ロバート・A・ハインライン
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ハインラインは読者の人種的偏見に挑戦するため、登場人物に思い切り同情させておいて、あとからその人物が黒人またはアフリカ系であることを明かすといった手法をとっていた[注釈 5]

一部作品では人種そのものがテーマとなっている。有名な例として『自由未来』がある。主人公の白人一家が黒人が支配者となり白人が奴隷になっている未来に放り込まれる話である。1941年の『明日をこえて』では、特定の人種だけに効き目がある武器を使うアジアのファシスト国家の侵略からアメリカを守ろうとする白人レジスタンスを描いている。これはアジア人に対して人種差別的な描写がちりばめられていて、不思議なことに黒人やラテン系の人々は全く登場しない。この本のアイデアはジョン・W・キャンベルに押し付けられたもので、ハインラインはその人種差別的な面を何とか薄めようとしたが、自ら失敗作だとしている[29][30]。なおこの作品は、特定民族だけに効果のある生物兵器は実現可能かという科学的議論を発生させた[31]。『宇宙の戦士』では主人公がフィリピン系であることが最後の方で明かされている。

『宇宙の戦士』に登場する集合精神的な社会性昆虫型生物は日本人または中国人を表しているとの示唆もあるが、ハインライン自身はこの作品を「アメリカによる核実験の一方的中止を求める声に対する反論」として書いたとだけ主張している[32]。なおハインラインは同書の中で、昆虫の社会を共産主義にたとえている[33]
個人主義

個人主義の信念を持ちつつ、ハインラインの作品にはしばしば圧制者と抑圧される者とがかなり多義的に描かれている。ハインラインは個人主義と無知は両立しないと信じていた。彼は広範囲な教育によって大人の能力が適切なレベルになっていると信じており、その教育は学校の教室でのものとは限らない。彼のジュブナイル小説では、学生の科目選択について「なぜ何か役に立つことを勉強しておかなかったんだ?」と軽蔑を込めて言う人物がよく登場する[注釈 6]。『愛に時間を』ではラザルス・ロングが人間なら誰でも持つべき能力を並べ立て、最後に「専門分化は昆虫のためにあるものだ」と結論している[34]。『悪徳なんか怖くない』、「輪廻の蛇」、「時の門」といった作品では、自身を作り出す個人の能力が深く探究されている。

ハインラインにとって個人の解放には性の解放も含まれ、1939年に For Us, The Living を書いたころから「自由恋愛」が大きな主題だった。初期作品はジュブナイルが多いこともあり、編集者や読者の目を考慮する必要があった。評論家ウィリアム・H・パターソンは、彼のジレンマについて「架空の司書のただの過度な過敏さから本当に好ましくないものを仕分けする必要があったことだ」としている[35]。中期になると『異星の客』(1961) では性の解放と性的嫉妬の排除が主要なテーマとなり、物語の進行と共に重要性を増していく新聞記者ベン・カクストンがジュバル・ハーショーとヴァレンタイン・マイケル・スミスの引き立て役となっている[要出典]。

Gary Westfahl は「ハインラインはフェミニストにとっては悩みの種である。一方では彼の作品には強い女性がよく登場し、女性は男性と同等かあるいは優れていることを明確に主張しているが、それらは一般的女性の極めてステレオタイプな態度を反映していることが多い。例えば Expanded Universe でハインラインは弁護士や政治家が全て女性という世界を描いているが、そこでは男性が真似できない神秘的な女性特有の実用性が強調されている」と記している[36]

1956年には早くも近親相姦や子供の性を扱っている。10作品(『夏への扉』、『宇宙(そら)に旅立つ時』、『栄光の道』、『愛に時間を』など)で明示的または暗黙的に近親相姦や大人と子供の間の性的感情や関係を扱っている[37]。30歳の技師と11歳の少女がタイムトラベルによって共に大人になって結婚する作品とか(『夏への扉』)、父と娘、母と息子、兄と妹といった物議をかもす組み合わせが出てくる作品(『落日の彼方に向けて』)も比較的軽く描かれている。L・スプレイグ・ディ=キャンプデーモン・ナイトはハインラインが近親相姦や小児愛を肯定的に描いている点について、好ましくないとコメントしており、それは The Heinlein Society のウェブサイト管理者も同意見である[37]
哲学

『落日の彼方に向けて』でハインラインは主人公モーリン・ジョンソンに、形而上学の目的は「我々はなぜここにいるのか?」「死んだあと我々はどうなるのか?」などという質問をすることだと言わせ「あなたはそういった質問に答えることを許されない」と言わせている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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