ロマンシュ語
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20世紀にわたるロマンシュ語の衰退は、スイスの国勢調査の結果を通して見ることができる。ロマンシュ語圏の地域のドイツ化は、話者率の減少原因の一部にすぎない。なぜならロマンシュ語を話す渓谷では常に、州の他の地域よりも全体的な人口増加率が低かったためである。[6]

グリソン地域のロマンシュ語話者数 1803?1980年[7]西暦ロマンシュ語話者 (実数)ロマンシュ語 %ドイツ語 %イタリア語 %
180336,700c. 50%c. 36%c. 14%
185042,43947.2%39.5%13.3%
188037,79439.8%46.0%13.7%
190036,47234.9%46.7%16.8%
192039,12732.7%51.2%14.8%
194140,18731.3%54.9%12.8%
196038,41426.1%56.7%16.1%
198036,01721.9%59.9%13.5%

(後略)
共通ロマンシュ語「ルマンチュ・グリシュン(ドイツ語版)」も参照学校教育におけるロマンシュ語の採択状況.mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}  共通ロマンシュ語を採択した自治体  その地方の方言を採択した自治体  一時共通ロマンシュ語を採択したものの、後に方言に変更した自治体(2013年9月時点)

共通ロマンシュ語は、上記の五大方言のうち特に活発に用いられているヴァラデル方言、スルミラン方言、スルシルヴァン方言の3つの方言に基づき、これら3方言より最大公約数的な共通項が拾い出される形で人工的に構築されたものである。

正書法は従来グラウビュンデンで行われてきた文学作品の綴り方に準拠したものとなっており、例えば/t??/という発音を表記する際に、a、o、uの前においてはウンターエンガディンで使用されていた ch の綴りを、またi、eの前ではスルシルヴァン方言やスルミラン方言で用いられていたtgの綴りをそれぞれ採用している。また、『@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}レツァ・ウッフェル(ロマンシュ語版)の妥協[訳語疑問点]』と称される規則により、cheおよびchiはそれぞれ/ke/、/ki/のように発音される。一方で特定の地方でのみ用いられている発音や文字は排される傾向にあり、エンガディン地方の方言に見られる[o]や[u]といった文字や、スルシルヴァン方言に見られる二重母音/ja/のような各地域特有の音韻や文法は共通ロマンシュ語には取り込まれなかった。グラウビュンデン州の言語法案に対する発議のポスター共通ロマンシュ語に対する反対運動の例。学校教育の場への共通ロマンシュ語導入に反対する団体Pro Idiomsによる、スルシルヴァン方言によるポスター。共通ロマンシュ語との明らかな表記上の差異の例として以下のようなものがある。

GiaをGie、eをeiと表記

dumonda(問題)をdamondaと表記

2001年、グラウビュンデン州はこの共通ロマンシュ語を州の公式の文章語として採用し、連邦政府ともども刊行物に使用し始めた。民間の刊行物や電子メディアにおいては依然として各地方の方言が優勢であるものの、共通ロマンシュ語も地域を超えた環境下においては徐々に使用頻度が増してきている。例えばLia Rumantschaのウェブサイトやロマンシュ語最大級の辞書Dicziunari Rumantsch Grischun、スイス歴史事典ロマンシュ語版などはロマンシュ語話者全体を対象にしている事から共通ロマンシュ語で記述されている。対照的に文学作品では未だにほとんど方言のみで書かれ、教会においても同様である。

共通ロマンシュ語は今日ではグラウビュンデン州立の学校においても教えられ、地方自治体との共同経営の初等学校においても2000年代には州政府が共通語教育を推進していた。初等学校における教育言語の決定権は地方自治体に委ねられており、2009年度及び2010年度に共通ロマンシュ語を選択した自治体は全体の約半数に当たる40自治体に上った。これらの地域は元々共通ロマンシュ語に非常に近い方言が用いられている地域(州中央部)や文語と口語の乖離が進んでいた地域(ウンターエンガディン地方)、あるいはドイツ語に押されつつあった地域(クール西方ライン川流域)である。

しかしながらこのような共通ロマンシュ語推進政策は各地の方言話者達の間で物議を醸すものであった。2003年にはグラウビュンデン州政府により、2005年以降ロマンシュ語圏で用いる教材としては共通ロマンシュ語によるもののみを新規に発刊する、という決定がなされていたが、これは各地方で反対運動を過熱化させる一方であった[5]。結果、2011年には一度は共通ロマンシュ語導入に踏み切った自治体のうち14の自治体が教授言語を地域の方言に戻すことにしてしまった。これを受けて、2011年12月にはグラウビュンデン州議会はこれまでの方針を改め、再び五大方言に基づくロマンシュ語教材を再導入する決定を行った。州政府評議会委員のマルティン・イェーガーは、学校に自発的に共通ロマンシュ語を取り入れさせようとして実行されてきた州の政策が失敗に終わった事を認めている[8]。2020年7月24日には最後まで共通ロマンシュ語を採用していた地域のひとつスルセス(英語版)においても、住民からの発議の結果として教授言語を地元のスルミラン方言に戻すことを決定した[9][10][11]

