ロバート・A・ハインライン
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

『異星の客』は出版されなかった処女長編 For Us, The Living: A Comedy of Customs にも見られた自由恋愛と過激な個人主義をテーマとしており、書き上げた後もしばらく出版されなかった[注釈 4]。『月は無慈悲な夜の女王』は月の植民地の独立戦争を描いたもので、政府によって個人の自由に突きつけられた脅威を描いている。

ハインラインはファンタジーをほとんど書いたことがなかったが、この時期に最初のファンタジー長編『栄光の道』を書いている。また、『異星の客』や『悪徳なんかこわくない』ではハードSFとファンタジー・神秘主義の融合を試み、宗教団体への皮肉も加えている。このような新たな方向性についてハインラインは James Branch Cabell の影響があったとしている。『悪徳なんかこわくない』について評論家ジェームズ・ギルフォードは「ほとんど一般的に文学的失敗とみなされている」とし、ハインラインは腹膜炎で作家としては死んだと結論付けた[24]
後期(1980年?1987年)

体調不良による7年のブランクを経て、ハインラインは1980年(『獣の数字』)から1987年(『落日の彼方に向けて』)の間に5つの長編を書いた。これらの作品には登場人物や時代や場所に相互の繋がりがある。これら作品はハインラインの人生観や信念を明示しており、政治・性・宗教について忌憚なく書かれている。読者の評価は様々で、一部の評論家は酷評している[25]。ハインラインのヒューゴー賞受賞作品は全てこれ以前の時代に書かれている。この時期の作品はどれも『宇宙の戦士』に輪をかけて説教くさい面がある。

『獣の数字』や『ウロボロス・サークル』は最初は緊張感のある冒険もののようだが、最後には哲学的ファンタジーとなっている。これを破綻と見るか、『異星の客』を始めとするマジックリアリズム的方向にSFの境界を広げようとする試みと見るかで評価が分かれる。あるいは、量子力学の文学的暗喩と見ることもできる(『獣の数字』は観察者効果を扱い、『ウロボロス・サークル』の原題The Cat who walks through Wallsはシュレーディンガーの猫を示している)。この時期の作品は《未来史》から枝分かれした World as Myth と呼ばれるシリーズに属するとされている[26]

『異星の客』や『愛に時間を』で始まった作者の自己言及は、『ウロボロス・サークル』でさらに鮮明となっている。主人公は傷痍退役軍人から作家になった人物で、ハインラインの妻をモデルにしたと思われる強い女性と恋に落ちる[27]

1982年の『フライデイ』は従来の冒険物語に近い(「深淵」の登場人物や背景を使っており、『人形つかい』との関係が示唆されている)。フロンティアにこそ自由があるという結論は『月は無慈悲な夜の女王』や『愛に時間を』と変わらない。

1984年の『ヨブ』は、宗教団体への鋭い皮肉である。
作風と考え方

作風としては、既存の小説やテーマの舞台をSFに置き換えたものが多い。例えば、上記の『宇宙の戦士』は兵隊出世物語のSF版、『ダブル・スター』は『ゼンダ城の虜』の政治SF版であり、『異星の客』は風刺小説、『月は無慈悲な夜の女王』は植民地の独立をそれぞれSFにしたものである。また、ほぼ一貫して「庶民感覚を忘れてはいないが、あくまでも庶民と一線を画するエリートによる寡頭制」、「弱者に無償で施しを与えることを良しとしない自己責任論新自由主義に基づく能力主義社会」を理想として肯定的に描き、それらの負の側面を描くことはない。
政治

ハインライン作品は広範囲な政治的スペクトルを右に左に行ったり来たりしている。処女長編 For Us, The Living は主に社会信用論を扱い、初期の短編「不適格」ではフランクリン・ルーズベルト市民保全部隊の宇宙版のような組織を描いている。ハインライン自身は若いころは非常にリベラルだった。後の『異星の客』ではヒッピーカウンターカルチャーを称揚し、『栄光の道』は反戦を主張しているようにも読める。『宇宙の戦士』は軍国主義的で、ロナルド・レーガン政権時代に書かれた遺作『落日の彼方に向けて』は極めて右翼的である。『月は無慈悲な夜の女王』はリバタリアニズム的着想から書かれている。ただし、ハインライン自身がそれらの主張を信奉していたかどうかは不明である[28]。ただし左右どちらにしろ反権威主義という点においては一貫しており、最初のジュブナイル長編『宇宙船ガリレオ号』では裁判所命令を無視してロケット船に乗り込んで発射する少年たちを描いている。同様の状況は短編「鎮魂歌/鎮魂曲」にも描かれている。ハインラインはまた、宗教の政治への関与にも一貫して反対の立場だった。
人種

ハインラインはアメリカ合衆国で人種差別が普通だった時代に育ち、公民権運動が激しいころにそれに影響を受けた小説をいくつか書いている。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:112 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef