ロード・ムービー
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銀行家、売春婦、脱獄囚、軍人の妻といった珍しい組み合わせが、危険な砂漠を旅する[16]。ふだんは全くつながりがない乗客たちであるが、ジェロニモアパッチ族の領地を通過するときは、高度なチームワークを発揮する[14]。ロードムービーが古典的な旅行記と違うのは、車、オートバイ、バスあるいは鉄道で旅行する人物を描きながら、近代化、便利さとひきかえに人々が失ったものを描いている点である[17] 。映画の誕生と同時に採用された手法ではあるが、第二次大戦後の車の普及・若者文化の広がりにともなって発展した。ただし、女性の軽視、「他者」への恐れ、権力・特権・ジェンダーが考慮されていないこと、白人主体であることなどの問題点があった[18]

1957年出版のジャック・ケルアック路上」は、探検、探求、旅という「マスターシナリオ」により、第二次大戦前の作品とは異なる、新しいロードムービーを提案した。まず、車を運転しているシーンが多い。サル・パラダイスという作家志望の大学生が、ネタを求めて旅に出る。旅のスタートとゴールがはっきりしており、他のドライバーとの偶然の出会いが行き先を決める[19] 。優等生のサルとは対照的な、不良少年ディーンが登場し、スピードを出して開放感を表現する[20]

ケルアックは、社会から疎外された人々を描くことで、ロードムービーの登場人物の幅を広げた。男女カップル(例:或る夜の出来事)や家族(例:怒りの葡萄)だけでなく、たとえば男性二人組のように[21]。「路上」、そしてウラジーミル・ナボコフの「ロリータ」(1957)の2作品は「破壊的なエロチシズムを帯びてアメリカ大陸を往復する記念碑的作品」とされている[8]

1950年代には、ボブ・ホープビング・クロスビーの「バリへの道」(1952)、ヴィンセント・ミネリの「The Long, Long Trailer」(1954)、ディーン・マーティンジェリー・ルイスの「底抜けのるかそるか[22](1956)などの「健全な」ロードコメディが発表された[8]。1950年代のロードムービーは多くはないが、「乱暴者」(1953)や「理由なき反抗」(1955)では「戦後の若者文化」が描かれている[8]

ティモシー・コリガンは第二次大戦後のロードムービーの主人公の具体的特徴として、「記憶喪失、妄想、芝居がかった危機」をあげている[5]。デビッド・レイダーマンによればロードムービーはモダニズムの美的アプローチあり、世間に対する怒りと反抗、スリルと開放感を描くことで、古い体制や価値観に対する幻滅を表しているという[5]。1960年代の2作品、「俺たちに明日はない」と「イージー・ライダー」がロードムービーを独立したジャンルへと引き上げた[23]。1960年代後半から1970年代のニュー・ハリウッドの時代において、ロードムービーは重要なジャンルであった。「俺たちに明日はない」に影響されて、リチャード・サラフィアンの「バニシング・ポイント」(1971)やテレンス・マリックの「地獄の逃避行」(1973)が作られた[24]

「俺たちに明日はない」はフランス映画からの影響を受けている。デヴィッド・ニューマンロバート・ベントンは、ジャン=リュック・ゴダールの「勝手にしやがれ」(1960)とフランソワ・トリュフォーの「ピアニストを撃て」(1960)からの影響をあげた[25]。デヴィン・オージェロンが言うように、第二次大戦後、ヨーロッパ、アメリカのロードムービーの制作現場は、互いに影響を与えあったのであろう[25]

1960年代の終わり頃から、ロードムービーのセックスシーンに暴力がプラスされ、興奮度がより高められた[6]。1930年代から1960年代までは、男と女が車で旅行するだけで観客は興奮した。ふたりがモーテルに泊まる、それだけでじゅうぶんであった。ヘイズ・コードによって性描写は禁じられていた[6]。なお、「俺たちに明日はない」や「ナチュラル・ボーン・キラーズ」では男と女は殺人の共犯者である。お互い、頭の中を占めているのは刑務所であり、二人で家に帰る、というエンディングはあり得なかった[26]

「アウトロー」ロードムービーには、歴史上三つの時代がある。第二次世界大戦後のフィルム・ノワールの時代(例:「恐怖のまわり道」)、ベトナム戦争に揺れた1960年代後半(「イージー・ライダー」、「俺たちに明日はない」)、そしてレーガン後の1990年代、「湾岸戦争の英雄が見直された」時代(「マイ・プライベート・アイダホ」、「テルマ&ルイーズ」、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」)である[27]


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