万引き
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様々な対策・調査

今日のスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどでは、客の求めに応じて店員がカウンターの向こうから商品を出してくる対面販売方式でなく、商品が裸のまま陳列された棚の間を客が自由に回遊して購入したい商品を選んでいくセルフサービス方式が主流である。セルフサービス方式で広く行われる裸陳列は、商品をいかに万引きや汚損から守るかよりも、「多く見せるほど、多く売れる」の格言に沿っていかに多くの商品を客に見せるかを優先して発達したものである[19]

対面販売においては店員が売り込みを行うが、セルフサービスにおいては売り込みを行わないので店員の人件費の節約になる。セルフサービス方式の一般化により、商品の包装にはほとんどの場合、自分自身を売り込むようなデザインがされ、同種の他製品と比較検討できるラベルが貼られるようになったので、店員が売り込みを行わなくても客が自分自身で商品を選択できるし、そうさせたほうが客の購買心を誘い出すことができる。また、売り込みを行うと、後になって店員が奨めるから買ったのにと不平を言われることがあるが、売り込みを行わず客自身に商品の選択を行なわせれば、このような不平を言えるものではない。裸陳列には、もともと買うつもりがなかったものも目に入るためにいわゆる衝動買いを引き起こす効果もある[20]

今日のセルフサービス方式の売り場は人類に残るとされる狩猟採集時代の感覚をますます激しく刺激するようになっている。広い店内、豊富な品物、少ない店員により、ごく一般的な人でさえふと狩猟採集の感覚に戻り、そのまま商品を持って帰ってしまえるような錯覚にとらわれるとされる。子供たちが万引きをするのは、野山で昆虫採集や釣りなどをして狩猟採集を疑似体験することができなくなったため、その代わりに小売店の店頭で狩猟採集の気分を味わいたくなるのだという分析[21]もある。しかし、もちろん、小売店の店頭で狩猟採集をすることは重大な犯罪に当たる[21]

今日の激しい販売競争を勝ち抜くためには店はより買いやすい売り場作りをしなければならず、そうした売り場は図らずも客の狩猟採集本能を一層激しく刺激する結果になる[21]。店は万引きを誘発しやすい状態でなければ、売れ行きが伸びない[21]。結果的に、店は万引きを作り出して万引きに悩んでいるのである[22]。そこで万引きする気分を起こさせない店舗設計にするというアプローチもある[23]

セルフサービス方式が万引きを誘引しているとの批判もある[24]。その批判が当たっているかはともかく、上記のようにセルフサービス方式は経費の増加を抑えながら売り上げを増進できる方式である。仮にセルフサービス方式により万引きが増えるとしても、その被害額を補って余りある売り上げ増が見込めれば、万引きのリスクを甘受するだけの価値がある[25]

店員の手を通じなければ絶対に商品に触れないような販売方式であれば万引きは起こらないが、セルフサービス方式では客をして自由に商品に触れさせている以上、万引きが絶対に避けられないことは明白である[26]。万引きには「誘惑」と「機会」の二つの原因がある。前者は客の内心の現象で、小売店側からではこれを左右できないが、後者には小売店側で対策を講じることができる。万引きの機会を減らすため次のような対策が採られている[27]
買い物かごや手押し車の使用

これらを利用させることで、客が店外から持ち込んだものと店内で購入しようとしているものとの区別がはっきりする。これらを利用していない客がいたら、利用するように働きかけるべきである[28]
客自身のかばんを使わせない

有効な方法ではあるものの、実際に店の入り口で客のかばんを預かり、出口で返却するとなると、保管・管理の手間が発生してしまう上に、紛失・破損した場合の責任問題も生じるのが難しいところである[29]。万引き対策に有効な方法ではあるが、ロッカーの設置などが必要となり、コストの問題で採用は少ない。ケニアなどでは、客のかばんを預かるのは一般的に見られる。
売り場の工夫

客が買い物しやすいレイアウトにすることはもちろんだが、同時に店員から客の行動を監視しやすいようにも配慮すべきである。陳列棚が高すぎたり通路が狭すぎたりすると監視の目が届きにくくなり、好ましくない。死角があれば、それを補う鏡を設置すべきである。レジは、店内を見渡せるように配置される必要がある[30]

明るい照明は店内を華やかにするばかりでなく、万引きを抑止する心理的効果もある[31]

万引きの被害に遭いやすいのは、小さくて高価な商品である。そのような商品は店員の目の届きやすい場所に陳列すべきである。あるいは万引きされやすい商品に限ってガラスケースに納めて陳列したり、カウンター越しの対面販売を採用する手法もあり[31]、多くの小売店にセルフサービス方式が採用される今日でも宝飾品店などには対面販売が残っている。
従業員の教育

