ヴァイオリン
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正面から見て左が低音、右が高音の弦であり、隣り合う弦は右図のように全て完全五度の関係に調弦する。日本では、開放弦の音高のドイツ音名を用いて、E線・A線・D線・G線(えーせん、あーせん、でーせん、げーせん)と呼ぶことが多い。1番線(I)、2番線(II)、3番線(III)、4番線(IV)と番号で呼ぶ場合もあるが、この順番は世界共通である。

素材を問わず、弓を強く押し当てる演奏方法や強いスポットライトを浴びるステージ上などで演奏を行うと意図せずに切れてしまうことも多々ある(特に細く張力が強いE線)。しかし、演奏の直前で新品の弦に換えることはエイジングの観点からも推奨されない[注釈 1]ので、レッスンやリハーサルなどで弾き込んで音調の安定した弦を作り、新品の弦と合わせてスペアとしてケースに入れて持ち歩く演奏者もいる。
材料

古くはガット弦()を用いていたが、標準ピッチが上昇すると共に、より幅の広いダイナミクスが要求されるようになるにつれて、高い張力に耐え、質量の大きい弦が求められるようになった。現在では金属弦や合成繊維ナイロン弦)が多く用いられる[11]。それも、単純なナイロン(ポリアミド)芯にアルミ巻き線を施した弦から、合成樹脂繊維の最先端技術を取り入れた芯にアルミや銀を含む金属製の巻き線を施した弦が主流になりつつある。これらの最新式の弦は、音色的にはガット弦に近い一方で、ガット弦ほど温湿度に敏感でないという長所を持つ。
調弦方法

基本的にペグを回すことで調弦するが、E線はペグだけでは微調整が困難なので、アジャスターと呼ばれるテールピースに取り付けられた小さなネジを回すことによって調弦する。微調整の難しい分数楽器や初心者向けの楽器は、他の弦にもアジャスターを取り付ける場合もある。ペグボックスに張られたD線・A線の弦を押し込む、弦を引っ張ってねじるなどの微調整が行われることもある。

通常はまずチューニング・メーター音叉などでA線を440ないし442 ~ 448 Hzに調弦し、次いでA線とE線、A線とD線、D線とG線をそれぞれ同時に弾いて、完全五度の和音の特有の響きを聞いて調弦する。協奏曲演奏に際しては、独奏ヴァイオリンをオーケストラより僅かに高く調整して華やかな独奏ヴァイオリンを引き立たせることもある一方、バロック音楽を演奏する場合などは436 ~ 438 Hz、415 Hzなど低めのチューニングを行うこともある。特に指定がある場合、楽譜に「A=435」などと記載されるケースもある。

オーケストラによっては、演奏開始前にオーボエがAの音を出すか、2ndないし1stヴァイオリンの首席奏者となるコンサートマスターがA線を開放弦で弾き、その音調に合わせて弦楽器が改めてチューニングを行うことがある[注釈 2]。コンサートマスターは(奏者の中では)最後にステージに上るので、舞台袖で入念にチューニングを行ってからステージへ向かう。
弓の構造
Hair : 弓毛
Frog : 毛止箱、フロッグ
Stick : 竿、弓身
Screw : ねじ(弓毛の張りを調節する)様々な松脂

直線状に削り出した木製の竿(スティック)を火に炙って適度なカーブを持たせ、の尾の毛を張る。この弓毛に松脂を塗ってしばらく弾くと、弓毛と弦に粉末がなじんで適度な摩擦が生じ、音色が安定する。弓毛には演奏時のみ張力を与え、使用しない時は弛めておく。

スティックの材料はブラジルボクの心材であるペルナンブコ(フェルナンブコ)が最良とされる[12]。しかしブラジルボクは乱獲のため急速に個体数が減っており絶滅が危惧されている。ブラジル内外で植林活動が始まっているものの、成長には200 年を要する。2007年6月にハーグで開かれたワシントン条約締約国会議において、ブラジルボクは同条約附属書IIに記載され、輸出入が困難になった[13]

20世紀半ばからは代替材料の開発が盛んになり、ペルナンブコと同じブラジル産の熱帯雨林材であるマサランデュバなどが用いられる他、カーボンファイバーグラスファイバーなどの人造繊維を用いた繊維強化プラスチック (FRP) の弓も作られている。中でもカーボン製の弓は弾力性、剛性、湿気への強さなどに優れ、ペルナンブコ製の弓よりも数値的性能が高いものもある[14]
分数楽器

