ルネサスエレクトロニクス
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また、震災によりルネサスからのマイコンの供給が滞った際、トヨタの工場が停止する事象も起きている。この理由として、トヨタは在庫を持たない「ジャストインタイム」方式を取っている、ティア1でサプライヤーを分散させてもティア2・ティア3がほぼ同じサプライヤーから調達している「たる型」の下請け構造となっている、コストの問題から「分散生産」をせずにパーツを特定の工場で製造している、などが挙げられている[10]。トヨタは特定のサプライヤー(デンソーアイシン精機)への依存を避けるため、2000年代以降に下請けを分散させる方針を取っていたが、2011年の東日本大震災で那珂工場が被災した際、ほぼすべてのサプライヤーが2次下請けであるルネサスの那珂工場からECUを調達していたことが判明し、問題となった[11]。これは2016年時点でも解消されておらず、2016年に熊本地震で川尻工場が被災したために再びトヨタの工場が休止した[12]。ただし、海外でも「Kanban」として知られるトヨタ生産方式は世界の自動車業界の標準であり、ルネサスと日本の自動車業界だけが特殊というわけではない。2020年から2021年にかけてのコロナ禍における半導体不足の状況下で、2021年2月にNXPとインフィニオンのオースティン工場がテキサス寒波による停電で停止し、同年3月にルネサス那珂工場が火災で停止した際は、世界のほぼ全ての自動車工場が稼働を停止した[13]

ルネサスの工場が停止するとトヨタや他の自動車メーカーのみならず日本国の経済にも影響を与えるため、ルネサスの工場が停止した際はトヨタグループや日産ホンダなどの自動車業界だけでなく、ルネサスに半導体露光装置を納品しているキヤノンやルネサスの母体である三菱電機、日立、NECなどが支援に動く。2011年の東日本大震災時には、自動車関連の完成車メーカー、部品メーカー各社が加盟する日本自動車工業会(自工会)主導で復旧支援にあたることとなった。そして、母体三社にも支援してもらうべく、トヨタはNEC、日産は日立、ホンダは三菱電機と分担して支援要請を行い、三社の支援をこぎつけた。また、壊滅的な被害を受けた半導体露光装置は新規に製造する時間もないことから修理で対応するしかなく、製造元のキヤノンの支援が不可欠だったが、キヤノン自体も被災しており支援する余力は少なかった。しかし、そのような状態でもキヤノンは支援要請に応じ、ベテランの技術者を派遣し早期復旧に貢献した。この結果、那珂工場は3か月という驚異の速さで復旧した[14]

このような支援体制は以後もたびたび見られ、2016年の熊本地震で機材が損壊した川尻工場は1週間で復旧した。2021年2月の福島県沖地震で停止し、同年3月に火災で再び停止した那珂工場の復旧には経済産業省からも支援が入り[15]、24時間体制で復旧に当たったことにより、火災で真っ黒になったクリーンルームが1か月で復旧した。この際、ルネサス社長兼CEOの柴田英利は「通常では考えられないような奇跡的な支援を受けて、予定よりも早く生産を再開できた」と述べている[16]。2021年に那珂工場が出火した後の復旧に関する日経の調査によると、ルネサスが本社を構える東京都江東区から那珂工場に派遣された応援よりも、愛知県豊田市(トヨタ)、神奈川県厚木市(日産)、大阪府池田市(ダイハツ)から派遣された応援の方が多く、特に愛知県からは圧倒的な人員が投入された[17]。これがそのまま2021年時点のルネサスの、自動車メーカー各社のサプライチェーン(供給網)への影響力の甚大さを表しているとしている。
関係性の深さによる問題点

震災時などの緊急時にはプラスに働く自動車業界との緊密性だが、トヨタを筆頭に自動車メーカーの意向が働きすぎるという問題点も指摘されている。例には以下のようなものがある。

2012年にルネサスが経営危機に陥った際、アメリカの投資ファンドであるKKRによる買収が検討された。この買収はルネサスの出資要請にKKRが応じた形の双方合意によるものであったが、
経済産業省が待ったをかけ、政府系ファンドである産業革新機構が議決権ベースで株式69%を取得して事実上の国有化、他にもトヨタなど国内企業8社が出資を行った。これは、ルネサスが自動車の核心部品であるマイコンの国内市場で5割を超える圧倒的なシェアを保持していたことから、外資傘下に入ることで、日本企業の製品の心臓部に関わる情報の流出を恐れた経産省と、マイコンの安定的な供給がされなくなるのではという国内自動車メーカーの警戒感によるものだった。この介入によってKKRとルネサスの買収は破談となり、KKRの創業者であるヘンリー・クラビスは「日本は投資環境として10点満点中2?3点。アジアでも有望市場ととらえてきたが、『ある案件』を通じて、日本は閉鎖経済のままだと分かった」と述べ、当時のルネサス社長の赤尾泰は「こんな結果で申し訳ない。我々に主体性はないんですよ」とKKRの幹部に謝罪した[18]

自動車メーカーはルネサスから相場よりも割安で部品を購入しており、これがルネサスの経営悪化につながったという指摘もある。産業革新機構主導による買収後にも、ルネサスの企業価値を高めるために部品を値上げして収益力の向上を目指したい産業革新機構と、できるだけ安く買いたいトヨタ側で対立があった[19]

2015年に産業革新機構が保有株の売却を検討した際、国内メーカーを中心に打診して日本電産(現ニデック)が名乗りを上げた。しかし、「独ボッシュのような巨大な部品メーカーを目指す」と公言する日本電産永守氏がルネサスを手中に収めれば「力が強くなりすぎて半導体を安く安定的に買えなくなりかねない」との危機感からトヨタグループをはじめ株主の自動車各社が結束して介入、最終的には日産最高執行責任者(COO)を務めた経験のある産業革新機構の志賀会長が日本電産本社のある京都に出向いて正式に断った[20]

東日本大震災時、復旧後の生産開始日の決定はルネサスが決定すべきことであるが、支援を行った自工会とのルネサスによる合意で決定するものとされた。

以上のように、ルネサスは自動車業界の意向で経営が左右されることが多く、たびたび問題となっている。しかし、近年では半導体不足の影響を受けて自動車メーカーが購買戦で敗北することも見られ、ルネサスとトヨタなどの完成車メーカーの「主従関係」に変化が見られ始めている[21]
前身
ルネサス テクノロジルネサスのSH-Naviを採用したカーナビ、パナソニック「Strada」。スマホ時代の到来とともに国内携帯市場をも失い、最終的に車載情報機器(カーナビ)専用マイコンとなったSHマイコンだが、東日本大震災(2011年)による出荷停止がとどめとなり、車載用としてもARMコアに置き替えられてディスコンになった

1980年代後半のバブル時代には売上高7兆円を超える世界最大の電機メーカーだった日立製作所は、1990年代にはコンピュータと半導体に力を入れることによってバブル時代を上回る売上高を誇ったが、半導体市場は不安定で、1996年より半導体価格の下落によって業績が悪化し、1998年にはDRAM市況の悪化によってついに史上初の赤字に転落する。


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