レイ・ブラシエ
[Wikipedia|▼Menu]
ドゥルーズは、つまるところ哲学の最も基本的な課題は愚かさを妨げることだと言っていますが、私はそれに賛成します。なので、ネット上で愚かさの乱交を生み出したことが最大の達成であるような『運動』に、哲学的な利点はほとんど見出すことはできません」[3]

現代哲学の多くは、「啓蒙の論理である脱呪術化からニヒリズムの『脅威』を食い止めるために、人間の実存を特徴づける性質である意味の経験を保護」しようと試みているが、ブラシエはこの傾向に対して強烈な批判を投げかけている。彼によれば、とりわけマルティン・ハイデッガールートヴィヒ・ウィトゲンシュタインから影響を受けた哲学者たちの間にこういった傾向がみられるという。ジョン・マクダウェルのような主流の哲学者は、世界を「再呪術化」しようとしているのに対して、ブラシエの仕事は「ニヒリズムを究極の帰結にまで推し進め」ようとするものである。

ブラシエによれば、「世界の脱呪術化は、啓蒙によって『存在の大いなる連鎖』が粉砕され、『世界という書物』が摩損するというプロセスの帰結であると理解される。それは、理性のもつ輝かしい能力がもたらした必然的な帰結であり、災禍による衰退などではなく、知的発見の爽快なベクトルなのである」[4]。ブラシエはこうも述べている。「哲学は、存在の意味、人生の目的、あるいは人と自然の失われた調和を回復する必要があるなどという指令を出すのは、もうやめた方がよい。哲学は、人間の自尊心に生じる哀れな苦痛に投与される鼻薬以上の何かであろうと努力すべきだ。ニヒリズムは実存的な窮地などではなく、思弁的な好機なのである」[4]

ブラシエの著作は、戦後のフランス哲学の要素と、(大半は英米哲学における)哲学的自然主義、認知科学、神経哲学の伝統から得られたアイデアを融合させようとするものである。したがって、フランスの哲学者であるフランソワ・ラリュエル、アラン・バディウ、クァンタン・メイヤスーたちだけでなく、ポール・チャーチランド、トーマス・メッツィンガー、スティーヴン・ジェイ・グールドなどからも強い影響を受けている。加えて、ほとんどの場合否定的にではあるが、ジル・ドゥルーズ、エドムント・フッサール、マルティン・ハイデッガーの著作にも言及している。

ブラシエの著作はしばしば、ニヒリズムとペシミズムの現代哲学と関連付けられている。TVドラマシリーズ『True Detective』の脚本家ニック・ピゾラットはあるインタビューにて、ブラシエの『Nihil Unbound』の影響を受けたと語っている。なお、ピゾラットが影響を受けた著作としては他に、トーマス・リゴッティ『The Conspiracy Against the Human Race』、ジム・クローフォード『Confessions of an Antinatalist』、ユージーン・サッカー『In The Dust of This Planet』、デイヴィッド・ベネイター『Better Never To Have Been』がある[5]
著作
単著


Nihil Unbound: Enlightenment and Extinction (London: Palgrave Macmillan
, 2007)

翻訳書(フランス語から英語への翻訳業績)


Alain Badiou, Saint Paul: The Foundation of Universalism, transl. by Ray Brassier (Stanford: Stanford University Press, 2003).

Alain Badiou, Theoretical Writings, transl. by Ray Brassier & Alberto Toscano (New York: Continuum, 2004).

Jean-Luc Nancy, "Philosophy without Conditions," transl. by Ray Brassier, collected in Think Again: Alain Badiou and the Future of Philosophy, ed. Peter Hallward (Great Britain: MPG Books, 2004).

Quentin Meillassoux, After Finitude: An Essay on the Necessity of Contingency, transl. by Ray Brassier (New York: Continuum, 2008).

脚注^ Brassier, Ray. Nihil Unbound: Enlightenment and Extinction, p. 239
^ “ ⇒Dr. Ray Brassier”. AUB. 2016年6月5日閲覧。
^ Ray Brassier interviewed by Marcin Rychter " ⇒I am a nihilist because I still believe in truth", Kronos, 4 March 2011
^ a b Brassier, Ray. Nihil Unbound: Enlightenment and Extinction.
^"Writer Nic Pizzolatto on Thomas Ligotti and the Weird Secrets of True Detective."

外部リンク

Review of Nihil Unbound in New Humanist

Axiomatic Heresy: The Non-Philosophy of Francois LaruelleRadical Philosophy 121, Sep/Oct 2003. p. 25

Webpage for Collapse journal featuring contributions by Ray Brassier and other "speculative realists"

Interview with Ray Brassier

Ray Brassier interviewed by Marcin Rychter "KRONOS"


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:15 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef