彼女の大腿骨は骨頭が小さく、骨頚が短い。それらは原始的な特徴ではあるのだが、一方で大転子は(大腿骨頭より高位にならず)明らかに短くなり、現生人類に近づいている。
彼女の大腿骨の長さに比べた上腕骨の長さの比は84.6%である。現代人の71.8%、一般的なチンパンジーの97.8%に比べると、アファール猿人の腕が短くなり始めているか、足が長くなり始めているか、あるいはその両方が同時進行しているかのいずれかを意味している。ルーシーには、別の二足歩行の指標といえる腰椎の前弯も見られる。偏平足とは異なる非病理的な平らな足を持っていたが、他のアファール猿人には反った足も見られる[32]。 ルーシーの骨盤は、類人猿よりもヒトのものに近い。これは、その頭骨が類人猿のものに近いことと対照的である[33]。その構造は上半身を支えるために必要な機能をひとまず備えており、安定性に欠けていたと推測されているとはいえ、直立二足歩行をしていたことをうかがわせる[34]。 ジョハンソンは、ルーシーの左の坐骨と仙骨も復元することができた。仙骨の保存状態は明らかに良かったが、坐骨は歪んでいた。この二点からは、異なる特質が浮かび上がってくる。仙骨は、iliac flareがほとんどなく、実質的にanterior wrapを持たないので、類人猿に近い腸骨を形成している。ただし、この復元には欠点もあることが明らかになった。もし右の腸骨が左と同じでなければ、恥骨上枝
骨盤
ティム・ホワイトによる坐骨の復元は、広いiliac flareを持ち、はっきりしたanterior wrapを示している。このことは、ルーシーが普通ではない寛骨臼内部のゆとりと、普通ではない長い恥骨上枝を持っていたことを意味する。彼女の恥骨弓は現代の女性に似て90度を超えている。しかしながら、彼女の寛骨臼はチンパンジーのそれのように小さく原始的である。 ルーシーの全身骨格は比較的保存状態が良かったが、頭蓋骨については破損が大きく、復元は困難だった。このため、アファール猿人の頭骨が完全に復元されたのは、AL444-2が発見された1992年以降のことだった[35]。しかし、他のアファール猿人の頭骨との比較から、ルーシーの脳容量は400cc未満と推測されている[36]。その容量はチンパンジーのものとほとんど変わらず、脳の大型化の傾向と無縁だが、構造上の進化の形跡は推測できるという[37]。 かつては脳の大型化と直立二足歩行の進化は連動していると考えられていたが、そのような旧説に見直しを迫るものだった[38]。 アファール猿人の多くの個体の下顎の構造を研究した結果、ルーシーの顎はほかの猿人のものにあまり似ておらず、むしろゴリラのような外観を備えていた[39]。研究者の中には、Y.ラックのように、この顎の構造はアファール猿人をホモ属とアウストラロピテクス・ロブストゥスの共通の先祖に位置付けるには派生的過ぎると考える者もいる[6]。 2000年にハダールにも近いディキカ ルーシーの知名度は世界的に高くなった。その知名度ゆえに、ビートルズの曲は化石人骨に触発されてつくられたものだと、曲と人骨の関係を全く正反対に捉えている者たちまで現われる始末だった[41]。 ルーシーの名前は、エチオピアでは小さな町の飲み屋の名前にまで使用例が見出せたといい[42]、同国ではサッカーの「ルーシー記念杯」というものもあったという[43]。 また、ルーシーの最期に思いを巡らせた文学作品として、ジャン=リュック・シダ『ルーシーの選択』(1993)、アンドレ・シェディド『直立した女性ルーシー』、ピエール・シャファー『ファーベルとサピエンス』等がある。なかでもイブ・コパンは、ルーシーの内面的・外面的世界を、複層的な時間・空間を往来するものとして神秘的に描き出し、このようなルーシー像に触発されたフランスの医学者クロード・ロランが、同種の体験を伴う分裂病の症例あるいは3歳児頃の発達段階に「ルーシー・コンプレックス」と名付けるに至った。他方、スポーツ医学の分野ではピエール・ラルドーが大腿屈筋群に現れる症状を「ルーシー症候群」と名付けている[44]。 日本の国立科学博物館では、文部科学省と科学技術振興機構による「女子中高生の理系進路選択支援事業」委託業務でマスコットキャラクターに採用された。女性の大先輩であることにちなみ、2008年度から2009年度に行われた女子中高生向けイベント「ルーシーと私の楽しむカガクの時間」で使用された[45]。
頭蓋
その他の発見
ルーシーの赤ちゃん詳細は「セラム」を参照
社会的な影響
脚注[脚注の使い方]^ a b コパン (2002) p.165、河合 (2010) p.41
^ “ ⇒Lucy's legacy: Discovering our most famous ancestor”. The Houston Museum of Natural History.. 2007年9月10日閲覧。