防犯の重要性を認識し、客の不審な行動に気づくことができるよう従業員を教育すべきである。不審な行動として、ラルフ・G・トウジイ『セルフサービス経営入門』では以下を挙げている[32]

買い物かごや手押し車を使いたがらない

一箇所をぶらつく

季節にそぐわない厚着をしている

店員とよく喋る

特定の場所に何度も戻ってくる

レジの誤りに、繰り返してブツブツ不平を言っている

よその店で買ったものを持ち込む

大きな買い物袋をぶらさげている

あたりをチラチラと見回す

その他、次のような行動も不審である。

手持ち鞄のファスナーや口が開いており、かつ、手で隠す行動をしている

店に入る時の動きが速い

防犯カメラよりも人気がないところを探したがる

商品を無造作に持つ、または手の中に隠すように持つ

「買いたい物」として吟味する様子がない

万引き防止の最上の方法は、不審な客に自分が疑われていることを知らせることである。不審な客がいたら近くへ寄って「お買い物のお手伝い」をすることで、あなたを疑って監視していることを分からせることができる[31]
掲示

万引き対策の実施を知らせる簡単な掲示を行うことで万引きを抑制する。アメリカなどでは強く率直な警告を行う店もあるが、そのような警告は大多数の正直な客に対して無礼すぎると思われる[32]
防止システム電波式の万引き感知ラベル

電子機器やソフトウェアなど高額商品の場合、磁性体(磁気式、EM)[33]ICチップ(電波式、RFID[34]を利用した商品タグや小型のブザーを商品に貼付もしくは装着し、店舗出入口に設置された検知器で検出すると言う防止方式が、一般に採用されている。

この方式では、コストはかかるものの、個別に防犯対策を施せることから、各種量販店やレンタルビデオ店などでも普及している。しかし、検知を無効化したり、防犯装置自体を破壊したりして窃盗する者も出現しており、犯行はより巧妙化している。家電量販店では、上の感知ラベルに加え、売り場に本体・ソフトウェア・インクカートリッジなど、商品を置かず、商品のカードや見本の空箱、若しくは本体やソフトを抜いた空箱を、レジに持って行くことで、製品と交換して購入を出来るようにしている。

プリペイドカードについては、POSレジアクティベーションを有効にしないと、各種サービスが全く受けられない仕組みになっており、例えそのまま盗んでも全く意味が無い様になっている。このシステムの場合は検知ゲートは必要ない。

また、衣類に関しては、洗浄の出来無い顔料系インクを加圧封入した特殊なタグを商品に装着し、所定の治具以外で取り外すと「商品にマーキングされる」という方法で、商品窃盗を抑止している[35][36]

一部の監視カメラには、顔認識システムなどにより不審者を自動で検知する動作検知機能を伴ったものがあり、不審者を検知した後、アラームや携帯電話に電子メールを送るなどの方法で、店員に警告するシステムがある[9]

ディスカウントスーパーのPLANTでは、2008年7月から、万引の商品金額に関係なく損害賠償請求を導入し、抑止効果を上げた。このため、東京都内の一部書店中部地区三洋堂書店が損害賠償を導入しており、成果が上がりつつある[37]
客層と対策への意見

書店、文具店、レコード店の店主には、万引き対策に非常に力を入れる者がいる。これらの店で万引き被害が多い理由を、馬渕哲と南條恵は、これらの店で古くからセルフサービス方式が採られている上に扱う品物が子供たちの興味を引きやすいためだと分析した[38]。そのため、これらの店の中には「万引きお断り」「防犯カメラ設置」といった掲示を貼ったり、客が入ってくると威嚇の気持ちを込めて[38]「いらっしゃいませ」と言ったり、さりげなく客の後をつけたりするものもある。このように露骨な万引き対策をすればさすがに万引きは減るが、万引きをするつもりのない正直な買い物客にとっても感じの悪い店になってしまい、客足が遠のいてしまう。近隣に競合店がなければこのような店でも客は仕方なく買い物をするが、買い物をしやすい競合店が進出すると万引き犯のみならず正直な買い物客までそちらへ流れてしまう。このように万引き対策には大きなジレンマがある。万引き対策をすれば確かに万引きは減るが、同時に客足まで遠のいてしまうのである[38]

古着の無人店舗チェーンである「秘密のさくらちゃん」でも、無人店舗ながら遠隔からカメラで監視している。一方で顔認識システムを含む監視システムを「AIブッダ」と命名することで客の善意に訴えかけるなど、店舗を「ゆるい」雰囲気とすることで反発を和らげながら万引きを防止している[23]

また、店主や店長はともかく、一般の店員は、万引きに気づいたときの対処法についてマニュアルなどで教育を受けていたとしても、いざ万引きの現場を発見したときは見て見ぬふりをしてしまいがちである。


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