ルベーグ積分
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ルベーグ積分はこの重要な仕事をするために必要な正しい抽象化を与える。例えば、フーリエ級数などの関数列の極限として表される関数に対して、積分と極限操作が可換となるかどうかをリーマン積分で考えると非常に繊細な議論が必要だが、ルベーグ積分では、積分と極限操作の交換が可能であるための簡単な十分条件が分かっている。

ルベーグ積分は実解析と呼ばれる数学の分野に属する確率論や、他の多くの数理科学分野において、重要な役割を果たす。ルベーグ積分という名前は、その積分を導入した数学者アンリ・ルベーグ[1][2] (Henri Lebesgue, 1875?1941) に由来している。それはまた公理的確率論(英語版)の中枢部でもある。

「ルベーグ積分」(Lebesgue integration) という用語は、カラテオドリに始まる一般の測度に関する関数の積分の一般論を意味することもあるし、ルベーグ測度に関して実数直線(あるいは n-次元ユークリッド空間)の特定の部分集合(特にルベーグ可測集合)上定義されたルベーグ可測関数を積分するという特定の場合を意味することもある[3]
導入

積分を厳密なものにしようという動きは、19世紀からである。ベルンハルト・リーマンが提案したリーマンの積分はこの目的に向けて大きな前進であった。リーマンは関数の積分を「簡単に計算できる積分」で近似することによって定義した。この定義による積分は、それまで解答が知られていた問題に対してそのままの結果をもたらしたし、他の問題に対しては新しい結果を与えることになった。しかし、リーマン積分は関数列の極限と相性が悪く、積分と極限が同時に現れるような場面では解析が困難な場合がある。それに対して、ルベーグ積分は、積分記号の下での極限がより扱いやすくなっている。ルベーグ積分は、リーマン積分と異なる形の「簡単に計算できる積分」を考えており、このことがルベーグ積分がリーマン積分よりよく振舞う理由となっている。さらに、ルベーグ積分ではリーマン積分より広い種類の関数に対して積分を定義することが可能になっている。例えば、無理数で 0 を有理数で 1 をとる関数(ディリクレの関数)を閉区間 [0, 1] 上で考えると、リーマン積分では積分が定義されないが、ルベーグ積分では積分できる。
直感的な解釈リーマン積分(青)とルベーグ積分(赤)

積分の定義方法の違いを直感的に理解できるように、山の(海抜より上の部分の)体積を計算する例を考えよう。この山の境界ははっきりと定まっているとする(これが積分範囲である)。
リーマン積分による方法
ケーキを切るときのように、山を縦方向に切り分けて細分する。このとき、各パーツの底面は長方形になるようにする。次に、各パーツで最も標高が高いところを調べ、底面の面積とその標高を掛け合わせる。各パーツごとに計算したその値を足したものを、上リーマン和と呼ぶことにする。同様のことを、最も標高が低いところに対して行い、下リーマン和と呼ぶことにする。分割を細かくしていったときに、上・下のリーマン和が同じ値に収束するときに、リーマン積分可能であるといい、その極限値が山の体積になる。
ルベーグ積分による方法
山の等高線を地図にする。等高線にそって地図を裁断して、地図をいくつかのパーツに分解する。各パーツは面積を計算できる平面図形なので(測度が分かっているので)、パーツの面積とそのパーツの最も低い点の標高を掛け合わせる。各パーツのこの値を足したものを「ルベーグ和」と呼ぶことにする。この「ルベーグ和」はルベーグ積分の構成にあった、単関数の積分に相当する。等高線の間隔を半分にしていったときの「ルベーグ和」の極限値が山の体積になる。

有理数体 Q {\displaystyle \mathbb {Q} } の定義関数 1 Q {\displaystyle 1_{\mathbf {Q} }} (ディリクレの関数)を考える。この関数は至るところ不連続である。

1 Q {\displaystyle 1_{\mathbf {Q} }} は [0, 1] 上でリーマン可積分ではない:[0, 1] をどのように区間に分割しても、各区間には有理数と無理数の両方が少なくとも1つは入っている。よって、上積分は常に 1 であり、下積分は常に 0 になり、リーマン可積分ではない。

1 Q {\displaystyle 1_{\mathbf {Q} }} は [0, 1] 上でルベーグ可積分である:集合の定義関数の積分は定義より ∫ [ 0 , 1 ] 1 Q d μ = μ ( Q ∩ [ 0 , 1 ] ) = 0 {\displaystyle \int _{[0,1]}1_{\mathbf {Q} }\,d\mu =\mu (\mathbf {Q} \cap [0,1])=0}

定義のための準備

ルベーグ積分を定義するためには、測度の概念が必要になる(これは言ってみれば、実数からなる集合 A に対し、集合 A の「大きさ」となる非負の実数 μ(A) を割り当てるものである)。ここでいう「大きさ」というのは、区間や区間の非交和に対してはそれらの通常の意味での「長さ」に一致するべきものである。さて函数 f : R → R + {\displaystyle f:{\mathbb {R} }\rightarrow {\mathbb {R} }^{+}} は非負実数値函数であるものとして、「f の値域を分割する」という考えのもと、f の積分は y = t と y = t + dt の間にある水平な細い帯状領域が占める基本面積を t に関して加えた総和となるものである。このような基本面積はちょうど μ ( { x ∣ f ( x ) > t } ) d t {\displaystyle \mu (\{x\mid f(x)>t\})\mathrm {d} t} に等しい。ここに f ∗ ( t ) := μ ( { x ∣ f ( x ) > t } ) {\displaystyle f^{*}(t):=\mu (\{x\mid f(x)>t\})} と置けば、f のルベーグ積分は ∫ f d μ = ∫ Ω f ( t ) μ ( d t ) := ∫ 0 ∞ f ∗ ( t ) d t {\displaystyle \int f\,\mathrm {d} \mu =\int _{\Omega }f(t)\,\mu (\mathrm {d} t):=\int _{0}^{\infty }f^{*}(t)\,\mathrm {d} t} と定義される[4](ただし、右辺の積分は広義リーマン積分の意味でとる。f* が非負の単調増大函数であり、したがって区間 [ 0 , ∞ {\displaystyle 0,\infty } ] に値をとる広義リーマン積分が定まることに注意する)[4]可測函数のクラスに属する函数に対して、これはルベーグ積分を定義する。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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