ヴァイオリンは、奏者の体格に対して楽器が小さすぎると指板の運びが窮屈となり、また大きすぎると弓運びが困難となる。通常の大きさ(4/4、フルサイズ)の他に、子供向けの小さなヴァイオリンも作られており、3/4、1/2、1/4、1/8、1/10、1/16、1/32 などが一般的である。これらを分数楽器と呼び、スズキ・メソードなど弦楽器の早期教育で用いられ、分数楽器に合わせた弓や弦、駒も市販されている。ヴァイオリンの重量から前屈みの演奏になってしまうため美しくないとされる(若干前屈となるのはヴィオラの奏法である)。男女とも体格の完成する中学生前後でフルサイズに移行する者が多いが、大人であっても体格や重量などから3/4を選択したり、フルサイズより僅かに小さい7/8といった希少寸法の分数楽器を用いるケースもあり、体格に見合ったヴァイオリン・弓を使うことが重要とされる。

分数楽器の数字は通常、大人用(4/4サイズ)に対する胴部の容積の比率を表していると説明される。しかし実際には、現在作られているヴァイオリンの殆どが、フルサイズ=胴体の長さ14 インチ、3/4=同13 インチ、1/2=同12 インチといった等差的な寸法になっている。特に1/8 以下の楽器はメーカーによってもかなり寸法が異なるため、体格に合わせた楽器選びが重要となる。
歴史
ヴァイオリンの変遷
本体「リュート奏者」
カラヴァッジオ作(1595年頃)
右下にヴァイオリンと思しき楽器が描かれている

ヴァイオリンの起源は、中東を中心にイスラム圏で広く使用された擦弦楽器であるラバーブにあると考えられている。ラバーブは中世中期にヨーロッパに伝えられ、レベックと呼ばれるようになった。やがてレベックは立てて弾くタイプのものと抱えて弾くタイプのものに分かれ、立てて弾くタイプのものはヴィオラ・ダ・ガンバからヴィオラ・ダ・ガンバ属に、抱えて弾くタイプのものはヴァイオリン属へと進化していった[15]

世にヴァイオリンが登場したのは16世紀初頭と考えられている。現存する最古の楽器は16世紀後半のものだが、それ以前にも北イタリアをはじめヨーロッパ各地の絵画や文献にヴァイオリンが描写されている。レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿にもヴァイオリンに似た楽器の設計図が見られる。現存楽器の最初期の制作者としてはブレシアガスパーロ・ディ・ベルトロッティ(通称ガスパーロ・ダ・サロ)、クレモナアンドレア・アマティ、ガスパール・ティーフェンブルッカーが有名である。

17世紀から18世紀にかけて、イタリア北部のクレモナにおいてニコロ・アマティストラディバリ一族、グァルネリ一族など著名な制作者が続出した。特に卓越していたのがアントニオ・ストラディヴァリバルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ・デル・ジェスである。また、現在のオーストリアのインスブルック近郊のアブサムで活動したヤコブ・シュタイナーの作品も18世紀末までは最高級のヴァイオリンの一つとして取引された。[16]ヤコブ・シュタイナー作のヴァイオリン

後に演奏される曲の音域が増加するのに伴い指板が延長されるようになり、音量の増強に対応するためネックが後ろに反り、駒がより高くなった。本体内部も、弦の張力の増大に対応すべく、バスバーを長さ、高さとも大型のものに交換、ネック取り付け部も強化されている[17]。18世紀以前に作られた楽器も現状はそのように改造されているものが多い。古い様式のヴァイオリンは現在では「バロック・ヴァイオリン」といい、新しいヴァイオリンでもバロック仕様で作られたものはバロック・ヴァイオリンと呼ぶ。

これとは別に、特にイタリア製において、著名な制作者が作ったヴァイオリンを、制作時期によって「オールド(1700年代後期まで)」「モダン(1800年位から1950年位まで)」「コンテンポラリー(1950年位以降)」と分類して呼ぶこともある[18]

近年になって、音響を電気信号に変えるエレクトリック・アコースティック・ヴァイオリンや、弦の振動を直接電気信号に変えるエレクトリック・ヴァイオリンも登場している。

当初は半円形であったが、徐々に変化していき、18世紀末に現在のような逆反りの形状になった。


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