天然痘に一度かかった人間が免疫を獲得し、以後二度と感染しないことは古くから知られていた。このため、乾燥させて弱毒化した天然痘のかさぶたを接種して軽度の天然痘に感染させ免疫を得る方法がアジアでは行われており、18世紀にはイギリスからヨーロッパへと広がったものの[10]、軽度とは言え天然痘であるため死亡者も発生し、安全なものとは言いがたかった。一方、18世紀後半にはウシの病気である牛痘に感染したものは天然痘の免疫を獲得し、罹患しなくなるか軽症になることが経験的に知られるようになってきた。これを知ったイギリスの医学者、エドワード・ジェンナーは1796年、8歳の少年に牛痘の膿を植え付け、数か月後に天然痘の膿を接種してこれが事実であることを証明した。これが史上初のワクチンである天然痘ワクチンの創始となった。ジェンナーは1798年に『牛痘の原因と効果についての研究』を刊行して種痘法を広く公表し、1800年以降徐々に種痘はヨーロッパ諸国へと広まった[11]。 天然痘ワクチンの製造法は確立したものの、この手法がほかの病気に応用可能だとは考えられておらず、以後1世紀近く新種のワクチンは作られることがなかった[12]。しかし1870年代に入ると、微生物学の発展の中でルイ・パスツールがニワトリコレラの予防法の研究を行い、この中で病原体の培養を通じてこれを弱毒化すれば、その接種によって免疫が作られることを突き止めた[13]。この手法でパスツールは1879年にはニワトリコレラワクチンを、1881年には炭疽菌ワクチンを開発し、科学的なワクチン製造法を確立した[14]。これによって、以後さまざまな感染症に対するワクチンが開発された。 ワクチンの予防接種は多くの国で行われ、2017年時点では毎年およそ200万人から300万人の命を救っていると推定されている[15]。ワクチン投与を柱とする感染症撲滅計画も推進されており、1958年に開始された天然痘撲滅計画では患者周辺への徹底的な種痘によって1977年に根絶に成功し[16]、1980年に正式に根絶が確認された[17]。完全に根絶に成功した感染症は2017年時点では天然痘のみであるが、ポリオなどいくつかの感染症でのワクチン投与による根絶計画が進行している[15]。 ワクチンの発明以来さまざまな病気に対するワクチンが開発されてきたものの、エイズなどのようにいまだにワクチンの存在しない病気も数多く存在する[18]。 2020年に世界中でパンデミックを起こした新型コロナウイルス感染症にはワクチンが存在しなかったため、製薬企業や世界各国が総力を挙げてCOVID-19ワクチンの開発を進めた[19]。同年年末には数社がワクチンの開発に成功し、12月8日にはイギリスでファイザー社のワクチンの接種が開始された[20]。 2020年時点で接種が行われているワクチンは大きく#生ワクチンと#不活化ワクチンに分かれる。一方、COVID-19ワクチンは、RNAワクチン、DNAワクチンなど、従来のワクチンとは異なる様々な種類のワクチンが開発中である。BCGワクチン(抗酸染色) 毒性を弱めた微生物やウイルスを使用。体液性免疫/液性免疫のみならず細胞性免疫/細胞免疫も獲得できる[21]ため、不活化ワクチンに比べて獲得免疫力が強く、免疫持続期間も長い。生産コストが低い上投与回数も少なくて済み、経済性に優れるが、発見は偶発的なものに頼る部分が多いため開発しづらく、また弱っている病原体を使うため、ワクチン株の感染による副反応を発現する可能性が稀にある[22]。免疫不全症で細胞性免疫が低下している場合は、生ワクチンを接種してはならない[23]。不活化ワクチンにはできない、変異株など構造の異なるウイルス株にも対抗できる広域中和抗体が産生される[24][25]。
ワクチン製造法の開発
現況
種類
生ワクチン詳細は「生ワクチン」を参照
BCGワクチン
ポリオワクチン
種痘(天然痘)?現在は、主に軍隊用
麻疹ワクチン
風疹ワクチン
流行性耳下腺炎ワクチン(おたふく風邪)
麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)
水痘ワクチン(帯状疱疹)
黄熱ワクチン
ロタウイルスワクチン
弱毒生インフルエンザワクチン ?点鼻投与型、注射針を使用しないのと、粘膜免疫ができる。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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