ルー・ゲーリッグ病
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しかし進行性筋萎縮症と診断後に上位ニューロン徴候を示す例があること、死亡時まで上位ニューロン徴候を示さなかった例の85%に病理学的に上位ニューロン変性の病理所見が得られたという報告がある[6]。そのため進行性筋萎縮症は筋萎縮性側索硬化症の亜型と考えられている[7]

また進行性筋萎縮症に脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy、SMA) type Wや多巣性運動ニューロパチーが含まれる。SMA1遺伝子変異を有する成人発症のSMAの多くは35歳以下の発症で、家族歴を有し、左右対称性に下肢近位筋優位の脱力で発症する。球脊髄性筋萎縮症では血液検査でクレアチンキナーゼ(CK)高値、クレアチニン(Cre)低値が認められる。神経伝導検査でCMAPの軽度低下に比較して腓腹神経でのSNAPの低下や誘発不能など感覚神経障害が高率に認められる。多巣性運動ニューロパチーは筋力低下の割に筋萎縮が軽度で神経伝導検査で伝導ブロックが認められる。
下位運動ニューロン徴候を欠くもの

臨床症状で上位運動ニューロン徴候を欠くものを上位運動ニューロン型または錐体路型という。上位運動ニューロン型では、下肢の痙縮が強く痙性対麻痺の臨床像をとることが多い。経過が緩徐な場合は原発性側索硬化症という臨床診断になることもある。臨床診断で原発性側索硬化症と診断されている例でも病理検索を行うと下位運動ニューロン障害が全くない例は稀である。脊髄前角細胞にブニナ小体やユビキチン陽性封入体が認められ、病理学的には筋萎縮性側索硬化症と考えられる例もある。原発性側索硬化症と臨床診断される例は筋萎縮性側索硬化症や遺伝性痙性対麻痺などが含まれていると考えられる。進行性に片側優位に運動ニューロン障害をきたす非常に稀な病像は痙性片麻痺型またはMills亜型と呼ばれる。原発性側索硬化症の亜型と考える報告や左右差のある筋萎縮性側索硬化症の病理像を呈したという報告もある。
その他

その他の亜型として認知症を伴うALS(ALS-D)と呼吸筋型が知られている。筋萎縮性側索硬化症の約半数に何らかの認知機能障害が検出されるが、臨床的に明らかな認知症がみられる症例はおよそ2割程度であり、病期の進行とともに比率が増加する[8][9][10]前頭葉機能の低下(行動異常や意欲の低下、言語機能の低下)が前景にたち、重度の記憶障害や見当識障害を呈する例は稀である。すなわち、HDS-RやMMSEは比較的保たれるがFABやWCSTなど前頭葉機能を検出するテストの成績が低下する。このような認知機能障害に対応する所見として前頭葉の脳血流の低下や病理変化が見いだされており、病理学的には前頭側頭葉変性症と共通した皮質病変が認められている。認知症を伴うALS(ALS-D)はALS-FTSD(Amyotrophic lateral sclerosis - frontotemporal spectrum disorder)という疾患概念で述べられることもある[11][12]

また、筋萎縮性側索硬化症の約3%で呼吸不全が初発症状となり、その多くが上肢の脱力を併発している。原因不明の拘束性換気障害の原因疾患のひとつに筋萎縮性側索硬化症があげられる。
症状

筋萎縮性側索硬化症の臨床症状は下位運動ニューロン症状、上位運動ニューロン症状、球麻痺症状、認知機能障害、陰性徴候が知られている。また特徴的な症状として解離性小手筋萎縮(split hand)が知られている。
解離性小手筋萎縮(split hand)

頚椎症などで尺骨神経が障害されると、尺骨神経支配(C8>Th1)である小指球筋と第一背側骨間筋は、通常一緒に障害される。筋萎縮性側索硬化症では初期の段階では短母指外転筋正中神経支配、Th1>C8)と第一背側骨間筋の筋萎縮がみられても、小指球筋は比較的保たれることが多く、同じ尺骨神経支配でありながら第一背側骨間筋と小指球筋の筋萎縮に解離が認められる。これを解離性小手筋萎縮(split hand)という[13][14][15][16]
認知機能障害

筋萎縮性側索硬化症の約50%で経過中に人格変化、行動障害(異常)、言語障害、遂行機能障害などの前頭葉機能障害で特徴づけられる認知機能障害を併発する[9][10]。認知症を伴うALS(ALS-D)はALS-FTSD(Amyotrophic lateral sclerosis - frontotemporal spectrum disorder)という疾患概念で述べられることもある[11][12]
陰性徴候

感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡の四大陰性徴候が有名である。その他、小脳症状、錐体外路症状、自律神経症状なども認められない。陰性徴候は筋萎縮性側索硬化症の発症早期では認められないが、末期では眼球運動障害を伴う症例がある。特に、臨床経過が速く、発症から約1.5年以内の比較的早期に人工呼吸器に至るような症例の中には、早期から眼球運動障害をはじめ感覚障害や自律神経障害を伴い、運動系を超えて広範囲の病変を呈する一群がある。これを広汎性筋萎縮性側索硬化症という[17]
検査
MRI

積極的に筋萎縮側索硬化症の診断に寄与するMRI所見は明らかになっていない。他疾患の除外のため、頭部MRIや脊髄MRIを行う。
神経伝導検査

神経伝導検査は脱髄性ニューロパチーの除外のために必須である[18][19]
針筋電図

針筋電図は下位運動ニューロン障害を鋭敏に検出するのに有用である。身体を脳幹領域、頸髄領域、胸髄領域、腰仙髄領域の4部位に分類し、脳幹領域と胸髄領域では各1筋、頸髄領域と腰仙髄領域では神経根支配と末梢神経支配の異なる各2筋を選択する。
血液検査

筋萎縮性側索硬化症でもCKがしばしば高値になるが正常値の10倍以上になるのは稀である。
髄液検査

筋萎縮性側索硬化症でも脳脊髄液蛋白上昇は認められるが100mg/dL以上になるのは稀である。
神経心理検査

ALS患者ではFTDの部分的な症状を示すことが多く[20]神経心理検査で評価される。ALS-FTD-Qは主介護者が質問に答える正確変化・行動異常の評価である。ALS-FTD-Q日本語版の妥当性と有効性が評価されている[21]。認知機能障害の評価としてはMoCA-Jがしばしば用いられる。包括的な評価としては ⇒ECASが知られている[22]
診断

運動ニューロン障害の徴候脳幹頸髄胸髄腰仙髄
下位運動ニューロン徴候
筋力低下
筋萎縮
筋繊維束性攣縮下顎、顔面、口蓋

喉頭頸部
上腕、前腕

横隔膜背筋
腹筋背筋
腹筋
下肢
上位運動ニューロン徴候
反射の病的拡大
クロ?ヌス下顎反射亢進
口尖らし反射
偽性球麻痺
強制泣き・笑い
病的腱反射亢進腱反射亢進
Hoffmann反射
痙縮
萎縮筋腱反射保持腹皮反射消失
腹筋反射消失
痙縮腱反射亢進
Babinski徴候
痙縮
萎縮筋腱反射保持

筋萎縮性側索硬化症の診断は上位運動ニューロン徴候(腱反射亢進、痙縮、病的反射)と下位運動ニューロン徴候(筋萎縮、線維束攣縮)が多髄節にわたって認められること、症状が進行性であり、かつ初発部位から他部位への進展が認められること、類似の症状をきたす疾患の鑑別が必要である。1994年に世界神経学会は臨床所見からなる筋萎縮性側索硬化症の診断基準(El Escorial基準)を提唱した。El Escorial基準では診断確実度にグレード(definite、probable、possible、suspected)をつけ、probable以上を治療介入の基準とすることを目的とした。身体の運動支配領域を脳幹頸髄、胸髄、腰仙髄の4領域に分けて、2領域において上位・下位運動ニューロン徴候を示す所見があればprobable、3領域にあればdefiniteとするわかりやすいものであった。しかしEl Escorial基準ではprobable以上と診断される感度が非常に低く、筋電図所見を加えるべきとの意見が強く出されたため1998年に筋電図所見を加えた改訂El Escorial基準(別名、Airlie House基準)が作成された[18]。さらに2008年に国際臨床神経生理学会から筋電図での脱神経所見と臨床的な筋萎縮とを等価と判断する提言(Awaji基準)がなされた[23]。2014年にはUpdated Awaji基準が提唱された[24]。2019年にオーストラリアゴールドコーストでGold Coast ALS診断基準が作成された[25]。これは体の一部位に進行性の上位運動・下位運動症候があり、他の原因が除外されればALSと診断できる。この診断基準の正確度もすでに報告されている[26]

上記の診断基準はあくまでも治験用の基準であり、日常診療用に作成されたものではない。そのため、進行速度や臨床像、画像などから筋萎縮性側索硬化症以外に考えにくいと判断すれば、その時点で筋萎縮性側索硬化症との診断を伝えるのが望ましいと考えられている。
鑑別診断

古典型筋萎縮性側索硬化症の鑑別疾患には変形性脊椎症多巣性運動ニューロパチー封入体筋炎脊髄性筋萎縮症平山病、キアリT型奇形などがあげられる。


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