各方言の対応表。

日本語SursilvanSutsilvanSurmiranPuterValladerRumantsch Grischunラテン語イタリア語
金aurorororor,aur,arauraurumoro
硬いdirdirdeirdurdurdird?rusduro
目egliliglogloglegloculusocchio
軽いlevleavlevligerleivlevlevisleggero
三treistrestreistraistraistraistr?stre
雪neivnevneivnaivnaivnaivnixneve
車輪rodarodarodaroudaroudarodarotaruota
チーズcaschielcaschielcaschielchascholchascholchaschielcaseusformaggio,cacio
家casatgeasatgesachesachasachasacasacasa
犬tgauntgantgangchaunchanchauncaniscane
脚combatgombatgommachammachommachommacambagamba
鶏gaglinagagliegnagaglignagillinagiallinagiaglinagallusgallo
猫gatgiatgiatgiatgiatgiatcattusgatto
皆tuttuttottuottuottutt?tustutto
形fuormafurmafurmafuormafuormafurmaf?rmaforma
私jeujoujaeaueujauegoio

マスメディア

テレビ放送の放送枠は少ないが僅かながら存在しており、スイスドイツ語圏の国営放送が毎日17時40分にニュース番組、そして週に一度ドキュメンタリー映画をロマンシュ語で放送している。更にスイスでは頻繁に行われる国民投票に当たって、討論番組も放送されている[12]。テレビの他には、国立ロマンシュ語ラジオ「Radio Rumantsch」[13]と民間ラジオ「Radio Engiadina」[14]がロマンシュ語で放送される。「La Quotidiana」というロマンシュ語の日刊新聞が1997年に設立され、Sudostschweiz新聞社によって出版されている[15]。「Posta Ladina」はエンガディン地方の新聞で、部分的にロマンシュ語のVallader方言およびPuter方言を用いる。週に3回出版されている[16]

このほか、スイスの国立放送局の建物内の表記(スタジオ、放送室、出入口、トイレなど)は基本的にロマンシュ語を含めてドイツ語、フランス語、イタリア語とともに4言語表記されている。
イタリアにおけるレト・ロマンス諸言語

ロマンシュ語と親類関係にある同じレト・ロマンス言語群に属する言語で、現在も使用されているものに、イタリア北部のドロミテ山岳地帯で話されているラディン語、および、イタリア北東部とスロベニアの国境付近のフリウーリ地方で話されているフリウリ語がある。後者は50万人の話者を持ち、レト・ロマンシュ言語群では最大であるが、スイスにおける公用語のような地位はイタリアでは獲得していない。
正書法
アルファベット順と音素
アルファベット順

主に24文字が使用される。

A, B, C, D, E, F, G, H, I, J, K, L, M, N, O, P, Q, R, S, T, U, V, (W), X, (Y), Z.

WとYは外来語や借用語を除いて通常使用されない。
発音
母音

ロマンシュ語の母音には長短の区別がある。(簡単のため、本項では明記しない。)

a, i : ローマ字読み同様の「ア」「イ」

e, e, e :

/e/, /?/ (最後の音節で、発音しないeでは無いことを明示する時、あるいは同音異義語を区別する時に使われる)

ヴァラデル方言では、[e]は使用されず、[e]が閉音をあらわす。


e :

/e/, /?/

語尾が -el, -em, -en, -er (単音節は別)の時 : 発音しない(フランス語の[e]と同じ)


o (エンガディン方言) : /o/ (ドイツ語と同じ。フランス語の[eu]に対応)

u (エンガディン方言) : /y/ (ドイツ語と同じ。フランス語の[u]に対応)

多くの二重母音は、書かれる通りに発音する。

強勢アクセントははっきり発音され、最後の2母音のどちらかにある。例えばヴァラドル方言では、sanda "健康"は最後の音節に、sonda "土曜日"は最初の音節にアクセントが置かれる。pajanはどちらのケースもある。

強勢アクセントは、辞書や文法書で、母音の下に点で表示される。
子音

b, d, f, k, l, m, n, r, t, v : ローマ字と同じ。

c :

a, o, uの前 : /k/ (カ行)

e, iの前 : /?/ (ツァ行)


ch :

エンガディン方言 : /?/ 口蓋化したチャ行の音。

スルシルヴァン、ストシルヴァン、スルミラン方言(e,iの前) : /k/ (カ行)


dsch (エンガディン方言) :

原則 : /?/ (ジャ行に近い)

ドイツ語の影響で、しばしば /?/ (チャ行に近い)と発音される。


g :

a, o, uの前 : /?/ (ガ行)

e, i, o, uの前 : /?/ (ジャ行)




tgに対応した有声音である。

ヴァラデル方言では、語頭で、半母音 /j/ (ヤ行)の音になる。


gl (i, uの前と語尾), gli (a, e, o, uの前) : /?/ (リャ行)。

例: glima ≪ 石灰 ≫, egl (エンガディン方言ではogl) ≪ 目 ≫.

gn : /?/ (ニャ行) : muntogna ≪ 山 ≫)

h :

語頭 : 一般的には発音しないが、ドイツ語由来の言葉は除く

母音と母音の間 (スルシルヴァン方言)、語末(プテル方言) : 有気音


j : /j/ (ヤ行、半母音)

qu' : /kw/ (クヮ行、イタリア語のquattro, quiの様な音)

s :

/s/ 無声のs、母音の間に挟まれた時のみ。 : (ヴァラデル方言) ses ≪ 6 ≫, sesanta ≪ 60 ≫ ; (スルシルヴァン方言) sis, sissonta ; (グリゾン方言) sis, sessanta.

/z/ 有声のs、語頭の場合。 : rosa (エンガディン方言 rosa) ≪ 薔薇 ≫, sut (エンガディン方言 suot) ≪ ?の下で ≫.

無声子音の前 (語中に限る) : /?/ (シャ行) : festa (スルシルヴァン方言 fiasta) ≪ 祭 ≫。


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