三フッ化窒素
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近年フッ素ガスが、三フッ化窒素よりも環境への負荷が小さい代替品として、フラットパネルや太陽電池の量産工程用として導入されている[2]。三フッ化窒素は取り扱いの容易さと安定性から、化学レーザーの一種であるフッ化水素レーザーに用いられる。
合成方法と反応性

二元素から成るフッ化物の中で、NF3 はフッ素と窒素からは直接合成できない珍しい例である。ほとんどの元素はフッ素ガスと反応し、時には激しく反応する。しかし、N2 と F2 とを直接反応させることはできない。

NF3 を初めて合成したのはオットー・ラフ(英語版)であり、ラフは1903年に始めた最初の取り組みから25年後の1928年に、フッ化アンモニウムフッ化水素の溶融混合物を電気分解するという方法を使って NF3 を得ることができた[3]。これにより、三フッ化窒素は三塩化窒素よりもはるかに反応性が低いことが判明した。今日では、アンモニアとフッ素ガスを反応させる方法を使ったり、ラフの方法を改良した方法を使ったりする[4]

NF3は気体であり、高圧ボンベに入れて輸送される。
反応

NF3は水にわずかに溶ける。水と反応することはない。NF3の双極子モーメントは小さく、0.2340 D である。一方 NH3 は塩基性であり、双極子モーメントは 1.47 D と高い[5]

NF3は弱い酸化剤としてはたらく。

塩化水素と反応して塩素を発生する: 2 NF 3   + 6 HCl ⟶ 6 HF   + N 2   + 3 Cl 2 {\displaystyle {\ce {2NF3\ + 6 HCl -> 6HF\ + N2\ + 3Cl2}}}

高温で金属に接触すると、テトラフルオロヒドラジン(英語版)を発生する。 2 NF 3   + Cu ⟶ N 2 F 4   + CuF 2 {\displaystyle {\ce {2NF3\ + Cu -> N2F4\ + CuF2}}}

NF3はフッ素、五フッ化アンチモンと反応してテトラフルオロアンモニウム(英語版)塩を発生する: NF 3   + F 2   + SbF 5 ⟶ NF 4 + SbF 6 − {\displaystyle {\ce {NF3\ + F2\ + SbF5 -> NF4^+SbF6^-}}}
温室効果ガス

NF3 は温室効果ガスの一種だが、使用量が少ないため、SF6 やパーフルオロカーボンと比較して地球の大気に対する環境に与える影響は小さいと言われてきた[6][7]。NF3の地球温暖化係数(GWP)はCO2の17,200倍である[8][9][10]。NF3 の温室効果ガスとしての寿命は740年である[8]。NF3 は排出量が少ないとして、京都議定書で定められた温室効果ガスには含まれていない。GWP 16,800、寿命 550年とする報告もある[6]

1992年までの生産量は100トンに達していなかったが、2007年の生産量は4000トンに上ると見られており、使用量は増加傾向にある[6]。2010年の全世界での生産量は8000トンになると見られている[11][12]。大気中の蓄積量は2006年には4200トン、2008年には5400トンに上ると見られている。2008年時点での温室ガスとしての影響は、二酸化炭素の0.15%にすぎない[13]
安全性
人体

時間加重平均限界値(TLV-TWA)は10ppmである[14]。NF3は短時間なら皮膚と接触しての危険性は無く、粘膜や眼に与える影響も小さい。肺に吸い込んだ場合には窒素酸化物並みの毒性があり、ひどい場合には血中のヘモグロビンメトヘモグロビンに変化させてメトヘモグロビン血症[15]となる。
反応性

三フッ化窒素は助燃性がある[14]
脚注^ H. Reichardt , A. Frenzel and K. Schober (2001). “Environmentally friendly wafer production: NF3 remote microwave plasma for chamber cleaning”. Microelectronic Engineering 56: 73?76. doi:10.1016/S0167-9317(00)00505-0. 
^ J. Oshinowo, A. Riva, M Pittroff, T. Schwarze and R. Wieland (2009). “Etch performance of Ar/N2/F2 for CVD/ALD chamber clean”. Solid State Technology 52: 20?24. 
^ Otto Ruff, Joseph Fischer, Fritz Luft (1928). “Das Stickstoff-3-fluorid”. Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie 172 (1): 417?425. doi:10.1002/zaac.19281720132. 
^ Philip B. Henderson, Andrew J. Woytek "Fluorine Compounds, Inorganic, Nitrogen" in Kirk?Othmer Encyclopedia of Chemical Technology, 1994, John Wiley & Sons, NY. doi:10.1002/0471238961.1409201808051404.a01 Article Online Posting Date: December 4, 2000
^ Thomas M. Klapotke “Nitrogen?fluorine compounds” Journal of Fluorine Chemistry Volume 127, 2006, pp. 679-687. doi:10.1016/j.jfluchem.2006.03.001
^ a b c Prather, M.J.; Hsu, J. (2008). ⇒“NF3, the greenhouse gas missing from Kyoto”. Geophysical Research Letters 35: L12810. doi:10.1029/2008GL034542. ⇒http://www.agu.org/journals/gl/gl0812/2008GL034542/
^ Tsai, W.-T. (2008). “Environmental and health risk analysis of nitrogen trifluoride (NF3), a toxic and potent greenhouse gas”. J. Hazard. Mat. 159: 257. doi:10.1016/j.jhazmat.2008.02.023. 
^ a bClimate Change 2007: The Physical Sciences Basis, Intergovernmental Panel on Climate Change, ⇒http://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/wg1/ar4-wg1-chapter2.pdf 2008年7月3日閲覧。 
^ Robson, J.I.; Gohar, L.K., Hurley, M.D., Shine, K.P. and Wallington, T. (2006). ⇒“Revised IR spectrum, radiative efficiency and global warming potential of nitrogen trifluoride”. Geophysical Research Letters 33: L10817. doi:10.1029/2006GL026210. ⇒http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=17893800
^ Richard Morgan (2008年9月1日). “Beyond Carbon: Scientists Worry About Nitrogen’s Effects”. New York Times. ⇒オリジナルの2008年9月7日時点におけるアーカイブ。. https://webcitation.org/query?url=http%3A%2F%2Fwww.nytimes.com%2F2008%2F09%2F02%2Fscience%2F02nitr.html%3Fref%3Dscience&date=2008-09-07 2008年9月7日閲覧。 
^ M. Roosevelt (2008年7月8日). ⇒“A climate threat from flat TVs, microchips”. ⇒http://www.latimes.com/news/nationworld/nation/la-na-climate8-2008jul08,0,7460950.story 


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