ワルサーP38
[Wikipedia|▼Menu]
シュプレーヴェルク社が所在したチェコスロヴァキアも、残っていた部品を用いて1946年に約3,000挺を組立て、CZ46と命名した。

西ドイツの再軍備に伴い、創設されたドイツ連邦軍もまた制式拳銃としてP38を欲し、1957年5月、ウルムに移転していたワルサー社でP38の生産が再開された。その後いくつかの仕様変更を施されたP38は、1963年にワルサーP1に改称された。

そのほか、イタリアの極左テロ組織赤い旅団のメンバーも、P38を凶器として愛用したと伝えられている[3]

1974年10月から1981年まで、銃身長を70mmまで短縮し(外から見えるパイプ状の部分がほとんどない程の長さ)、セーフティーレバーを単純にデコッキング機能だけとしたP38Kが2,600挺生産された。
特徴

強力な弾丸を安全に発射できるショートリコイル式の撃発システムに、大型拳銃としては画期的なダブルアクション機構を組み合わせた自動式拳銃

1930年代まで、自動式拳銃の操作方式はシングルアクションが唯一であった。これは、撃鉄を起こしてあれば軽い力で引き金を引ける利点があったが、暴発のリスクもあり、常に手動安全装置をかけなければ携帯しにくかった。

ダブルアクション機構は、撃鉄を起こさなくても引き金を引いていけば自動的に撃鉄が起き上がり、そのまま引き切ることで発砲できるため、シングルアクションに比べ引き金は重くなるが暴発のリスクが少なく、手動安全装置への依存性が減る。また、ダブルアクション機構なら弾薬が不発であっても、再度雷管を叩くことを試行できた。この機能は20世紀初頭には回転式拳銃ですでに広く普及していたが、構造が複雑化するため、同時期採用されていたコルト・ガバメントなど多くの大型軍用自動拳銃には採用されていない。ワルサー社は1929年に開発した中型自動式拳銃ワルサーPPで、自動式拳銃としては世界でも早い時期にダブルアクション機構を導入していた。

P38のダブルアクション機構はPPの流れを汲むもので、シングルアクション併用型となっている。命中精度は軍用拳銃としては高く、従来のルガーP08に比しても故障率が減り、スライド上面に大きくえぐられた開口部は排莢の確実性に貢献した。

ワルサー独特のショートリコイル機構は、スライドと銃身を直接噛み合わせて銃身の下降・開放で遅延ブローバックを実現したブローニング方式と異なり、別体のロッキングピースを用いたことで銃身の上下動を不要とし、命中精度を高めている。また、銃身先端付近の保持が必要なくなったため、前方に銃身の伸びたデザインを可能としている。

P38のショートリコイル構造は横フライス加工だけで銃身、スライド、フレームそれぞれの噛み合わせを形成する事が可能となっており、P08のような複雑な切削加工を必要としない。

第二次世界大戦中にヨーロッパ戦線に赴いたアメリカ兵の間では、P08と並んでこの拳銃を鹵獲することがステータスになっていた[1]バルジの戦いの最中には、ドイツ側で「捕虜の米空挺隊員がP38を所持しているならば(戦死者の仇だから)即刻処刑せよ」との命令も出されたという[3]
操作

弾倉を入れスライドを引いて第一弾を薬室に装填した状態でコッキングされている撃鉄は、安全装置を下げてセーフティーポジションにすることでコッキング解除(デコッキング)される。この時、ファイアリングピンはシアと連動したファイアリングピンブロックとセーフティーレバーでロックされ、安全にデコッキングが行える。この状態では、引き金は後退した位置で保持される。

セーフティーレバーを上に押し上げてセーフティーOFFの状態にすると引き金が前進し、ダブルアクションによる射撃が可能になる。オートマチックファイアリングピンブロック(AFB)により、この状態で持ち歩いても危険は無いが、大戦中に作られた粗悪なP38の中には、この一連の安全装置の精度が悪いものも存在した。

初弾はダブルアクションになるが、この状態から撃鉄を起こせばシングルアクションで初弾を撃つこともできる。薬室に弾丸が装填されている場合は撃鉄上のシグナルピンがスライド後端から飛び出すので装填状態が確認できる。弾倉交換を行う場合、グリップ下のマガジンキャッチを後方に押しながら弾倉を引き抜く。
欠点

スライド上部のカバーは、プレス加工で作られた板バネ状のラッチで引っかける簡単なものであり、連続で射撃を行うと反動で外れてしまうことがあった。その際、リアサイトも外れることがあり、射手を傷つける恐れもあった。この点は、戦後に生産されたP1の改良型であるP4では改良されている。部品点数はソ連トカレフ拳銃の倍で、ルガーP08に比べて簡略化されたとはいえ、拳銃としては多い。しかし、射撃後の通常分解ではスライド、銃身、フレームの大きな3つの部品に分かれるのみである。

また、本銃固有の問題ではないが、戦後の西ドイツ連邦軍では設計が古い点、また、老朽化によって「威嚇射撃8発、必中投擲1発(acht Warnschusse, ein gezielter Freiwurf)」というジョークが生まれた。全弾撃ち尽くしても命中せず、最後には銃を投げつけてようやく当たるという意味である。
登場作品詳細は「ワルサーP38に関連する作品の一覧」を参照
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 「Pistole 38 (38年式拳銃)」の略称であるため、銃本体の表記は厳格に省略記号としての終止符を付した「P. 38」となっているが、付属品の刻印や軍の文書上では、省略記号を省いた表記例も見受けられる。

出典^ a b “A Look Back at the Walther P38”. American Rifleman. 2018年9月9日閲覧。
^ a b “P.38 Masterpiece or misfit? Part II--The postwar era.”. 2018年9月9日閲覧。
^ a b “ ⇒PISTOL, SEMI-AUTOMATIC - GERMAN PISTOL WALTHER P-38 9MM SN# 4768c”. Springfield Armory Museum. 2018年9月9日閲覧。

参考文献

McNab, Chris (2015). The World's Greatest Small Arms: An Illustrated History. Amber Books. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 178274262X 

Karl R. Pawlas (1998). “Die Walther-Pistolen bis 1945”. Waffen Revue 111: 5-28. 

Karl R. Pawlas (1999). “Die Walther-Pistolen bis 1945”. Waffen Revue 112: 17-42. 

外部リンク.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、ワルサーP38に関連するメディアがあります。

ドイツ陸軍のPistole 38教範 H.Dv.254

pistole38.nl - Everything about the Walther P38 and Walther P5

ワルサー社公式パーツリスト

モーゼル社P.38図面

モーゼル社P.38の部品別材質と製法

関連項目

カール・ワルサー

フリッツ・ワルサー

ワルサー

ワルサーP1

ワルサーP5


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:23 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef