができるようになるほか、これまで三峡に多く存在していた航行の難所がすべて消失し、航行が容易になることによって航行可能な船舶の数も増加する[14]。長江の輸送可能量が増加することによって物流が円滑になり、中国政府の進める西部大開発の起爆剤となることが期待されていた。閘門の運用開始後、この水域の通過貨物量は激増し、2019年には運用開始前の約8倍、1億4600万トンに達したと報じられた[36]。これによって、重慶は計画通り西南部の物流拠点として重要な地位を占めるようになった[4]。一方、中国の経済成長によって三峡の航行量は増大し続け、当初見積もりの年間1億トンを2015年には大幅に超えるようになり、三峡ダムの通過に遅延が生じるようになったため対策が急務とされた[37]
発電

三峡ダム水力発電所は、70万 kW発電機32台を設置し2250万 kWの発電が可能である[2][3]。これは最新の原子力発電所や大型火力発電所では16基分に相当し、世界最大の水力発電ダムとなる。三峡ダム水力発電所の年間発生電力量は1000億 kWhであり、中国の電気エネルギー消費量が年間約5兆 kWhであるから、三峡ダムだけで中国の電気の2.0 %を賄えることとなる。この電力を石油を燃やした火力で作るとすれば、1年間に石油1750万トン、CO2排出5450万トンという数値になる。ちなみに、東京電力の一般家庭向け販売電力量はおよそ860億 kWhで、日本の年間電気エネルギー消費量は約1兆 kWhである。ダムによる水力発電は一度完成してしまいさえすれば火力発電に比べ二酸化炭素の放出量が大幅に少なくて済み、環境負荷が少ない[38]。ここで発電された電力は、中国政府の「西電東送」(西で発電して東へ供給する)計画の一環として、上海市などの長江デルタ地帯へと送られる[4]。実際の発電量は、2013年には837億 kWh、2014年には988億 kWhであった。三峡ダムと匹敵するもう一つの巨大水力発電所であるブラジルパラグアイ間にあるイタイプダムの発電量は、2013年には986億 kWh、2014年には878億 kWhだった[39][40][41]


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